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エッセイ「そうめん怖い」

 私はどうにも「そうめん」というやつが苦手なんだ。確かに真夏に熱い麺はやっかいだとか、食欲が落ちるとかね、そういうことは分かるんだけど、「素麺」なんて読んで字のごとく味気ないんだよ。

​ 江戸の昔は食事で涼をとらないといけないわけなんだけど、やはり町人たちもそうめんに飽き飽きしてくるとね、色々と工夫を重ねるんだ。なかには焼き魚のほぐし身と食べたなんて記録もあるけど、私が好きなのは二つだね。白ごまをすり鉢で油が出るくらい擦ってツユで割ったものと、ツユはそのままで大量の薬味で食べる方法だ。

​ 薬味なんかはね、長ねぎの輪切りにみょうがと大葉の細切りを混ぜ、それとは別にわさびや水気を少し多めに切った大根おろしを添える。あとは気ままに食べるんだ。どちらもそばの食べ方ですよ。

​ そばっ子の私としてはどちらも好きなんだけどね、ときどきは悪戯心が芽生えるんです。そんなときは、ラーメンに乗っているようなネギチャーシューを作るんだよ。

​ 長ねぎをたっぷりと半分以上、これを白髪ネギにする。芯の辛味が強い部分もしっかり使うんだ。長さは7~8cmほどがいい。これを軽く、辛味が抜けない程度に水でさらしたら、キッチンペーパーに並べてしっかりと水気を切る。ここで余計な水気が残っているとね、細切りにしたチャーシューと和えたあとですぐにシャキシャキとした歯ごたえが失せてしまう。そうしたら、これはあればなんだけど、針生姜も用意したいね。

​ それらを顆粒のほんだし、少しの醤油、塩、一味唐辛子、そして、香り付けのごま油で手際よく混ぜて完成だ。

​ これを薬味として食べるとネギと生姜、香りの違う辛味がピリッと味を引き締め、チャーシューや醤油のわずかばかりの塩っ気がツユの濃い味を邪魔することなく、肉を食べているんだという満足感を味わえる。

​ ツユに浸したそうめんの上にどさりを乗せてね、ネギチャーシューが口へ入ったら一気にずずずっとすする。そうめんの最後のほうは犬が尾を振るみたいに、ツユを周りに飛ばすけど知ったことじゃありませんよ。

​ ネギのシャキッ、シャキッという音に混じってね、ときおり針生姜のコリッという歯ごたえも気持ちいい。

​ これがね、私の数少ないそうめんの楽しみ方だ。子供のころは、家の戸を開け放ち、遠くに積乱雲を眺めながら食べた記憶があるけれど、いまの暑さじゃそんなことは出来ないね。エアコンの効いた部屋じゃないといけない。だからね、気持ちだけでも昼はそうめんを食べて、涼をとる気になるんです。




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