見出し画像

【小説】『ココロ走る』第二章:交わる足跡編 第24話 希望は、迎えに行くもの

 5月の爽やかな風が若葉を揺らす季節。
淡路島マラソンリレーに申し込んだ7人は、チーム練習に打ち込んでいた。

平日は各自で練習。基本は水曜と金曜の朝5時半に大阪城。そして日曜は鶴見緑地で走る。中学のクラブではないので、あくまで任意参加だ。仕事もあるので、皆に任せている。私はほぼすべてに参加した。

一番来れなかったのは陽介だった。営業トップとして仕事が詰まると、走る時間が取れなくなる。私とは逆だ。私は仕事前に走って、血流をよくしてから働いた方が頭が冴える。とはいえ、陽介も日曜のチーム練習には大体参加していた。

———そんなある日、一通のメールが届いた。送り主は「玉ねぎリレー運営委員会」

大会の延期……。

コロナ蔓延防止のためらしい。他の大会でも見られる対応で、仕方ないと頭では理解した。でも、気持ちは追いつかない。

目標を失った私たちのチーム練習には、笑顔が消えた。走っていても、どこか覇気がない。

「何のためにやってたんか、わからへんわ」
と陽介が言う。

「ハシゴ外された感じですよね。実際」
と水嶋が続けた。

「けど、伊藤さん練習あんまり来てなかったから、言う資格あるんかな」
松田がボソッと呟いた、そのとき。

「おい、松田! ええ加減にせぇよ! 陽介さんの仕事がどれだけ大変なんわかるやろ! 」
聡太が声を荒げた。実際、コロナ禍の離職が相次ぎ、陽介の担当する不動産売買の部門は人手不足でてんてこ舞いだった。土日に契約が多く、睡眠時間も足りてなかった。

……聡太がしっかりキャプテンになっている。
私はその姿に安堵した。

「そこで提案やけど、一旦延期になった玉ねぎは来年に置いといて、和歌山ジャズマラソンにエントリーせぇへんか? 」
と私が言った。

「和歌山“ジャズ”って、マラソンに音楽要素あるんですか?」

桐谷が首をかしげる。

「私が出られる種目ある? 」と明美。

「和歌山ジャズマラソンは、ハーフ、10キロ、5キロ、2キロとバリエーション豊富やし、距離を調整しやすいからちょうどいいと思って」
「あと、ところどころでジャズの演奏をしてくれて応援してくれているらしいで」

「いいっすね。楽しそう! 」
「俺、久しぶりに10キロ頑張ります」
聡太が即答した。

「私はじゃあ、2キロかな? 」
と明美。

「僕も」
「俺も」
と桐谷、水嶋、松田も2キロに手を挙げた。

「俺は……ハーフにエントリーします」
と陽介が言った。

その瞬間、空気が止まった。
長い沈黙の後、水嶋が軽く冗談を飛ばそうとした。

「とか何とか言っちゃってぇ」

だが、陽介は真顔でこう言った。

「マジやで、俺」

皆陽介の性格を知ってそれ以上の言葉を挟まなかった。

「森山さんは、10キロですよね?」
と重い空気を振り払うように颯太が聞いた。
その言葉を遮るように、私は言った。

「俺も陽介とハーフ出るわ」

私のハーフは、10キロの経験が何度かあるので想像できる。でも、陽介がハーフに挑戦すると言ったのは驚きだった。
ともかく、本番は11月13日(日)だ。

その前に、私はもう一つ提案した。

「せっかく準備してきた玉ねぎリレーが延期になったんは残念やけど、来年必ずリベンジしよう」「それと、6月5日。元々の大会の日に、俺たちだけの“タマネギリレー”やらへんか?  」
「KRTだけのリレーマラソン」

「ほんまっすよね! 鶴見緑地で21周走りましょう! 」
「みんなでタスキ繋いで」
聡太が言う。

「よーし、やるぞー! 」
松田が拳を突き上げた。

「そうやそうや! 」
「やろやろ! 」
口々に声が上がる。

——希望は、待つものではなく。迎えに行くもの。

私たちは、下を向かない。

いいなと思ったら応援しよう!