バトルに乾杯!|第三話 「沈む盾」
第三話は第二話の後半戦にあたります。まだの方はどうぞ→第二話
🎯
沼地。ダベッドの一行は巨体アルマジドンと交戦中。盾役ジードの足場固定と、地の宝珠を宿した剣で攻めに入った直後から続きます。
では☘️🐾

第三話 沈む盾

「ギェェェエエ――」
痛みに身をよじったアルマジドンが、じわりと盾から離れ、泥水に紛れ込む。
淀んだ水が不規則に波打ち、沈んだ足元の動きを読ませない。
殺意の気配だけが、水面に広がる。
だが、狙いは変わらない。
その首が、戻る。
そして、ジードの盾へ、吸い込まれるように向きを変えた。
水を押し分け、低く沈んだ体が、流れ込むように突っ込んでくる。
ズシィィーン。
「ぐふっ」
ジードの足が、さらに泥へ沈んだ。
銀の曲面に宿った光が、わずかに揺れる。
「今だ!」
「おう!」
ダベッドは、もう動いていた。
「おりゃあああっ!」
刃が、ひび割れた傷口へ叩き込まれる。
グシャ。
「ギェァア――!」
「だあああっ!」
もう一撃。
グジャリ。
黄土色のかけらが、泥の上に飛び散る。
「ギェェェエエ――!」
割れ目の奥を見る。
硬い層の向こうで、暗い色がぬらりとのぞいている。
「届くぞ。やわらかいところに!」
「よし、頼む」
ジードは沈みかけた足を踏み直し、銀の曲面を正面へ戻した。
いったん離れた黄土色の体が、低く身を沈めた。
だが、さっきと何かが違う。
頭部に埋まった宝石のようなものが、にじむように光っていた。
灰色の違和感が、ダベッドの背中をふいになぞる。
反射的に息を吸った。
あれは、受けるやつじゃない。
「ジード、避けろ!」
ジードの肩が、ぴくりと動いた。
足が、泥を噛む。
ぐっと肩を横へ逃がす。
だが、遅い。
低く沈んだ体は、まっすぐではなかった。
泥を巻き上げながら、鮮やかに光る突起が斜めに食い込んでくる。
ガギィン。
銀の端が、えぐれる。
「ぐはぁっ!」
盾につながっていた腕あてが外れる。
跳ねる黒い水。
銀の曲面が、泥の上を弧を描いて飛ぶ。
遅れて、ジードの体が大きく傾く。
突起の光は、なお消えていない。
一拍、ねじれる首。
その頭が、ジードの胴へ弾けるように突き込まれる。
ドゴォン。
「がはっ」
踏んばるものを失ったジードの体が、泥の上を抵抗なく滑る。
その先で、淀んだ水が口を開けていた。
ドバシャッ。
淀んだ水面が、人影を飲み込んだ。
「ジードッ!」
「ジードッ! ジード!!」
駆け出しかけた足を、泥が阻む。
「くそっ」
その声と同時に、黄土色の体が狂ったようにそこへ飛び込む。
ドバァン。
泥水が、壁のように跳ね上がった。
落ちた水の向こうで、黄土色の背がうねる。
「ギェッ、ギェッエエ――!」
アルマジドンは、ジードが沈んだあたりを踏み荒らしていた。
ちぎれた草や白い花が、泥水の上で乱れ、沈んでいく。
ダベッドの喉が、ひゅっと細くなった。
水面には、ジードの姿も声もない。
どう猛な雄叫びだけがこだまする。
少し離れた水面に、光を失った盾だけが半ば沈んで浮いていた。
指が、剣の柄を強く握る。
「くそっ、ここで死ぬのか……!」
手の中で、ギリギリときしんだ。
切り替えろ、切り替えろ。ただ、切り替えろ。
まだ終わらねぇ。
だが、ジードも盾もなく、足場は最悪で、なお動く敵を前に、ここで止まれば次は自分が消える。
次の瞬間、黒い水が割れた。
黄土色の体が、一直線に突っ込んでくる。
盾じゃない。
こちらに来る!
足は重い。
避けきれない。
逃げるより、前だ。
短く息を吐いた。
そのとき、巨体がぐにゃりとねじれた。
かすかな違和感が、胸をかすめる。
割れた背中を、かばっている。
影が迫る。
低く沈んだ頭が、泥水を割ってくる。
刃先を、割れ目へ向けた。
「うおおりゃあっ」
その巨体が、さらにねじれた。
下側に、白っぽい腹が見えた。
――そこだ!
迷わず踏み込んだ。
泥が、顔のすぐ下で揺れた。
足が、沈む。
膝まで。
太ももまで。
もう、引けない。
それでも、剣先は下げない。
影がかかる。
迫る体の下で、剣を突き込む一点だけを見ていた。
――地の宝珠、全部くれてやる。
刃の根元で、土色の光がひび割れるように広がった。
頭上の影が、さらに濃くなる。
剣の柄に両手をそろえ、深く握り込んだ。
狙いは、すぐそこにある。
「うおおおっ!」
刃先が、腹へ飛ぶ。
グシャ。
重い感触が、腕まで返った。
「ぬうぅっ」
刃が、腹の奥へ食い込む。
「ギェェェアアア――!」
土色の光が、傷口の中へ走り、
剣全体が、びりりと震える。
腹の裂け目が、ばきりと鳴り、体がびくりと跳ねる。
その拍子に、刃が腹からするりと抜けた。
泥の面すれすれに、垂れた頭がのぞいていた。
ダベッドの息が戻り、その一点だけが、やけにはっきり見えてくる。
頭部に埋まった宝石の光が、ゆっくり薄れていく。
不意に、巨体がぐらりとダベッドへ傾く。
「うおっ」
すかさず剣を前へ放り、濁った水へ身を投げ出す。
黄土色の腹が、水面を押し潰すように落ち、大きな波が、ダベッドの顔を打つ。
巨体は止まらない。
黄土色の背が、吸い込まれるようにずり落ちていく。
波の間で、その背が小さくなっていった。
泥水が、ゆっくり閉じた。
息を詰め直し、淀んだ水の底へ手を伸ばした。
先に放った剣の柄に、指先が触れる。
それを引き寄せ、剣を支えに、からくも沼地から這い上がった。
全身から泥をしたたらせながら、近くの岩に腰を下ろした。
「ハァ、ハァッ……ハァ」
息が、うまく整わない。
沼は、すでに静かになりつつあった。
ジードの姿も、アルマジドンの姿もない。
その静けさの中で、ダベッドはゆっくり目を閉じた。
ジードの声、そして自分の重い足の感触だけが、まだ残っている。
遠くのほうで、鐘がひとつ鳴った。
第四話(作成中)仮「風丘のバフ」
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第一話
第二話
第三話 (作成中)
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少し長くなりましたが、最後までありがとうございました🙇🛍️🐾


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