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Missing - 第五章「reason」【創作大賞2026ミステリー小説部門応募作】

前の話

「確認したいこと……?」
宇都宮による一連の森川美麗との話が終わった。
確かにこれほどの絆と呼べるものがあれば、何も言わずに死んでしまうのが納得できないのは当然のように思う。
そして、そのうえでなにやら気になることがあるようだった。
「そう、この前君と会ってから私も色々と考えたりしたんだけど、そういえば、って思うこととか、少し気になることがあって」
「自分にできることなら協力します」
「ありがとう。一つ目なんだけど……」そう言って宇都宮はスマホを操作する。
そして、一枚の画像を見せてきた。どうやらそれは、メッセージアプリ上での二人のやりとりのようであった。
「これ、1年前の美麗とのやり取りなんだけど」

「今日、私の古い恩人と再会したかもしれないの!いつかさゆりに紹介できるといいな~」

「急に美麗がこう送って来たの。で、このことについて少し続くんだけど、」
宇都宮が再びスマホを操作する。気になる点、という風に言っていたが、一年前のこれほど小さな違和感をよく覚えていたなと思った。
ただそれは、これぐらいしか違和感がなかったという風にも言えるように思う。
「この続きで少し私が言及したのね?」
次の画像が表示される。

画像のやり取りはこのような感じだった。
「え、かもしれないってどういうこと?」
「まだ一回パっと見かけただけだからさー」
「どんな関係なの?」
「それは、さゆりに紹介するときに話したいなー」
「そか、楽しみにしてるよ!」
まだ確信を持てていない様子と、サプライズのように焦らす様子からも、森川美麗という人間が垣間見えた気がした。

「この時はこれで終わったのね?でも、しばーらくして進展があったの。さっきのやつの3ヶ月後かな?」
宇都宮はそう言い、再び画像を切り替える。
一年前の三ヶ月後、ということは自殺の9カ月ほど前になる。

やり取りは思わぬ方向に向かっていた。
「さゆりー、随分前に人生を変えてくれた人の話したの覚えてる?」
「うん、気になってた!」
「その人ね、私のこと覚えてなかったみたい(泣)」
「え、どういうこと?結構がっつり関係あったんじゃないの?」
「うん、そうなんだけど、覚えてなかった・・・」
「話しかけたの?」
「うん でも、覚えてなかった…」
「一応聞くけど、それ本当に本人?」
「絶対そう」
「なんでわかるの?」
「その人、髪の色が特徴的なの」
「そうなのか…。残念だったね…」
「ありがとう・・・」
これでこのやりとりは一旦終わっていた。
「それで、この時は特になんとも思わなかったの。美麗が不幸なことになったから、そのあとあった時に甘いもの食べに行ったりして慰めたぐらいなんだけど、よくよく考えたら、これ違和感あったのよ」
「どこがです?」
「その人、髪の色に特徴があるって言ってたけど、美麗が住んでるところとか買い物とか行くのって東京の都会なわけだし、髪の色に特徴があるってよっぽどだなって思って」
「確かに。断定するぐらい特徴的なんですよね」
「でも、その前に美麗がその人の話をしたときに、“古い恩人”って言ってんのよ」
「確かに」
「つまり、その人はその時からずっと髪に特徴があったってことなの。見てわかるぐらいの」
「なかなか変な話ですねそれ」
「でしょ?的外れかもしれないけど、引っかかるのよね……」
 「ですね」
 「そして、君。深見くん。」
 「はい?」
 「君のその髪色って、ブリーチとか?」
 「いえ、これは地…毛…え。いやいやいや、」
 錦もそこで宇都宮の言いたいことを理解した。錦の髪は生え際が際立って白く、その他全体的にもまばらに白髪という特徴的な髪ではある。少なくとも、あえてこのように左右も場所もバラバラに白くは染めないとは思う。そのような髪をしている。
 「もしかしてこれ、君じゃない?」
 「そんなまさか」
 「黒染めって案外わかるのよね、深見くん、葬儀の時に結構強めに黒染めしたでしょ?それでもしかしてって思って。正直まだほとんどこじつけだけどね」
 「流石に…。だってほとんどただの白髪ですよ?そこら中にいますって」
 「そうなんだけどねえ、まあ、一旦次のやつね」
 そういうと次は一枚の部屋の写真を見せてきた。
 「これ、美麗の住んでた一人暮らしの部屋。警察の捜査が入った後に美麗の母親が撮ったやつなんだけど、これ、どう思う?」
 錦がスマホを受け取ってよく見てみる。
 特に違和感はないように思う。白を基調としたとても整った部屋だ。とても生活感がある。
 「なんだか整頓されていて綺麗ですね。性格が出てる気がします」
 「やっぱそうなるよね。まあ、警察の捜査も入ったっていうしそれも多少あるのかもしれないけど、美麗、部屋の掃除とかできないタイプなの」
 「え、そうなんですね」
 「元々部屋を綺麗にする方じゃなくて小学生の時からよく親に叱られながら片付けてたって言ってたの。意外でしょ?」
 「はい。とても」
 「さらに、美麗は看護師っていう結構忙しい職業だから、それが合わさるとこんなに綺麗な部屋はたぶんできないと思うんだよね…」
 「確かに…」
 「で、さらにそれを裏付けることがあって、」
 「なんですか・・・?」
 「警察の捜査のあとに美麗の母親が言われたことみたいなんだけど、部屋の中から非常食以外の食品が一個も出て来なかったんだって」
 「はい?」
 一人暮らしをしていてそんなことがあるのだろうか?
 自炊を一切しない人ならまだわからなくもないが、それにしても一個も出て来ないのは少し違和感がある。
 「それで、ゴミ集積所に全部捨てられてたんだって」
 「ほう」
 「つまり、美麗はめちゃくちゃちゃんと準備をしていたの」
 「なるほど……?」
 「さらに、これも、美麗の母から聞いたんだけど、美麗、死んだとき、体内にもなにも入ってなくて、ほとんど飢餓と脱水に近い状態だったらしいんだ」
 「え……なんすかそれ。限界状態だったってことですか…?」
 宇都宮の目に涙が浮かび始まる。
 「なんのためかわからないけど、最後は自分を自分で追い込んでたってことになりそうなの……」
 親友が行った謎の自傷ともいえる行為に、宇都宮は決壊した。
 錦も脳裏に死体を発見したときの光景がフラッシュバックする。
 そして、そこで気づいた。
 「だからか……」
 「なにかあった…?」
 涙声で宇都宮が聞く。
 「今、事件当時の様子を思い出したんですけど、そういえば、足元が綺麗だったなって思いまして……」
 確か、自殺、特に首吊りをした際には肛門の筋肉が緩んで便やらなにやらが出てくると聞いたことがある気がする。それがなかったのだ。
 「そういうことね……」
 宇都宮は葬儀屋ということもあってすぐにそれを理解したみたいだ。
 「総合して考えると、ここまで丁寧なのは見たことないのよ……」
 「でも、遺書とかってなかったんでしたっけ?」
 確かそのように聞いた気がする。
 「そう、その件についてが最後の気になる点なんだけど、」
 「はい」
 「美麗、遺書書いてたみたいなの」
 「そうなんですか……?」
 「警察は自殺は断定出来ているし、見つからなかったからといって差し支えないからそれで終わらせたみたいなんだけど、さっきの写真、もっかい見て」
 そう言いながら再び宇都宮がスマホを渡してくる。
 「部屋の中央に置かれてる丸テーブルあるよね?」
 再び写真を見せてもらう。
 「あ、わかりました」
 錦もすぐに気が付いた。
 森川美麗の整頓された部屋、その中央に置かれている丸テーブルになにか乗っかっていたのだ。
 そう、これは
 「レターセットと万年筆かなにかですか?」
 「そうなの。まさにその二つが置かれてるの。それに、ちゃんと使用した形跡もあるの」
 「となると確かに書いてそうですよね……」
 「これが別の用途で使われていたのか、遺書を書いたがどこかに捨てたのか、それとも紛失したのか…。断定はできないけど、可能性があるなって」
 「ここまで自分の最後をきちんとしていたら遺書は残してそうですよね……」
 「そうなの」
 森川美麗は死ぬ前に修行かの如く念入りに準備をしていた。
 結果的にまだ俺は自分の部屋で生活が出来ているともいえる。
 これが俺や警察、あるいは森川美麗の母や宇都宮に対しての優しさとかの表れと捉えていいのだろうか?
 そのような人が自殺するとはとても思えないが……。

 結局その後も宇都宮と頭を捻ったがまだ断定できないことが多いために解散となった。
 真相には近づいたかもしれないが、まだまだ謎が多い。
 そして、今日も俺は森川美麗が死んだ部屋、つまり俺の部屋で寝る。
 方々から引っ越しを勧められているが、今のところ平気なのでそのままでいる。
 少なくとも引っ越しをするにしてもこの件に関してどんな形にせよ決着をつけてからにするつもりだ。
 今日の宇都宮の提示した森川美麗とのやり取り。ごくごく普通の女性の会話でしかないが、例の「古い恩人」、この人物が強く関係していそうではある。
 まず間違いなく俺ではないはずだ。髪の色が何と言おうがそんな他人の人生を変えられるような人間ではない。
 それに遺書の件も解決していない。そもそも存在するのかすらわからないのだが、遺書を残さないとは思えない。
 うーーーん。
 考え事をしているとなかなか眠りに付けなかった。
 錦は暗い部屋の中ですこし前に宇都宮から教えてもらった森川美麗のSNSアカウントを覗く。
 写真などを主に投稿することが出来るそのSNSには生きている時の文字通り生き生きとした森川美麗がいる。
 友達と出かけた様子、近所のカフェの写真、今日宇都宮と行って来たカフェの写真もある。それに、自炊も多少するようで、料理をしたという投稿もあった。
 さらに、森川美麗は一人旅行もたまに行っていたらしい。風景や街並みなどの写真も多い。素人目線ではあるが、いい写真ばかりだ。持っている一眼レフカメラの紹介もされていたのでそれで撮ったことがわかる。
 写真も趣味なのか。
 SNSに載っている写真にはそれ以外にも携帯で撮ったのであろう友達との写真も多い。
 笑顔で写る森川美麗は、冷静にとても美しい女性だ。
 俺の部屋で死んでなければ好きになってたかもしれない、とようやく眠くなってきた錦の脳内に浮かんだ。
 そんなことが浮かびながら、意識はいつの間にか消えていた。

 翌朝。
 少し前に水の張ったお皿に移しておいた白い菊に日差しが当たっており、それを見た錦はやはりもっとちゃんと森川美麗のことを知りたいと思った。
 だが、なにをすればいいのかはまだ判然としない。
 とりあえず日常は続くので大学に行ってそれなりに過ごす。

 「なんかさ、森川美麗ってやっぱ美人だな。」
 酔った勢いでつい口から出てきてしまった。
 「え、本気で言ってる?迷惑女なことには変わりないぞ?」
 そう言ってチヒロがハイボールを一気に飲み干す。
 「まあ、改めてだけどこんな事情が無ければ客観的に見て美人ではあるかもな。」
 ツカサも乗っかる。
 「だよな。初めは意味わからな過ぎたけど、なんかだんだんそう言うの薄れてきたっていうか、結果的に俺は引っ越しとかしてないし」
 「えー、錦、ほんとにそれでいいわけ?てか、今って錦の部屋は事故物件ってことだよね?」
 「おい、チヒロ、お前…」ツカサはチヒロがこぼしたチューハイを拭く。
 「確かにそのはずだけど、家賃の話とかはなんもなかったなー」
 「騙されてんじゃん!絶対!ゆーれいとかでないわけ?森川の!」
 「幽霊とか信じてないし、出たとしても別に美人ならいいわ」今日は特に酔っているらしい。
 「そういえばこの前宇都宮さんと話してなにかわかった?」ツカサが話題を変える。
 「あ、そうそう。ツカサに言ってもらった通りに聞いて、森川さんと宇都宮さんの関係、というか昔話を聞かせてもらったわ」
「なにかわかった?」
「二人は親友と呼べるには十分、というかそれ以上の関係だった。だからこそ宇都宮さんになにも言ってないで自殺するのもかなり不可解に感じた」
「そうか、他には?」
「なんか、もしかしたらトリガーとなった人物がいたかもしれないってことと、遺書を書いてた可能性があるってことがわかったわ」
 「え、遺書?なかったはずじゃないの?」チヒロが飲んでいるのはお冷だ。
 「そうなんだけど、使いかけの便せんとかがあったっぽくて」
 「普段から使ってたとかは?」
 「それはわからないな、」
 「でも、あんな死に方して遺書とか書くのかな?」
 「おい、チヒロ、言葉を選べ」
 「だからこそ、その理由を知りたいんだ。やっぱり俺はこの件に関して自分の中で落としどころを見つけたい」
 「変な事件に巻き込まれた、じゃダメなの?」
 「うーん。流石にモヤモヤが残るなそれは」
 「ほっとけばいいのに。そんなこと」チヒロはそう呟いていつの間にか頼んでいた濃い目のハイボールを飲んだ。そしてそのまま机に突っ伏して寝始めた。
 「こいつ、ハイボールなんて飲めたっけ?」
 「さあ、ハイボールは錦がよく飲んでるイメージだったがな」
 今日もいつも通り俺とツカサでチヒロを家まで届けることになりそうだ。
 「で、どうするつもりなんだ?」
 「まずは森川さんの素性とか知りたいよね。人生というか」
 「あー、それなら、旅葬とかってどうだ?」
 「旅葬?」
 そういってツカサがスマホの画面を見せてくる。
 「なんか、亡くなった人の思い出の地を巡る?的なやつらしい。巡輪偲ともいうらしい」
 画面にはとある葬儀会社のホームページと思しきものが表示されていた。
 旅葬とは棺桶に入った亡くなった人と共に亡くなった人の思い出の場所やゆかりのある土地を親族たちと共に巡る、といったもののようだ。
 「まあ、今回は葬儀が終わっちゃってるから、錦と、宇都宮さんとかと一緒に行ってみるのはどうだ?」
 「なるほどな。こんなものがあるんだな」
 「それでなにかわかるかはわからないが、なにもしないよりはアリだと思って」
 ツカサなりに解決の手助けとなるようなことを考えていくれたようだ。
 「確かに、考えの一つに入れておくわ。前もそうだが、すまんな、ツカサ」
 「構わないさ、俺もどっちかって言うと真相は知りたいしさ。」
 「ほんと助かる」
 「じゃ、串盛りもう一つとレモンサワー奢ってくれ」
 「えー、しゃーねえなー」ツカサには他の場面でも世話になってるし、これぐらいいいだろう。それに、こいつは串盛りを頼んでちゃんと俺にもくれる男だ。ついでにこの会計分にチヒロを勘定しないところまでがセットだ。

 さて、家に帰ってこれからの計画を少し考えよう。
 まずは宇都宮さんにツカサからもらった「旅葬」についてメッセージを送った。
 「錦です。森川さんに関してなのですが、友人から“旅葬”というものを教えてもらいました。これのような感じで森川さんにゆかりのある場所に行って同じ景色を見てみたいです。」
 飲んだ後にこれを送っているので、シラフに戻ったら恥ずかしく思う可能性は高い。でも、旅葬のように森川美麗に関わりのある土地に行ってみたいと思ったのは事実だ。
 あとは、人が死ぬときについて調べてみよう。
 酔った勢いじゃないとこういうのは出来ない気がするので、ウイスキーのロックと共にこの課題を迎え撃つことにする。
 森川美麗は見たところ順風満帆、なに不自由ない笑顔の多い人生のように思う。
正直、超羨ましい。
 仮に俺や宇都宮さんが知らないなにかが起きたとしても、よっぽどのことでないと死までは至らないように思うし、宇都宮さんには間違いなく言っているだろう。
 夜中の2時、もうだいぶ遅くなってしまったが、錦は死について調べ続ける。
 鬱、ストレス、いじめ、様々な理由が錦の目に入ってくる。
 だんだんと頭が痛くなってくるような感覚に襲われた。
 やはり、夜中に調べるものではない。
 もう寝ようかと思い、最後に一つのページを開いた。
 「現状に満足していても自殺してしまう人の特徴」
 そのページにはそんな文言が書かれていた。
 森川美麗はこれに該当するのかもしれない。
 調べを進めようかとも思ったが、頭痛が本格的になって来たのでやめた。
 「今度、ツカサにでも調べてもらおうかな」
 そんなことを考えて眠りについた。

 森川美麗はなんの関係もない人間である錦の部屋で自殺していた。
 しかも、胃には食料や水分もなく、彼女の部屋からは腐りそうな食料の一切が捨てられていた。
 万全の準備の上に決行された自殺。
 しかし、遺書の類はなく、一番の親友ともいえる宇都宮にもなにも言っていなかった。
 さすがに宇都宮がなにか情報を隠しているとは考えにくい。
 なにがきっかけで人は死ぬのか。
 森川美麗のような順風満帆な人でも。

 翌朝、今日は講義に出ようと身支度を整える。
 そして、森川美麗が自殺した部屋から今日も日常へと出かけていく。
 
 お昼ごろに宇都宮からメッセージの返信が来た。
 「旅葬、いいと思う。一緒に行こう!」


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逆倉青海 ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!