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Missing - 第八章「memory」【創作大賞2026ミステリー小説部門応募作】

前の話

目が覚めると暗い部屋にいた。
 ぼやける視界がだんだんはっきりしてくると、そこは病院のようだった。どうやら森川美麗の部屋で完全に気絶してしまったらしい。たぶん、宇都宮が救急車を呼んだりしてくれたのだろう。
 とりあえず今日の美麗さんへの無礼はそれでチャラにすることにした。
 起き上がると、腕に点滴が付いていることに気付いた。
 栄養失調、とかではないと思うが、大方特に異常がないから念のために打たれてるとかそこら辺だろう。
 一応錦は過去に小児がんを患ったこともあるので、精密な検査が行われたはずだ。
 一先ず体に異常はなさそうなので安心した。
 隣の小さめの丸テーブルに目をやると、錦の携帯とカメラが置いてあった。荷物はその下に置かれている。
 携帯を手に取り見てみると、とりあえず気絶していたのはおよそ十二時間であることが判明した。さらに、両親には医者から連絡があったようで、特に問題はないことと明日こちらに来るということが送られてきていた。
 そして、宇都宮からの謝罪と、ツカサ、チヒロからの心配の声が来ていたので、一通りの連絡に返信した。
 部屋の窓からは綺麗な星空が見える。
 もう錦も理解した。
 今まで気づかないようにしていたのか、いつからそうなのか定かではないことが多いが、錦は森川美麗に好意を抱いていた。
 
 ん?
 星空でちょっと良い感じに思ってたけど、これってあれ?死人に恋する的なあれ?俺って変?
 いやいや、でも別に死に顔に対して好意を持ったわけじゃないし……。
 あーーー、寝る。

 いつの間にか寝ていた錦が再び目覚めたのは翌朝の朝食の時間。
 看護師が様子を見に来た音で目が覚めた。
 「あ、深見くん、無事でよかったよ」
 寝ぼけ眼がはっきりすると、そこには加藤がいた。
 「あ、加藤さん……」
 ということは、この場所はこの前来た美麗さんの勤務先の病院なのか。
 「びっくりしたよ、まさかこの前知り合った人が運ばれてくるなんて。しかも内科に。気を失ったんだって?美麗の部屋で」
 「…はい。そのようです」
 「さゆりちゃん、すっごい泣いてたよ、感謝しときなよね」
 「……はい」
 「とりあえず検査したけど問題ないって、それと、君過去にも病気してたの?」
 「実は」
 「カルテ見てびっくりしたよ。あ、とりあえず朝ごはん食べる?食べれそう?」
 「はい。お願いします」
 「はーい。ちょっと待っててね」
 そう言って加藤は一度部屋から出ていった。
 少しして加藤が朝食を運んできた。
 手を合わせていただき始めると、加藤が衝撃的なことを言った。
 「てかさ、深見くん、美麗と出身地同じでしょ?」
 「ええ。同じ県だったと思います」
 「だよね。君が昔通ってた病院さ、美麗のお父さんが院長してるとこだったみたいだよ」
 「え!?」
 錦は驚きのあまり食器を落としてしまった。
 幸い汁物じゃなかったので、そのままお盆に乗っかった。
 しかし、なんという驚きの情報をぶち込んでくるのだ。このタイミングで。
 「やっぱ知らなかったか……」そして加藤は顎に手を当てる。
 「知りませんでしたね、流石に」
 「私が言えるのはここまでかな、流石に言いすぎるのはダメだと思うし」
 「え、まだあるんですか?」
 「あるといえばあるけどないといえばないからまったく気にしなくていいよ」
 「はあ、そうですか…」
 「でも、なんとなく君と美麗に繋がりがあったんじゃなかったかって想像しちゃったよ」
 「そうなりますよね、今日、両親がここに来るのでなにか聞いてみます」
 「ん。がんばってね」
 加藤はそう言って部屋から出ていった。
 確かに美麗さんとは出身が同じ県らしい。だが、錦は小学生の時に引っ越してそれからは三重県で暮らしてきた。
 関わりがあるとすれば小学生の時かあるいはそれより前なのだが……。
 残念ながらその頃の記憶はかなり曖昧で、ほとんど覚えていない。
 もしかしたら会っていたのか……?
 両親は午前中のうちに来るようなので、それまでに少し調べものをする。
 彼女の父親は以前、葬儀の時に出会っている。名前は確か…森川明憲。
 その名前で調べてみると、確かに錦がかつて住んでいた県内の病院の情報がヒットし、院長の顔も名前もこの前会った人物と一致した。
 「間違いない……」
 もうほとんど正解だろう。
 「俺は、森川美麗に会っていた……」
 その瞬間、再び頭痛が襲って来た。
 「クソっ……」
 錦は意識を失う直前、なにかを思い出しかけた。

 再び目を覚まし、視界がはっきりすると両親が居た。心配そうに何か言っている。
 だが、聴覚が鈍い。ハッキリと聞き取れず、血液の流れが強く聞こえている。
 はっきりと聞こえたのは少ししてからだった。
 両親はずっと心配そうに声をかけ、母に至っては泣きそうだ。
 「錦!大丈夫!?」
 「ん…ああ。検査は大丈夫だって……」
 特に結果を聞いてもいないのにそう口から出てきた。
 意識がちゃんとはっきりする頃、白衣を纏った医者がやってきた。
 「錦君、大丈夫かい?」
 「ええ。まあ」
 「検査はなにも問題はないが、一応もう少し入院してもらうよ」
 「はい、わかりました」
 威厳がありそうな医者に言われると逆らえない。
 まあ、錦は大学の講義に積極的でないし、就活の予定もない。別に問題はなかった。
 いや、講義は出ろとツカサ辺りから言われそうではある。
 その後は検査結果の説明や一応服用することになる薬と点滴の説明を受けた。
 そして、医者が出ていくと、ここからが錦の本題だ。

 「なあ、父さん、母さん」
 二人がこちらに向く。
 「俺が小学生の時に小児がんにかかってた時の病院って、ここ?」
 そして錦が携帯の画面を二人に見せる。
 「……」二人とも黙っている。
 「もう、無理かな」「ええ、そうね」
 そして両親が錦の身に起きたことを話し出した。
 
 錦は生まれつき体が弱かった。
 体重も軽く、よく風邪を引き、風邪を引けば長引き、周囲から心配されていた。
 しかし、そんなこととは裏腹に本人はとても元気で、幼稚園生のころからサッカー選手になる!と言って友達と保育園の庭や近所の公園ではしゃぎまくっていたようだ。
その様子に両親も一安心。小学校に上がったタイミングで地域のクラブチームに通わせてもらうようになり、錦はますますサッカーにのめり込んだ。
 両親も、楽しみながら運動できるなら良いと思ったそうだし、目に見えて錦は健康に、むしろ他の子どもたちよりもすくすくと健康に育っていった。
 小学校に上がってすぐに友達もでき、毎日学校が楽しくてしょうがないといった様子だったそうだ。
 そして、学校でもサッカーをしたり他の遊びでも元気に走り回ったりと元気いっぱいな子どもであった。
 しかし、そんな錦を小児がんが襲う。
 発病したのは小学2年生から3年生に上がるタイミングだったようだ。
 いつものように小学校の体育館を借りて行われいているサッカークラブの練習から帰ってくると、なんだか体調が悪かったそうだ。そして、錦はそのことを両親に話した。
 両親は幼い時の虚弱体質のこともあったのですぐさま病院に連れて行き、見てもらうことになった。
 虚弱体質であったことも踏まえてしっかりと検査をしてもらうと、小児がん、その中でも白血病を患っていた。
 医者が両親に病名を伝える時、一応錦は別室にいた。
 その後に合流して受けた説明では両親や医者が言っていることは全く理解できていなかった。
 しかし、彼らの作り笑顔から、悪いことなのは感じていた。
 それから錦は入院することになった。
 その病院こそ、森川明憲が院長を努める病院であったのだ。
 その後、度々行われる検査と治療や発せられる単語、様々な「死」への恐怖から錦は心を閉ざし、ストレスで髪は白く染まった。
 手術こそしなかったものの、薬物療法による様々な副作用やストレスが錦を襲ったのだった。
 そして、長い長い入院生活の後、錦はそれまでの記憶を封印した。
 ある日、両親がいつものように病室へ行くと、笑顔の錦がいたという。
 「あれ、ぱぱ、まま、どうしたの?」
 久しぶりの息子の笑顔に、両親は泣いてしまったのだ。
 そして、医者に診てもらったところ、記憶を封印している状態だろうと判明、両親は記憶を呼び起こさないようにと引っ越しを決めた。
 それがよかったのかはわからないが、引っ越し先で引き継がれた病院での検査でも記憶が蘇ることは無く、すくすくと、癌なんて嘘のように元気に育った。

 これが錦の過去の話だという。
 「マジか…」
 正直、どこから飲み込めばいいのかわからない。
 だが、これでようやくそれらの時の記憶はなんとなく思い出した気がする。
 「俺は本当に通院してたのか・・・」
 「ああ。黙っていてすまなかった。」 
 「あの時の錦の苦しそうな様子が見てられなくて・・・」
 「それは、…とりあえずわかった」
 だが、確認しないといけないことはもう一つあった。
 「その時の俺、森川美麗のことは話してなった?」
 「森川って、あの……?」
 「うん。多分その人」
 「いや、聞いた覚えはないが…母さんは?」
 「私も聞き覚えはないわね……」
 「なにか関係があるのか?」
 「実は、その病院の院長が森川美麗の父みたいなんだ。」
 「…!?」「まさか……」
 だが、当時なにかしらで関わりがあったとしても、両親には少なくとも話していない様子だ。
 じゃあ、一体いつ……。
 まだ謎は残るものの、一歩前進したように思う。
 とりあえず錦は大丈夫なので、両親には帰ってもらうことにした。
 
 そして、夕方、面会時間ギリギリに錦のいる病室のドアが開かれた。
 「錦!無事か!?」
 勢いよく入って来たのはチヒロだ。その後ろにツカサもいる。
 「おう、二人とも、なんとか無事だわー」
 「まっじで心配したんだからな!」とチヒロが泣きそうになって言う。
 「にしても、ここ最近の錦は不幸続きだな。」と冷静なツカサ。
 「まあ、検査結果は異状なしだったし、多分大丈夫だわ」
 「それならいいんだけどな…」
 「そういえば、あれだろ?宇都宮さんと森川美麗の街に行ったんだろ?」
 「え、なにそれ聞いてない!」
 そういえばチヒロには昨日のことは言ってなかったんだった。
 「あ、そういえばチヒロには言ってなかったな、すまんすまん」とツカサが平謝りする。
 チヒロに言うとなんか騒ぎそうだったから別に悪意とかじゃなくて面倒くさそうで言ってなかったのだ。
 そして、錦は昨日から今日にかけて起きたことと錦の過去の話を二人にした。ただし、美麗さんの部屋に行ったことは話さなかった。
 そして、錦がはっきりと彼女のことが好きであるということも伝えた。

 「と、言った感じなんだわ」
 二人は終始無言で錦の話を聞いた。
 そして、ツカサから口を開いた。
 「まあ、今大丈夫なら大丈夫だろ、それで、今後の調査はどうするんだ?」
 あえて浅く触れるのはこいつの優しさだろう。
 「うーん、正直手詰まりなんだよな」
 錦とツカサが考え込んでいると、チヒロも口を開いた。
 「錦、マジで森川のこと好きなの?」
 「…。そうだなあ、もう好きだな。叶うなら会って話したいな」
 「…そう。わかった」
 「大丈夫か?チヒロ?」ツカサが心配している。
 「うん、錦の方が大変だと思うから、大丈夫」
 「そうか…ならいいが…」
 「とりあえず、今後のことはまた追って考えるとするか」
 「……。」チヒロは黙ったままだ。
 「そういえば、錦、講義のノートは取ってあるから今度見せるわ、病欠届のやつ、ちゃんともらっとけよー」
 「おうよ、助かる」
 それ以降は特に変わったことも話さずに、二人は帰っていった。
暇になってしまった錦は宇都宮にもメッセージであれこれとわかったことを送った。
すると、「それなら、美麗の病院、行ってみる?」と来た。
宇都宮もだいぶ反省したようなので、錦はそれに了承した。

錦が自身の部屋に戻って来たのはそれからさらに2日後であった。
念のための経過観察も問題なく安定していたので、退院することになったのだ。
疲れ果ててそのままベッドに倒れ込む。
様々なことが起こりすぎてここにきて緊張の糸が切れた。

 目が覚めると夜中だった。
 「また微妙な時間になっちゃったな……」
 と思いつつ、一応シャワーを浴びる。
 シャワーから上がると写真の整理を始めた。
 この前倒れた日に撮ったものをまだパソコンに移してなかったことを思い出したのだ。
 なんだかんだあの日は三百枚ほど写真を撮っており、整理には少々時間がかかりそうだ。
それに、同じ構図のところで何枚も撮っているので実際に「これだ!」という写真はそこまで多くはない。だからこそちゃんと一枚一枚確認する。
 そして、錦は彼女の撮った写真と比べる。
 本棚に教科書と共に並べたアルバムを手に取り、机に向かう。
 開くとふんわりと古びた匂いが漂う。
 実は、うっすらと彼女の写真と自分の写真のなにが違うのかをわかっていた。
 それを確かめる。
 「やっぱりそうだ」
 そして、錦は理解した。
錦が撮った写真と同じ構図で獲られた数年前の宇都宮の写真。さらに、単純な街の風景の写真。
 構図は同じだが、雰囲気は違う。
 なにが違うのか。
 そう。美麗さんの写真は、悲しみを帯びているのだ。
 そして、この前のテーマパークで最後に撮った写真。
 あの日一番の写真、そう。その写真が撮った中で一番彼女が撮ったものに近い雰囲気だった。それは、直前に少し悲しい気分になったからだろうか。
 悲しみが写る。 
 きっとそれは玄人の写真家に言わせれば光の感じや彩度、露出などの要素によって生まれているのだろうが、錦にそれらの知識はない。錦は、その時の心情、雰囲気で適当に露出やピントの場所を変えている。もはや無意識だ。
 おそらくそれらの要素が、悲しみを表現していたのだ。
 
 一度確かめてみるか。
 次の日、早速錦は出かけた。
 目的地は彼女が住んでいた街。
 電車に揺られている間、錦は彼女の撮った写真を思い出す。
 きっと、ただ街を撮ったとしても、撮る人によって雰囲気というものはまるで変わるはずだ。
 露出度、F値、どこにピントを合わせるか。
 それらの要因を越えた感情の乗り方。
 これを確かめたい。
 そして美麗さんの住んでいた街に再び降り立つ。
 今日はこの街の風景を、この街から見える景色を写真に収める。
 人は一人も撮らないつもりだ。
 適当に街を歩き、写真を撮る。
 設定は常にその時その時で一番良いだろうというものに合わせる。
 その上で差が出るのかを見たいのだ。
 今の錦は彼女と自分に関わりがある可能性になにか少し不気味なものを感じている。それに、宇都宮が思う森川美麗への気持ちのことを考えれば悲しくもなる。
 それらを携えて画角を探す。
 何でもない家の塀、カーブミラー、赤いポスト、河川敷の向こうに見える街並み、欠伸をする猫、草が伸び切った空き地。などなど。
 錦は今の自分がベストだと思う写真を撮り続けた。
 季節が冬になりつつあることも含めて町全体にどこか哀愁のようなものが漂っている気がした。
 太陽が真南に来ても全然気温は上がらない。
 錦はコンビニで買ったおにぎりを片手に前日来た河川敷に再び来ていた。
 遠くの方から喧噪が聞こえ、そちらに向かうとこの前はやっていなかった少年野球の試合中であった。
 錦はそれを見ようと適当に枯れ始めた草の上に座り、おにぎりを食べる。
 小学生の野球チームの試合だが、メインで戦っているのは小学校低学年くらいの子供だと思われた。高学年ぐらいの子はベンチ、というか応援席から声を出している。
 カキーーーン
 このくらいの歳の子供でもいい音が出るもんだな。
 そんなことを考えながら腹を満たす。すると「あれ?こんなとこでなにしてんの?」錦は後ろから声をかけられた。
 声で分かったが、振り返るとそこには先日会った加藤がいた。
 「あ、どもす」
 私服姿に紙袋を持っている。女性もののパーカーにデニム。簡単でもまとまっているそのコーデになんだか性格が表れているような気がした。
 「んで、なにしてんの?てか体調はどうよ?」
 「体調は余裕っす。今日はこの街の写真を撮ろうと思って来ました」
 「ふーん、あれか、美麗の趣味だ」
 「はい。同じ気持ちになれる気がして」
 「そっかあ、この前ちゃんと聞けなかったけど、本当に美麗のことなんとも思ってないの?」
 この質問に錦はどきりとした。どういう意図だろう?
 「どう思う、というのは?」
 「うーん、嫌い、とか変なやつ、とかそういうマイナスな感じ?」
 「それは全くないです。むしろ、この前加藤さんから聞かせてもらった話も含めてとてもプラスに思ってます。超いい人だなって」
 「そっか、…それならよかった」
 「ちなみになんですけど、美麗さんってなにか悩みごととか相談したりしてませんでした?」
 「ん?そういうのは一個もないな、むしろ私らが聞いてもらってたもん」
 「そうなんですね、」
 「どうかした?」
 「いえ、彼女の写真を見てたら、なにか悲しい雰囲気を感じたので…」
 「それで、写真を?」
 「はい。なにか心のうちにあったのかなって思ったんです」
 「うーん、私たちから見たらなにもなかったんだよなあ、でも、美麗本人にしかわからないんだろうな、きっと」
 「ですよね…」
 「ちなみに、あそこの少年、写真撮ってみ」
 「え、いいんですか?勝手に」
 「いいよいいよ、何か言われたら私から言っとくよ」
 「わかりました」
 そして錦はベンチで声を出す一人の少年の写真を撮った。
 「どう?」
 「子供らしくていい、ですね」
 「そう思う?あの子、うちの患者なの。詳しいことは言えないけどさ、多分美麗の撮った写真の中にもいるはずだよ、比べてみ」
 「そうなんですね…わかりました。ありがとうございます」
 「んじゃ、あたしは休日に戻るわ~体調気を付けてね~」
 「ありがとうございます」
 そして加藤はどこかへ歩いて行った。
 その後も錦は街を歩き、気持ちの動いたところを写真に収めた。
 
 帰宅して早速データをパソコンを経由して外部メモリに写す。
 錦はその間に美麗さんの撮った写真を再び見返す。
 すると、今日加藤に言われた通りに少年野球の試合の写真もあり、その中に今日写真を撮った彼の姿もあった。
 試合中ではなく、カメラに向かって笑顔でピースをしているなんとも愛らしい写真だ。
 ただ、やはりなにか暗い気持ちを汲み取ってしまう。
 錦は今日自分が撮った写真をパソコンの画面いっぱいに表示して比べてみる。
 「うーーーん」
 明るさで言えばもちろんパソコンで表示している錦の写真の方が明るい。
 だが間違いなくそうではない。
 「マージで、なにが違うんだ……」
 もしかしたら美麗さんはもっと深層で何かを持っているのかもしれない。
 彼女の写真を見れば見るほどそう感じざるを得なくなる。
言ってしまえばほとんどの写真がその深層で働く微かな悲しみを帯びていた。
そして錦は加藤や喫茶店の店主の話、そして宇都宮の話を思い出す。
森川美麗とはどういう人物なのか。
誰にでも優しく、笑顔が絶えない、いつも頼られる人。
決して八方美人とかそのような類ではないのだろう。それは話を聞いていればなんとなくわかる。
純粋に、心からのいい人。
そんな人がなぜ、とやはり思う。
 彼女は誰にでも明るく振る舞って笑顔が絶えないようにしていたが、その目に映る世界はなぜ悲しみを経由していたのだろう。
 もしかして…作り笑顔?
 いや、それにしては周り全員からの評価がみんないいなんて……。
 錦はもう一度アルバムを頭から時間をかけて見返す。
 なにか、悲しみを含まない写真はないか?
 純粋に世界を見ている写真は。
 中学生の時から撮り始めたという写真の数々。
 それを一枚一枚見返す。
 「美麗さんの気持ちが、写る世界が違う写真を……」
 
 「えっ…なんだこれ……」
 そしてその写真を見つけたのは、日が昇り始めたころ、アルバムをもう一度、もう一度だけはじめから見てみようと初めのアルバム、つまり美麗さんが中学生頃に撮ったらしきアルバム開いた時だった。
初めのページに他のアルバムと違う違和感があった。
 このアルバムは写真を入れるページの前に空白のメモが書けるようなページがある。おそらく目次などを作れるようなものなのだろうが、そこのページが2ページ、袋とじのようにくっ付いていたのだ。
 今までは写真のあるページからしか見ていなかったので気づかなかった。というか「誰も気づかなかったのか?」思わずそう呟く。
 明らかにその中には写真が何枚か入っている。
 錦は恐る恐るといった感じでその袋とじのようなページを切る。躊躇いなどない。
 慎重にページの端を細く切り、中を見る。
 やはり、中には数枚の写真が入っていた。
 錦はそれを取り出す。
 そこに写っていたのは。
 「俺…?」
 なんと、そこには幼いころの錦がいた。
 その写真はすべて、他の写真と違って全部が明るかった。
 嬉々として撮影したことが伝わってくる。
 これはもう霊的なものでもなんでもいい。具体的に説明はつかないが、彼女は錦の写真を撮る時には本当の自分でいたのだ。
 「うぅっ……」
 頭が痛い。
 そうか、そういうことか。
 錦は写真を見たことですべてを思い出した。
 彼女と出会った時から遊んだ日々を。すべて。


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逆倉青海 ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!