エッセイ「下町ロケットエンジン」
種子島からロケットが発射されると、成功しようが失敗しようが、大きなニュースとして日本中を駆け巡るでしょう。もちろん成功するに越したことはないんだけど、地上に大量の白煙を残してね、美しい弧を描きながら、紺碧の空へと吸い込まれるように消えていく姿を見送るのは、どこか誇らしい気持ちになるんだよ。
だけどね、あの巨大なロケットの心臓部、まあ、燃焼系の極低温の液体燃料を正確に制御する燃料バルブがどれほど重要か知る人は少ないかもしれない。この気の遠くなるような極限状態に耐えうる高度な技術力を支えているのが、IHIという会社なんです。
少し上の世代の人なら「石川島播磨重工業」といったほうがいいかもしれない。彼らの優れた技術は宇宙空間だけでなくてね、レインボーブリッジや明石海峡大橋の構造材、さらには自動車の走りを支えるターボチャージャーなんかね、意外なところにもたくさん生かされている。
それでも、世界基準でトップクラスの実力を持っている日本のメーカーは、決してIHIだけじゃありませんよ。他にも名前こそ一般には広く知られていないけど、世界を舞台に対等以上に戦えるメーカーなんてわんさとあるんだ。
たとえば、高度な分析計測機器で世界に貢献している島津製作所や、ミニチュアベアリングなどの精密部品で圧倒的なシェアを誇り、かつては警察用拳銃の「ニューナンブ」を製造していたことでも知られるミネベアミツミ。彼らもまた、世界が頼る確かな技術を持っているんだよ。
そんな日本の物作りの系譜にあって、今もっとも記念すべき挑戦を続けているのが、最初にあげたIHIなんです。日本、イギリス、イタリアで共同開発している次期戦闘機「GCAP」のエンジンの雛形を、このIHIが製造した。軍用機のターボファンエンジンを造るというのは、現代科学の最難関とも言われている世界。燃焼ガスの温度は1600度を超え、金属が溶け出す極限状態の中でパーツを高速回転させなきゃいけないからね。それを可能にしたのが、結晶の境界線のない「一つの結晶」として丸ごと作る、世界でもごく限られた国しか持たない「単結晶ブレード」という超絶技術なんです。イギリスの名門ロールス・ロイスが量産を担うほどの巨大プロジェクトで、日本の技術が心臓部の根幹を任されているなんて、本当に目を見張るものがあるじゃないか。
日本はもう技術力では世界に置いていかれたなんて切り捨てられることもあるけどね、そいつはお門違いですよ。日本の物作りの底力というものは、決して衰えてなんかいないんだ。それはね、いわば世界規模で戦うことができる「下町ロケット」なんだ。
了
いいなと思ったら応援しよう!
自分の記事の価値を知りたいと思っています。
いただいたチップで一杯の美味しいコーヒーを飲ませていただきますので、応援よろしくお願いします。
