エッセイ「モーニングの調律」
朝食というものはね、毎日決められた時間に食べるのが理想なんだ。私は基本的に白飯に納豆と味噌汁があれば事足りるんだけど、量がどうとかよりも時間がズレると、一日の始まりだというのに決まりが悪くていけない。なんだか出鼻をくじかれた気分になるんだよ。
これがね、六時半に食べるところを七時になったとかならまだいいんだけど、八時、まして九時なんかになると一日のペースが崩れてしまうんです。そんなときは諦めて近所の喫茶店へ行くんだ。色々と口実を考えてね。
愛知のほうから押し寄せてきた黒船のごときモーニングじゃない、私の好きな喫茶店のモーニングがお目当てですよ。気持ち程度のバターが添えられたトーストに、軽く焼いたベーコン、小さなサラダにゆで卵のワンプレート。そして、朝は目の覚めるグレープフルーツジュース。この彩りだけで腹が減るじゃないか。昼ならナポリタンかカレーか迷うけどね、朝はモーニング一つしかないのもありがたい。
こんな古い喫茶店のトーストがなぜ美味しいのかというとね、そういう店は古くから付き合いのあるパン屋から、焼きたての美味しいパンを仕入れているから。それをマスターが年季の入ったトースターに入れ、焼き時間を見極めて焼くから絶品になるんですよ。
私はね、軽く炙って外側をパリッとさせたバゲットが好きなんだけど、こと食パンについてはこのトーストがいいね。焼き色のついた表面にサッとバターを塗ってかぶりつく。バターの香りとコクが染み込んだパンは中が少しモッチリとしていてね、表面のサクッとした歯ごたえとの違いが好きだね。ベーコンの塩気とサッパリしたサラダ、最後に残したゆで卵の淡白な味。これぞ、モーニングだよ。
おまけにね、パンの炭水化物、ベーコンの脂質、サラダとグレープフルーツジュースのビタミンに卵のタンパク質なんてバランスもいいでしょう。量だって多すぎず少なすぎずがいい。
おっといけない。モーニングを食べるときは迷うものが他にないと書いてしまったが、タマゴサンドを忘れていた。
喫茶店のタマゴサンドの美味しさはね、茹でたての卵を粗めに潰して、マヨネーズと塩胡椒、隠し味のからしを利かせて、しっとりした食パンで挟むところにある。一口齧れば、卵のコクとマヨネーズの酸味が広がる。トーストとは違うあの温かくてしっとりとした優しさは、朝の胃袋を満たしてくれるんです。
こうしてね、静かな席で新聞をめくる音を聴きながら平らげ、食後に熱いブレンドをすする頃には、すっかり良いスタートを切る準備が整っている。都合のいい口実を作ってやってきた喫茶店で過ごすこの時間はね、狂ってしまった一日の調律を行うための贅沢なひとときなんです。
了
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