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【小説】『ココロ走る』第三章:風を継ぐ者たち 編 第35話 明美のココロ

 仲間と過ごす明るく楽しい時間の陰には、それぞれが抱える不安や葛藤もある。日常の中で揺れる心と向き合う、私たちのもう一つの物語。

———

 5月29日月曜日、天気はいまいちパッとしない。明美から仕事中に電話があった。仕事中にかけてくることは滅多にない。接客中で電話は取れなかった。
そして、ひと段落した後、電話で
「もしもし、どうした?」
「……言うかどうか迷ったんだけど、ちょっと怖くて電話した」
「何があった? 」
「検査、乳がん検診引っかかって、検診の先生が『再検査してみましょう』って言われた」
「……えっ? じゃあ……それって、もしかして……? 」
「そう、私も初めて言われたから、思わず電話してしまったの」「ごめんなさい。仕事中に」
「いや、で、いつ再検査? 」
「早い方がいいからって、明日予約した……」
「そうか、でもまだ何もなってない可能性だってあるんやろ」
「うん、そっちの可能性の方が高いみたいだから、気にしないでおくわ」
「うん、そうそう。俺も今日は早めに帰るわ」
と、言って電話を切った。
私自身も10年前に喉の声帯ポリープを手術したときに、一旦は「悪性かもしれない」と言われたことがある。
初めて言われたときは怖かった。それを聞いた後、雨が降ってる中、傘を持ってるのにささず歩いて帰ったのを覚えている。
そのときは、再検査して、声帯ポリープは良性と分かり安堵した。

明美は普段から我慢強いし、なかなか泣き言は言わない。よっぽど堪えたのだろう。

———今日は話をいっぱい聞いてやろう。

 案の定帰るとすぐに
「そう言えば、私医療保険入ってたから、もしものときも安心ね」
……と言いながらも、指先が震えていた。
明日を迎える前に、いろいろ覚悟がある。それと、萌花と綾が不安がらないよう気丈には振る舞っているようだ。
私も「大丈夫、何もないよ」
「もし、なんかあっても今の医学は進んでるから」と勇気づけた。

———明くる日

私はいつも通り、会社に行き、明美は検査に出かけた。子供達はそれぞれ学校だ。

———電話が鳴った。
「はい、もしもし! 明美、どうだった? 」
「違うかった! でも6ヶ月ごとに様子見るってことになった」
「よかったーーー! 」
「うん。本当に……よかっ……」
電話の向こうで明美は泣いてた。
私も涙が止まらなかった。

いつも私を、いや、私たちを全力で支えてくれる明美。
その明美に何かあるって言うのは本当に耐え難い。
何かあるときは「自分であれ!」と心から思っていた。
時々、料理していて「いたっ」と指を切ったりするときも、風邪ひいてつらそうにしているときも、私が全部代わりたい。
私にはもったいない、よくできた妻。

私に走る力をくれる人。それが明美だ。
忘れてはならない。絶対に。



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