【小説】『ココロ走る』第二章:交わる足跡編 第17話 走る理由、広がる輪
陽介と走り始めて、三ヶ月が経った。
年が明けて、2022年。世間は依然としてコロナ禍の真っ只中だった。
オミクロン株の流行、三回目のワクチン接種。経済は思うように動かず、町の飲食店も次々に閉店していった。
けれど、私は少しずつ前を向いていた。
あの11月のエコマラソン以来、生きることへの自信が湧いてきた。
仕事も、走ることも、順調だ。
無人のタブレット案内、Zoom会議、リモートワーク――いつの間にか、どれも日常になっていた。
会社の方針で、接触を避けるため飲み会は禁止されていた。
人々が遊ぶことを忘れたような空気の中、陽介と私は走ることに夢中になっていた。
多いときは、週に三回。寒い日でも、2人で走った。
そんな2月の寒いある朝、大阪城公園の集合場所に向かうと、聞き慣れない声が響いた。
「おはようっす!」
「おはようって……お前、木下? 何してんねん?」
「僕も走るっす! 入れてくださいよ、仲間に! 」
「もと陸上部っすよ!しかも中距離専門」
木下聡太、22歳。会社の若手ホープ。営業成績は新卒一年目にして陽介の次にいい。
「お前家、遠くないか? 」
「大丈夫っす! ビシバシ僕がメニュー組みますよ! 僕にドーンと任しといてください! 」
なるほど、さすが元陸上部。走るフォームが綺麗で、お手本にしたいくらいだ。
「陽介の仕業やな。この時間と場所、木下が知ってるわけないからな」
「バレましたか。木下、前からずっと走りたいって言ってたんですよ。だから、サプライズで」
木下が急に神妙な顔で、
「俺も…ずっと何か自分を変えたくて、今の自分が嫌いで、陽介さんに森山さんの話聞いて…もう一回、走りたいなって」
「……まあ、ええか」
それから、私たちは三人になった。自然と、チームになっていた。
不思議と、会社でも連帯感が強くなった気がした。
走ることで、なぜか仕事も、前より少しだけ楽しくなった。
