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【小説】『ココロ走る』第12話 10キロの壁

 11月3日の富田林エコマラソン本番に向けて、
ランニングも仕事も全力で向き合う日々。
体調は驚くほど安定してきた。
血圧も落ち着き、心も穏やか。
血圧の薬と心の薬は、まだ中村先生のやめていい許可が出ていないから、飲み続けている。
それすらも「もう少し」と思えるくらい、今は調子がいい。

人って、何か目的があるときにこそ、本当の強さを発揮するのかもしれない。



 10月半ばにさしかかり、暑すぎた夏がようやく終わり、空気が少しだけ軽くなった。大阪城の銀杏並木も、うっすら色づき始めている。
本番まであと数週間というある日、私は10キロを通して走ってみることにした。
大会当日を想定した、“予行演習”だ。

いつものように大阪城一周とかではなく、できるだけ本番に近い練習。
つまり、止まらずに走りきる。

──それが、こんなにも苦しいなんて。

3キロ付近まではリズムよく走れるが、5キロ手前からだんだん呼吸がしにくくなる。それを超えると、足が前に出にくくなる。
「10キロを分けて走る」ならなんとかなりそうだが、続けて走るのは相当しんどい。

今までのランニングでは立ち止まる余白があった。
苦しかったら、止まって水を飲み、呼吸を整えながら進めばよかった。
でも本番ではそれはできない。いや、したくない。走り続けなければならない。

10キロの壁は、想像していた以上に高く、圧倒的な存在感で私の前に立ちはだかっていた。

思えば、夏の間は炎天下を避けて、ジムのトレッドミルでのランが中心だった。
地面の感触も、風も、傾斜もないあの環境に慣れた体では、外での連続走行がこたえる。

「別に歩いてもいいんじゃない?」
明美はそう言ってくれた。
その私の体を気遣う優しさが、ふと胸に響く。
「歩いてもいい」その言葉が、
一瞬、心を揺さぶった。
でも──
この1年、自分が積み重ねてきたもの。
走れなかった日々、心をすり減らした時間、
やっと走れるようになったあの春。
その全てに、しっかり応えたい。

———走りきりたい。
10キロ、止まらずに。

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