見出し画像

【県庁廃止論】日本に「1700の自治体」はもう要らない。村上誠一郎の暴論に隠れた"真の構造改革"と、令和の大合併という劇薬

「県庁なんて、全部いらないんですよ」

ちょうど一年ほど前、永田町のベテランの村上誠一郎・前総務相の発言が波紋を呼びました。 彼はインタビューで、日本の統治機構についてこのように語りました。

「今ある1700以上の市町村の構成が難しくなる。大体30万~40万人の市で区切れば全国300~400の市で済み、将来、その市と国が直結して交渉できる」
「極端なことを言えば県庁も全部要らないし、道州制も意味がない」

村上氏といえば、その発言の危うさや政治的立ち位置で評価が大きく割れる人物です。しかし、ことこの自治体のサイズ感に関する指摘に限って言えば、私は核心を突いていると評価します。

人口減少が加速する日本において、明治時代から続く都道府県と、平成の大合併を経てもなお1700以上存在する市町村の二層構造は、明らかに維持不可能です。 しかし一方で、彼の道州制も意味がない(国と市だけでいい)という主張には、実務を知らない政治家特有の危険な落とし穴があります。

本稿では、村上発言を補助線として、90年代から続く廃県置藩の議論を再考し、なぜ私たちが道州制と令和の大合併という劇薬を飲み込まなければならないのか、その必然性を論じます。

300自治体構想の系譜と、警察権の罠

まず、村上氏が提唱する全国を300〜400の市に再編し、県をなくすというアイデア。これは決して彼の思いつきではありません。 日本の政治史において、脈々と受け継がれてきた構造改革の悲願です。

小沢一郎『日本改造計画』の亡霊

1993年、小沢一郎氏が著書『日本改造計画』で提唱した市町村への権限委譲廃県置藩こそが、この議論の源流です。小沢氏は、全国を300程度の基礎自治体に再編し、身近な行政サービスを完結させるべきだと論じました。 実際に行われた平成の大合併も、将来的な道州制や、この基礎自治体の強化(規模拡大)を念頭に置いて推進されたものです。

人口30万人が導く最適解

政治学や公共政策学の観点からも、人口30万〜50万人という規模は一つの黄金比とされています。 これだけの規模があれば、以下のようなメリット(規模の経済)が生まれます。

  • 専門職の配置: 土木、建築、福祉、保健などの分野で、高度な専門性を持った職員を自前で確保できる。

  • 財政の安定: 固定資産税や法人市民税の税収が安定し、国への依存度を下げられる。

  • 完結性: 救急医療やゴミ処理、上下水道といったインフラを、周辺自治体に頼らず単独で維持できる。

現在の人口数千人〜数万人の小規模自治体では、橋一つ直すのにも県の土木事務所に泣きつき、保健師の確保すらままなりません。その意味で、村上氏の300の市に集約するという主張は、行政効率の観点から極めて合理的です。

県廃止の致命的欠陥:警察と教育は誰がやる?

しかし、村上氏の「県庁も要らない(国と直結すればいい)」という部分には、重大な懸念があります。 もし県を廃止し、道州制も導入せずに国ー市の二段階構造にした場合、現在、県が担っている警察教育委員会(教職員人事)はどうなるのでしょうか?

「全部、市がやればいい」
そう思うかもしれません。しかし、歴史はそれが失敗であることを教えています。

米帝強占期において日本は旧警察法を制定し、すべての市と人口5000人以上の町村に自治体警察(自警)を設置させました。これがどうなったか。大失敗でした。

  • 癒着と圧力: 小さな町では、警察署長と地元の顔役(政治家やヤクザ)がズブズブの関係になり、公正な捜査ができなかった。

  • 広域犯罪への無力さ: 犯人が隣の町に逃げたら、管轄外で手が出せない。捜査情報の共有もできない。

  • 財政難: 警察官の給与やパトカーの維持費が払えず、治安が崩壊した。

結局、住民投票で自警を返上する自治体が相次ぎ、1954年の現行警察法(都道府県警察)へと逆戻りしたのです「国と市だけでいい」という暴論は、この規模の経済が働かない機能を無視しています。 警察、広域防災、河川管理、高校教育。これらは30万人の市単位では荷が重く、かといって国が直接やるには細かすぎるのです。

だからこそ、私たちはという非効率な枠組みを壊しつつも、広域行政を担う受け皿としての道州制をセットで考えなければなりません。

は解体し、道州へ。そして基礎自治体は令和の大合併で強制的に再編する。そのために必要な合併特例債というアメと、人口減少自治体への降格・廃止というムチについて、タブーを恐れず具体的なロードマップを描きます。

道州制と令和の大合併しか勝たん

村上氏は「道州制も意味がない」と言いましたが、それは間違いです。 今すぐやるべきは、一刻も早い道州制の導入と、それに合わせた令和の大合併(基礎自治体の再編)です。

なぜ道州制が必要なのか

現在、日本には47の都道府県があります。しかし、鳥取県(約53万人)や島根県(約65万人)の人口を見てください。東京都世田谷区(約94万人)よりも少ないのです。世田谷区より少ない人口のために、知事がいて、県議会があり、教育委員会があり、県警本部があり、地方銀行やテレビ局がある。 これは明らかに行政コストの無駄です。

一番ドラスティックな改革案は、外交・安全保障・通貨発行権以外の権限をすべて州に渡す連邦制(日本維新の会などが主張)ですが、そこまで行かずとも、単なる都道府県合併としての道州制でも十分に効果はあります。

  • 広域行政の効率化: 警察や教育委員会の管轄を広げることで、人員配置の最適化や高度化が可能になる。

  • 職員の大幅削減: 47個ある総務部や企画部を、10個程度のに集約すれば、管理部門の公務員を数万人単位で削減できる。

「郷土愛がなくなる」という反論がありますが、行政区画と文化的なアイデンティティは別物です。行政はあくまでサービス提供のための装置であり、効率性が最優先されるべきです。

令和の大合併断行のすすめ

道州制とセットで行うべきなのが、基礎自治体の再編です。 目指すは村上氏の言う通り、全国300自治体です。

そのためには、平成の大合併で使われた合併特例債という強力なインセンティブ(アメ)を、さらに強化して復活させる必要があります。

【用語解説:合併特例債とは?】

平成の大合併を推進した最大のエンジンです。通常、自治体が公共施設(公民館や道路など)を作るために借金(起債)をすると、その返済は自分たちで行わなければなりません。しかし、合併した自治体に限り、「借金の返済額の7割を、国が肩代わりしてあげるよ(交付税措置)」という魔法のような制度です。これにより、「合併すれば新しい庁舎がタダ同然で建つ!」「道路が直せる!」と、全国の自治体がこぞって合併に走りました。

令和の大合併では、この特例債に加え、さらに強力なアメを用意すべきです。 例えば、合併自治体にはデジタル化(DX)予算を重点配分するなどです。

問答無用の降格・廃止ルールを

アメだけでは動きません。ムチも必要です。 日本の地方自治法の欠陥は、一度昇格したら、どれだけ衰退してもそのままという点です。

象徴的なのが、北海道にある歌志内市(うたしないし)です。かつては炭鉱で栄えましたが、現在の人口は約2,473人(2024年時点)。2,400人しかいないのに、なのです。市長がいて、市議会があり、市役所がある。これは納税者に対する背信行為と言っても過言ではありません。

私はここに、以下の問答無用の自動降格・廃止ルールを導入することを提言します。

  1. 市から町へ: 3年連続で人口が5万人(あるいは3万人)を下回った市は、自動的に町へ降格させる。

  2. 町から村へ: 3年連続で人口が1万人を下回った町は、自動的に村へ降格させる。

  3. 強制編入(廃止): 3年連続で人口が1,000人を下回った自治体は、自治体としての存続能力がないとみなし、問答無用で近隣の自治体に編入させる。

「地方の切り捨てだ」と批判されるでしょう。しかし、人口減少社会において、すべての集落にフルスペックの行政機能(役場、議会、教育委員会)を維持することは不可能です。看板を下ろし、スリム化することこそが、その地域が生き残る唯一の道なのです。

まとめ:地図は行政のためにあるのではない

結論として、村上氏の300自治体構想は正しい。しかし、県廃止・道州制不要論は間違いです。 正解は、道州制の導入×令和の大合併の合わせ技です。

これによって行政コストを圧縮し、浮いた財源を福祉や教育、そして次世代への投資に回す。これ以外に日本が生き残る道はありません。

ただし、最後に一つだけ注文をつけたいことがあります。 それは区割りと名前です。

平成の大合併では、歴史的背景(地歴)を無視した無理やりな合併や、「南セントレア市(未遂)」や「さくら市」「みどり市」といった、土地の固有性を消し去るようなキラキラ地名が爆誕しました。また、道州制の区割り案でも、文化圏の違う地域を定規で引いたように分ける案が散見されます。

行政は効率化すべきですが、地名は地域の歴史そのものです。令和の大合併を行う際は、住民のアイデンティティである地歴を尊重した区割りと、その土地に相応しい、重みのある命名が行われることを切に願います。

効率的な統治機構と、誇りある地域の歴史。この二つを両立させて初めて、この国は再起動できるのです。

#道州制 #令和の大合併 #平成の大合併 #村上誠一郎 #地方自治 #行政改革 #歌志内市 #小沢一郎 #廃県置藩 #公務員

いいなと思ったら応援しよう!