Missing - 第四章「my friend」【創作大賞2026ミステリー小説部門応募作】
私と美麗の出会いは偶然なんかではなく、必然の出来事だった。
美麗は私の家の真向かいに住んでいて、お互いの両親が仲良くなったこともあって言葉が話せない時から遊んでいたらしい。今でもその時の写真を見返すことがある。
気づいた時には傍にいた。そんな関係。
小学生に上がる時にはお互いの家族で一緒にランドセルを買いに行ったり、お揃いのコーデをしたりしていた。休みの日にはたまにみんなで川原に行ってバーベキューをしたり、遊園地にも家族ぐるみで行ったりした。
「私たちずっと仲良しでいようね!」「もちろん!」そんなこともよく言っていたのを鮮明に覚えている。
そんな私たちはよく周りから「ふたごちゃん」と言われていた。それを私も美麗も嬉しく、楽しく思っていた。
ただ、当然ながら私たちに血のつながりはない。年齢が上がれば明確な違いが出てくる。美麗の目はパッチリでまつ毛も長い。肌はいつも白くきめ細やか。笑った時にできるえくぼが印象的だった。一方の私は目が細く目つきはいつも悪い。そしてそばかすがあってそれがコンプレックスになっていた。歳が上がるにつれてどんどん美麗とのギャップを感じていった。
そして、まずは家柄で私がいじめられ始めたのだ。
始まりは小学三年生の時。
「お前、死体好きなんだろ?気持ち悪!」
ある日突然クラスの男子からそう言われたのが明確な始まり。
「え……」
私は突然のことで何も言えずに固まってしまった。
「そんなわけないでしょ!意味わかんない!」
しかし、私が固まっていても、すぐに美麗が前に立ってくれた。
「は?だってそいつの家、死体だらけなんだろ?気味悪うぅ!」
美麗が前に立つと、他の女子も加勢してくれた。
「大丈夫?」
美麗がそう言うと
「うん」
言葉は素直に出てきた。
私の家は代々葬儀屋を営んでいる。この地域の人は大体うちの葬儀場を利用していて、そのたびにとても感謝されていた。幼いころからそれを見ていた私はみんなから感謝されることをとても誇らしく感じていた。
今ならわかるが小学生とかのまだ「死」をちゃんとよくわかっていない年齢の子供からすると、私の家は単純に不気味だったのだろう。
その後も何度か男子から同様のからかいを受け続けた。時にはまるで私たちが人の命を奪っているかのようなことも言われた。そんなことが続いたある日、私は両親まで馬鹿にされている気分になって教室で思い切り泣いてしまった。するとすぐに美麗が来てくれて、男子をしかり、私を慰めてくれた。だが、今までの蓄積が爆発してしまったのか、すぐに泣き止むことは出来ず、美麗を含む数人の女子と共に保健室に連れて行ってもらった。
中学生にあがるとこのような直接的な被害はなかったものの、よく噂をされていたようだ。あの頃より少し成長して葬儀屋がなにをしている職業なのか理解し始めた人は増えたみたいだった。しかし、命を救う医者の娘の美麗と、尽きた命を送る葬儀屋の娘である私の仲が良いことを不思議に思う人は少なくなかったようだ。
しかも、美麗は小学生の時からいわゆる英才教育を受けていて頭も良く、誰にでも優しい人なのに対して私は特にとりえもない普通の女子。私はよく陰で「美麗を利用している」「美麗のおかげなのにいい気になっている」と言われた。
ある時、私が一人でいる時、ふいに耳元で囁くように言ってくる人がいたのだが、それも美麗が気づいてはっきりと自分の気持ちをぶつけていた。
「さゆりを馬鹿にする人は絶対に許さない!」
そう断言してくれた。
しかし、このようなことを後ろで聞く度に、美麗が前に立ってくれるごとに、みんなが言っていることの方が正しいという思いが強くなっていった。
不釣り合い、利用している、後ろでこそこそしているだけ、宇都宮にはなにもない。
ある日それが爆発してしまった。
「さゆり~お昼一緒食べよー」
「あ、ごめん、美麗、今日のお昼、ちょっと先生に呼ばれてて…。」
はじめはちょっとした嘘からだった。
「え、なんかしたの?誰先生?」
「あ、いや、高橋先生、多分授業の後に質問したことだと思う」
「なるほどね、そっか、じゃあそれ待ってるねー」
「ありがと」
そして私は教室をあとにして、図書室に向かった。
美麗に初めて嘘をついた。
罪悪感で胸が痛かった。美麗に嘘をついたってだけで泣きそうだった。
だが、あれ以上仲のいいところを周りの人に見せられないという気持ちが勝ってしまったのだ。その時は考えていなかったが、それくらい、そんな変な行動をとってしまうくらいに私は追い詰められていた。
その日はお昼休みが終わるまで図書館にいて、次の日からも徐々に徐々に美麗のことを避けるようになった。初めこそ美麗は「どうしたの?なんかあった?」と聞いてきたが、そのうちなにも言ってこなくなり、二か月後には美麗は別の人たちと、そして私は一人で過ごすようになっていた。
それからもお互いに話すことは無くなり、中一、二と時間は流れた。ただ、家が目の前なので何回も家を出る時に見かけていた。そしてその度に私の方から目を逸らしていた。
美麗がどんな顔をしていたかは知らない。
次に美麗と話したのは、中三の修学旅行、その出発の日だった。
私たちの中学校は中三の秋に二泊三日の京都、奈良観光へ行く。その時は美麗とクラスも変わっていたので、当然だが班行動とかでも一緒になることはなかった。
だがクラスは違っても美麗は目立つ存在なので噂は耳に入っていた。
美麗は中二の時に生徒会に所属し、三年生では副会長を務めた。そして、その時の生徒会長と美麗が付き合いだしたということをクラスの女子が話していたのを私は教室で読書をしながら聞いていた。
当時どのような感情になったか覚えてはいないが、全く違う世界に行ってしまったことだけは痛感した。
修学旅行の班は所謂「地味」な人たちで結果的に固められた。あぶれた人たちの寄せ鍋だ。私自身そっちの方がありがたい。もはやキラキラと輝く人たちとは目すら合わせられないだろうから。
一日目は移動日で、朝早くに学校に集まることになっていた。
「行ってきまーす」
「気を付けてね」「楽しんでくるんだぞ」
両親にそう言われ、いつもより少し大きい荷物を持って私が家を出ると美麗もちょうど家を出たところだった。
久々にちゃんと正面から顔を見た気がする。
いつものように私の方から顔を逸らし、歩き出した。いつもは自転車で通学しているのだが、今日は荷物が多いので徒歩だ。別にそんな大した距離ではないので平気なのだが、美麗も今日は徒歩で通学するようで少しきまずいなと思った。
いつもならこういう時に自転車ならペダルを踏み込んで距離を空けるのだが、今日は荷物も重いしそれが叶わない。仕方なく気持ち早めに歩くことに。
そうして歩いていると、ふと頭に違和感が過った。そういえばさっき見た美麗の顔、なにか違和感がある。久しぶりに美麗の顔をしっかりと頭に浮かべる。先ほど見た顔と私の中に居る美麗を比べる。
そしてわかったのだ。美麗は薄くではあるが化粧をしているの。
親は結構厳しいはずだが、化粧が許されたのだろうか?学校でも禁止されているはず。美麗がそんなことするとは思えない。確かにいわゆるイケイケの女子たちは密かに学校でも化粧していてそんな話声をよく聞くのだが、まさか、美麗が?
正直信じられなかった。
思春期、と一言で言えば片付いてしまうようなことなのだろうが、完全に「違う世界の人」とかではなく「大人への一歩」としての差を感じた。
そんなことでさゆりが頭いっぱいになっていると、後ろから声をかけられた。
「さゆり!これ落としたよ!」
さゆりが振り返ると小走りで美麗が向かって来た。
「これ、単語帳、落としたよ」
そう言って美麗が私の単語帳を渡してくる。
そういえばいつでも取り出せるようにとリュックのドリンクホルダーに突っ込んでおいたんだった。
そして、間近で見て完全にわかってしまった。
「美麗、化粧するようになったんだ」
「え!気づいた!?できるだけ自然な感じにしたつもりなんだけどなあー」
美麗がかなり嬉しそうに、両頬に手を当てながら言った。
化粧がいい感じに上手くいているとでも思わせてしまったのだろう。
「これ、ありがと」
私は美麗の手から単語帳を半ば奪うようにして取り、再び歩き出した。
後ろから少し歩調の速い足音が聞こえてくるものの、そのまま歩く。
そして、美麗とはそれ以上話すことなく学校に着いた。
この後はクラスごとにバスに乗り、東京で新幹線に乗る。
さゆりが自分のクラスのバスを探していると、後ろから歩いてきていた美麗が走り出し、さゆりを追い越した。そして、彼氏である生徒会長の元へそのまま駆けていった。
さゆりはその光景を横目に自分のクラスのバスを見つけ、乗り込んだ。
バスの中では単語帳で勉強して過ごした。夏休みから塾に通い始め、本格的に受験勉強を意識し始めたのだ。隣の座席の女子は同じ班の同じく根暗なタイプの子で、読書をしていたので何の遠慮もいらなかった。
高校卒業後はそのまま家の葬儀場で働くのはなんとなく決めていたし、親にもそのようなことは言っていた。
だが、下手に頭の悪い高校に行ってまた露骨にいじめられるのは避けたかった。頭のいい高校の人たちはきっと陰口を聞こえるようには言わない。
勉強していたら案外早くバスは東京に到着した。
ここからクラス単位で駅構内を移動し、新幹線に乗り込む。新幹線の座席も隣は先ほどと同じなので、同じように勉強をして過ごすことにした。
移動中、座席に机があるといいな。なんて考えていたら不意に話しかけられた。
「宇都宮さん、お願いがあるんだけど…」
話しかけてきたのはバスで隣だった女子、根岸だ。
「なに?」
「新幹線の席、私が窓の方でもいい・・・?」
「いいよ。」
さゆりは景色を楽しむなどの考えはなかったので、了承した。
「ありがとう…‼」
その後続けて根岸が言いかけたが、新幹線に乗る前の集合場所に到着し、先生が話を始めたことで遮られた。
その後、クラス委員による点呼とトイレの時間を挟み、新幹線に乗った。
新幹線の座席には前の座席から出す方式の小さなテーブルがあったので、さゆりは一安心した。
東京から京都までは新幹線で2時間ちょっとなので、持ってきていた入試の過去問集を解くことにした。2時間あれば一教科フルで解いて解き直しまで出来る。
さゆりは数学を解くことに決め、持ってきていた無音のタイマーで時間を測り始めた。
最近では勉強もしっかりと身についてきた感じがする。過去問を解いて思った点数が取れることも増えてきていた。
途中で何回か隣の根岸が先生に見つからないように上手い事隠しながら外の景色をスマホで撮っていたことや周りの人たちの話声が気になりはしたが、なんとか解き終わり採点の結果90点以上取れていた。
これなら数学は得意科目と言って良いだろう。
「ふー」と一息つく。
すると「え、宇都宮さん数学得意なの・・・?」
隣の根岸が覗き込んできた。
「勝手に見るなよ。」
「宇都宮さん頭よさそうだもんね、……今度勉強とか教えて欲しいな、なんて」
頭いいと言われると正直まんざらでもない。
それに多分、というかそうなのだろうが根岸は今頑張って話しているのだろう。なんとなく気持ちはわかる。きっと、この修学旅行で私と友達にでもなるつもりなのだ。
「私に教わるんじゃなくて、塾とか行った方が効率良いよ」
だが根岸には悪いが私はもう友達が欲しいとは思っていなかった。
高校に行けば……。なんて淡い考えをすることもあるが、入れなければ意味がない。今は受験のことしか見えていないのだ。
そのうち新幹線が京都に到着し、駅の広い空間で再びクラス委員による点呼を受ける。
その後は全員で宿泊する旅館に歩いて向かい、入り口のところでクラスごとに仕分けされた事前にこちらに送っておいた大荷物から自分のものを取って部屋に向かう。
部屋は9人の大部屋、とまでいかないくらいの中部屋。3つの班が一緒の部屋に泊まる。
荷物を置いて寝る場所決めが始まった。
不幸なことに私以外の2班はキラキラ系だ。寝る場所は彼女らが率先して決め、私たちは「ここでいい?」とだけ聞かれ、頷いた。
その後は宴会場のような学年全員が収まるところでなんだかよくわからない旅館っぽい料理を食べ、食事が終わるとそのままその場所で旅館の人が食器を片付ける中、社会の先生による簡単な座学が行われた。
食事の途中に少し離れたところにいた美麗と目が合った。
だが、一度トイレに立った時に気付いたのだが、美麗と私の斜線の先に生徒会長がいた。それを見ていたのだろう。
それが終わるとあとは就寝時間まではクラスごとに決められた入浴時間以外は自由となった。
正直、自由にいろと言われてもやることがないので当然私は部屋で勉強を始めた。
途中でどこかから帰って来たキラキラ系が「え、勉強してる」と言った。
そして、すぐ再びどこかへ行くのか部屋を出て行った。
その去り際、部屋の扉が閉じ切る前に「友達いないんかねー」と聞こえた。
いないからやってるんだろ。
内心少しイライラしたが、すぐに勉強に戻った。
風呂も適当に入り、就寝時間になる。
キラキラ系と私たちの敷布団の間には隙間が出来ている。
私は普通に就寝時間を守って寝るつもりだったのだが、キラキラ系はそう簡単にはいかない。
外から先生が見ているという噂のおかげか消灯はしているのだが、ずっとスマホをいじりながらひそひそと話している。
多少気は使ってくれているのだろうが、盛り上がってくると普通に五月蝿い。
得意の寝たふりで寝ている感を演出しても効き目ナシ。
あまりにも盛り上がりすぎると廊下を巡回している見張りの先生にもバレかねないのでたまにリーダー的な人が「もう少し抑えよ」と言っていたが。無理だ。
これがあと二日続くのか、と少し憂鬱になったが、気になる話が耳に入って来て目が完全に覚めてしまった。
「ねえ、聞いた?森川さん」
「なになに、なんかあったの?」
学年全員の名前はわからないが森川はおそらく美麗のことだろう。
「修学旅行のあれあるじゃん、おまじない」
「うんうん」
「あれ、生徒会長とはいかないらしいんよ……!」
「え、なんで」「やばくない?」「あそこなんか喧嘩とかしてたっけ?」
修学旅行のおまじないとは、この学校の生徒間で代々噂されているというものだ。
なんでも、修学旅行二日目の夜の自由時間に旅館から出て二人で二条城まで一言も喋らずに歩くと、その二人は永遠に結ばれるといったもの。
なんとも中学生的発想だなと思うが、なにやら美麗は彼氏とそれをしないらしい。
なにかあったことは間違いないのだろうが、私には関係がない。
その後もいくつかの憶測が続き、気づけば違う話になって、いつの間にか寝ていた。
次の日は班行動。
私の班は清水寺や金閣、銀閣とかなり無難なコースを行く。
班員全員静かなので、みんな班長の言う通りに動き、かなりスムーズに各所を回った。男子は男子同士でなにやら多少仲が深まっているようだったが、女子は私以外の二人であれこれと話している様子だ。歩き回った寺社仏閣は正直写真で見たままだなーという感想だった。強いて言えば歴史範囲の復習にはなった気がするというぐらいだ。
旅館には班ごとに帰って来て、先生のチェックを受けた。
夕飯までは自由時間なので部屋で勉強をし、昨晩と同じ夕飯の宴会場へと向かった。
今日の夕飯はなんとすき焼きが旅館にありがちな一人用鍋で一人一鍋ずつ用意されていた。これには中学三年生は大喜び。かく言う私も一応心の中では喜びの声を上げていた。
時間になり、着物を着た旅館の人が一人ずつ鍋の下の固形燃料に火を付け始めた。
そして、鍋が煮える間、学年主任の話や明日の工程の確認、生徒会長の話などが挟まれ、生徒会長の「いただきます」と共にみんなで「いただきます」といい、学年全員が鍋を開けた。
すき焼きは当然美味しかった。思わずニヤケそうになるくらいだ。その後も黙々と誰とも話さずに京都の味を堪能した。当然、そんな感じだと食べるのが人よりも早いので、早々に宴会場を後にしようとした。戻って単語の復習でもしよう。
席から立ちあがり、久しぶりに満足な食事をしたなと思いながら宴会場を後にしようと歩いて廊下に出た時、後ろから「ちょっ、まだ肉残ってるよ!?」「肉2枚か食べてないよ!?」という誰からの声と共に駆け足のドタドタといった音が聞こえてきた。
「さゆり‼…ちょっと、いい…!?」
振り返ると美麗がいた。
それ自体も驚きなのだが、それ以上にほぼ学年の全員がこちらに注目していることの方が私にとっては重大だったので、美麗の手を掴んで旅館の入り口のところまで小走りで移動した。
「ちょっ、なんのつもり!?」
私は割とマジでそう言った。
「ごめん、でも、今しかなかったの…。」
美麗が顔の前で手を合わせてそう言う。
「で、なに?」
「ちょっと、話があって・・・ついて来てくれる…?」
「いいけど。」
そういうと美麗は玄関から外に出て、こっちに向かって手招きをしている。
なにも検討がつかないが、ついていくことにした。
「ちょっと、離れたところなんだけど、いい?」
「うん。」他に予定はないので時間はある。
「ありがとう……」
美麗はそういって歩き出した。
旅館の敷地外に出ても美麗はまだ歩いている。
さゆりの二歩ほど前を美麗が歩く。
この前の逆だ。
この前のことを思い出しているとなんだか少し気まずかった。
それは向こうも同じようで、特に何も言ってこない。
美麗が言う目的地までこのまま無言だろう。
だが、本当は禁止されている敷地外への外出の上に美麗はどんどん旅館から離れていく。流石に心の中に不安が浮かんでいった
「ねえ、美麗、まだ…?」
しかし、美麗は何も言わない。
「美麗?」
まだ返ってこない。
「ねえ、聞いている!?」痺れを切らして美麗の肩を強引につかんで振り返らせる。
「……」
美麗と目が合った。
こんな近くで美麗と向き合ったのは初日の朝ぶりだ。だが、この前とは違うことがあった。
さゆりの目の先、さゆりがかつて好きだった、もしかしたら今でも好きなのかもしれない綺麗な美麗のその眼には涙が浮かんでいたのだ。
「え……」
なんで泣いているのだろう。
「なんで泣いてるの…?」
「もう、流石に無理だよね…」
「無理って、なにが?」
「…。」
「なにがって!?」
「おまじない‼」
え?「え・・・?」
「おまじないって、あの二条城のやつ?」
「そうだよ…それ以外になにがあるのよ……」
「え、だってあれって恋のまじないでしょ?」
確か、一言も喋らずに歩くと永遠に結ばれる、的な。
「そうだよ」
「美麗、彼氏居るじゃん、なんで私なわけ?」
「……。別に。」
「意味わからなすぎるって…。理由ぐらい教えてよ…。」
正直さゆりの頭の中は大混乱だ。
「もういいよ。おまじない、失敗だし……」
「だから、おまじないって恋人とでしょ?」
「永遠に結ばれるって!友情でもいいじゃん‼」
旅館と二条城のちょうど中間あたりだろうか、美麗が叫んだ。
「ちょっ、美麗、声デカいって、それに、何言ってんの…!?」
「そのまんまだよ。もういいや、行こ…‼」
美麗はそういうとさゆりの手を掴み、強引に走り出した。
「ちょっと、美麗…‼」
さゆりにも美麗の真意は完ぺきではないにしても察することが出来た。
二条城に着くまでの少しの間、さゆりの脳内に美麗との楽しかった思い出が走馬灯のように駆け抜けた。
そして思う。
きっと美麗はずっと私と仲直りしたかったのかもしれない。
私の方から離れたくせに何言ってるんだって感じだけれど、きっと美麗は考えて、たくさん考えて自分が悪と結論付けたのだろう。
二人はなにも言葉は出て来なかったが、笑顔で、涙を浮かべながら、手を繋いだまま二条城の前まで走った。
「「はあ、はあ、っははは!」」
お互い普段から運動する方ではないので息切れていた。
だけど、なんだかそれだけのことがおかしくて、二人とも笑ってしまった。
さゆりも、なんだか不思議とおかしくて、今までのことがどうでもよく感じられた。
「さゆり」
美麗がいきなり抱きついてくる。
「ちょっ、……。」
さゆりはそれに自然と応える。
「さゆり、本当にごめん」
「これだけは言っておくけど、本当に美麗は悪くないから。私が美麗を避けたんだから。私の方こそ、ごめんなさい」
「ううん。私もちゃんとさゆりの話、聞いておくべきだった。ごめん。」
「だーかーら、……。もういいや、ありがと、美麗。」
「こちらこそっ」
しばらく二人はそのまま二人の時が満ちるまでハグをした。懺悔と、後悔と、嬉しさと、安心感を抱いて。
脳内的に今迄の年数が過ぎたころ、二人はどちらからと言わずに再び向き合った。
目には泣いた後が残っているが、かつての親友がいる喜びに、二人とも微笑んだ。
「帰ろっか。」
そして二人は旅館に戻ることにした。
「正直、もう二度と美麗と話さないんだろうなって思ってたよ、」
「え、まあ、私が今日まじないしてなければそうだったかもねー」
「失敗したけどね」
「もう!さゆりのせいだからね!」
「ははは、美麗、こんなんあくまでも噂なんだから」
さゆりが美麗の顔を間近で覗き込む。
「これからの私たち次第でしょ!」
すると、美麗が目を逸らして顔を赤くした。
「な、なんかさゆり、男っぽくなった…?」
「いやー、性格がひねくれただけですー。美麗はかわいくなったよね、化粧なんかしちゃってさ、」
「今度さゆりにも教えてあげるね~」
「だーめ。校則で禁止されてるでしょって」
「じゃあ、高校生になったら!」
「高校によるなー」
「そういえばどこの高校受けるの?」
「北高校にしようかなって、模試A判定だし」
「え、頭良っ、ってかA判定!?もう違う世界の住人だよ……」美麗が目を丸くする。
「こっちのセリフだよ、美麗が遥か彼方の存在に感じてたよ」
「えー、でももう頭の良さはどうしようも……」
「美麗が彼氏といちゃいちゃして成績落としてる間にこっちは勉強してたからねえ~」さゆりがニヤケて見せる。
「もーひどいってー、今度彼にさゆり紹介するからどっか遊び行こうねっ」美麗は笑顔だ。
「てか、彼氏にはなんていったのさ、このおまじないのこと。美麗と会長がおまじない行かないって噂になってたよ?」
「え、ほんと!?実はおまじないはさゆりと行きたいって思ってたけど、なんにも言ってないんだよね……」
「よく来れたな……」
「どうしても、理由があるって言ったらわかってくれた。」
「良い人かよ」
そんな感じで話しているうちに旅館に着いた。
さゆりは久しぶりに美麗と話して久しく心から「嬉しい」と感じた。
旅館に戻って先生たちからなにか言われるかと思ったが、特になにも言われず、そのまま修学旅行が続いた。
当然、美麗とはクラスも班も違うので、会うことはあまりなかったが、すれ違えばお互い手を振ったり、なぜか変顔をしたりした。
修学旅行が終わりまたいつもの日々がやってきたが、さゆりの日々に再び美麗が加わった。
美麗とはクラスが違うので、お昼休みなどは先に授業が終わった方が向こうの教室に行き、毎日のように一緒に過ごした。
おまじない直後から学年全体であれこれと言われていたが、もう気にしない。美麗が隣にいればそれでいい。
さゆりがそんな風に前向きにしていると、美麗の繋がりでだんだんと話す人も増え始めた。
美麗の彼氏である生徒会長や美麗に化粧を教えたという友達などなど。
さらに、クラス内でも修学旅行の時には冷たくしてしまった根岸とかとも仲良くなった。
そして、元々美麗とさゆりは別の塾に通っていたのだが、美麗がさゆりの通う塾に通い始め、同じ高校を目指した。
さゆりは元々とても頭がよく、要領もいいのですぐにさゆりと肩を並べるほど学力を取り戻した。
結果的にさゆりと美麗は同じ高校に進学出来、高校生活もずっと変わらない関係で過ごした。
その後、さゆりは高校卒業と同時に実家の葬儀場で本格的に働き始め、美麗は看護師になるために都内にある大学の看護学部へと進学した。
大学進学後も高頻度でやり取りをしていたし、月に一回はどちらかの住んでいるところに行って遊んでいた。
美麗が死ぬ前の日も、さゆりと美麗はやり取りをしていた。
だからこそ、さゆりは一つもなにも信じられなかったのだ。
ただ、振り返っていくつか気になることはあった。
それを今、目の前にいる少年に確認する必要がさゆりにはあった。
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