話を聞かない夫と、冷しゃぶを食べる私
熱い日が続いていた。
今日の夕食は冷しゃぶだ。
休日なので、家族もそろっている。
次女のおろした大根おろしをたっぷり添えて、柑橘風味のポン酢でさっぱりといただく。
夫は後で運転もあるので、ノンアルだけど、赤ワインも開けて。
長女が「今日は塾で、アカウントフォオォー!!って、英熟語を一人ずつ、立って大声で言わされんの。意味わかんない!」
だのなんだのと、手振り身振りでしゃべっている。
「それ、お姉ちゃんも悪くない?」などと、ちょいちょい切り込んでくる次女。
「だから~」と長女。
リラックスした休日の、いつもの我が家の和やかな夕食だ。
そのうちに話の流れで「人の話をぜんぜん聞いてない人、いるよね」という話題になった。
パパが「お、それは分かる。オレも、好きな人からじゃないと、話を聞かないってことがよくあったんだよね」と言った。
“ 話を聞かない人は、困るね ” ということでなく、「話を聞かないのはオレ」という話のようだった。
「好きじゃない人に何か言われても、ぷいーってソッポ向いてたから」と横に顔を向けて見せた。
え?パパ、今、なんて言いました?
私が、毎度同じことを3回も4回も言ってるにもかかわらず
「オレ、それ初めて聞いた!」と、いっつもまったく記憶がないのは、好きじゃない人からの話だったから、ということですか?
私はちょっとフリーズして、ぐっと夫を見つめた。
『相棒』の右京さんのように「はい~?」と、心の中で突っ込みながら。
そんな私のようすをポジティブシンキングな夫は、妻が熱心にオレの話に耳を傾けていると勘違いしたらしく、さらに力を込めて
「そ!好きじゃない人の話は、耳に入ってこないの!」
と、自ら危険ゾーンに入っていった。
はい。
そうですか。
いや別にね、新婚じゃあるまいし。
結婚18年目ともなれば、そんなもんか知らんけど。
私だって、そりゃあなた一筋ってわけじゃないし。
推しだって、日本にも韓国にも、中国にもいますからね。
なんだったらアニメ界にもいますから。
だいたいあなたはね、「指ケガして痛い~」と言いながら反対の手を出して、
「逆の手じゃないの?」と突っ込むと「あれ、そうだっけ、治ったかな」
と、根っからのド天然だしね。
やれやれ。
娘たちは「話を聞かないのは次女だよね~」「は!それはお姉ちゃんでしょ」と小突きあっている。
夫はといえば「この赤ワイン、なかなかいけるな!」と、すでに出来上がり気味だ。
ノンアルなのに。
そして「ほい、ママ!」
と、私の空いたグラスにノンアルワインを注いでる。
オレって気が利く~と満足げに。
やれやれ。
私は、最後の一切れになった冷しゃぶに、残りの大根おろしを全部乗せた。
そしてぱくりと一息に口に入れた。
