【小説】『ココロ走る』第二章:交わる足跡編 第19話 みやけマラソン 陽介編
「ずるいっすよ! 何でエントリーしてないんですか? 」と木下。
「いや、だって木下と走り出したんはエントリー期間終了後やし」
「そんな大会あるなら伊藤さんも教えてくださいよーー。3キロやったら10分切る自信しかないのに」
「じゃあ、次エントリーするときは絶対声かけるわ」
木下はちょっと悔しそうに息を整えてから、
「今回は応援にまわります! 俺の分までがんばってくださいよ! 絶対に」
木下はまだ何か言いたげだったが、息を整えるように深呼吸し、走りに戻った。
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みやけマラソン
大阪から電車で行くのは遠いが、車で行くと近い。大阪から40キロほど離れた奈良県の小さな町で開催される、地域密着型の大会だ。
森山は10キロ、陽介は3キロにエントリーしていた。
大会まではあと三週間。
春の匂いがかすかに漂い始めた空の下、私たち足音は確実に、その日へと向かっていた。
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大会当日2月27日(日)
いつもより早く目覚めた私は、今日こそ忘れないようにオークリーのサングラス、NIKEの帽子をつけて、車に乗り込む。
明美、萌花、綾を乗せて三宅町へ向かった。所要時間は45分ほどだ。
陽介は木下と二人で車で行くと、昨日LINEで連絡があった。
あらかじめ会場近くのコインパーキングをタイムズのサイトから予約していたので、待たずにすぐ停められた。
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「森山さーーん」
陽介の声だ。奴の声はよく通る。
会場で直ぐに会うことができた。
大会委員のあいさつ、諸注意を聞いたら、木下主導でのストレッチだ。
まるでキャプテン気取りだ。号令も頼まれてないのにやってくれている。
「イッチニーサンシー」
体がほぐれていく。
緊張とアドレナリンが同時にくる、大会前の独特な高揚感。
しかし、まだ出番ではない。
先に陽介の3キロだ。
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スタート地点の陽介は、やたら雄弁に喋り出した。
ランナーによっては集中するため目を瞑る人や音楽を聴く人もいるようだが、陽介はやたらしゃべる。
「俺ここに立ってるの不思議なんです」
「森山さんと走るまでは、走るって暑苦しいだけとか、足しんどいとか言ってました」
「でも、その自分が今ここにいて、スタートラインにいる」
「何か……ほんまに……ありがとうございました! 」
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スタート前、ランナーたちが数多くいる中で陽介は深々と森山に向かって頭を下げた。
営業が鍛えた90度の最敬礼だ。さすがは営業ナンバー1と思わせるお辞儀だった。
しかし、タイミングが悪すぎる。
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スタートの号砲が鳴った。
頭を下げてる分だけ走り遅れた。
慌てて走り出す陽介の背中にエールをおくった!
「がんばれーーー!走れー陽介ー!」
木下は途中まで沿道で走って行った。
褒められた行為ではない。気持ちはわかる。
が、後で注意しよう。
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そして、陽介は真っ赤な顔して、歯を食いしばって、ゴール地点へ帰ってきた。
陽介の前には、おそらく中学生のクラブチームの女性ランナーが2人並んでいた。
陽介はその2人をゴール前で抜きさった。
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「がんばれーー、後少し、後少し!」
「もう少しっす!ファイトー!」
「よーすけーーーー!ラストスパート!」
ゴーーーール!
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タイムは16分02秒。
何人走ってるか公表されなかったが、大会記録では9番だった。
速い遅いは問題ではない。
陽介のベスト更新だ!
最後はばてても走りきった。偉いぞ陽介。
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陽介はその場で倒れこんだ。
明美が介抱に走る。
「陽介君! やったね! がんばったね! 」
「フーー! しんどーーー! でも何かいいですね、きもちいい! 」
「ありがとうございます、明美さん。次は森山さんですね! 森山さんは? 」
「もうスタート地点でスタンバイしてる」
「明美さん、行ってあげないと! 応援、応援」
「僕も行きます! 木下、木下は? 」
「大丈夫。子供も木下君もついてるから」
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大会進行の関係上、3キロの後すぐ10キロが始まる。
ウォーミングアップそこそこに、私はゴール地点からスタート地点へと移動して準備を整えた。
しかし、実は心の準備はもうできている。
走りたい!
陽介の歯を食いしばって走りきった姿を見た私の闘志は、烈火の如くだ。
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走り終えた陽介は力を振り絞って、立ち上がり明美を促しスタート地点へ急いだ。
幸いまだ、スタート1分前だった。
「森山さん、明美さん連れてきました! 」
「陽介、お疲れさん! ナイスラン」
「めっちゃカッコよかったで! 」
「最後2人女の子を抜いたんは頑張ったな! 」
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陽介の方に向けて親指立てて、グッジョブ!
仕事でも契約決めたときよくやるやつだ。
真剣に陽介は照れていた。
木下はキャプテン気取りで、陽介に労いと、ちょっとしたダメ出しをぶつぶつと繰り返していた。
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号砲1発!
いよいよ俺の番だ。これまでの練習も、陽介の頑張りも、この10キロにぶつける。負けるわけにはいかない。
