門番レイン 第十九話 巡回ハミング

第十九話「巡回ハミング」

村長無視の出来事が、きれいに解消した――ある日。


レインは朝から巡回している。


今日は畑コースを進んでいた。


畑にいた村人たちが、ぽつり、ぽつりと声をかけてくる。


「おはようございます、門番さん!」



「おはようございます、いつも早いですね。」

レインは丁寧に返していた。


その瞬間、脳裏に村長の後日談がうかぶ。


「おはようございます、プレイン」



「レインです」

(なにかを感じる。……この流れ、少しだけ危ない。)



「レイン、今日も元気?」

レインは言葉を返さず、手を挙げて小さく振った。

ジェスチャーだけで会話の入口をしぼめた。


そして、いったん歩みを緩めていたが、すぐに足を早めた。


――


両サイドの畑は見通しがよく、村人の姿もまばらだった。


畑の道は、まだ湿っていた。



足音が、やわらかく沈む。


息を吸うと、冷えた空気が喉をすっと通った。

息を吐いても、すんなり次が吸い込める。

喉の奥に、つっかえがない。



レインは朝から、心が晴れやかだった。

天気も同期しているようだ。


喉の調子がいい。


レインはそれだけで、少しだけ安心してしまう。



こんな村では、「少しだけ安心」がいちばん危ないと学び始めているのに。


(……でも、調子がいい。気分がいい。)


歩きながら、つい、鼻歌が出た。



ふふ、ふーん。


巡回の足音に合わせて、短く、長く。そこに風が一枚混ざる。


最初は適当だった。


音程も、リズムも、ただの気分。

今日は朝から喉の調子がよく、高音も出る。



しかし、少し妙だ。



出した瞬間、音が勝手に形を決める。


なぜか、ふんわり手放した風船が、いつの間にか手元にあるようだ。

うまく言えないが、引っぱられる。

巡回のリズムも、そこに合ってくる。


ハミングすると途中から同じメロディーになる。



――途中から。


気づくと、勝手に同じ旋律へ吸い寄せられていた。

何度やっても、別の歌を始めたつもりでも、途中から同じ場所へ戻る。


別の高さから入っても、途中で同じ角度に曲がってしまう。


喉の中に、見えないレールが敷かれているみたいだ。



レインは足を止めた。



(……なんだこれ。喉がいいのに、自由がない。)


もう一度、歩き出して別のメロディーを試す。


ふん、ふん、ふー……ん?



まただ。


また、同じ旋律に乗っている。


しかも、その旋律が、どこかで聞いたことがある気がした。


耳の奥で、変な笑い声が浮かぶ。



なんとか亭。

(やめろ。まさか――)


じゃらじゃら。


第二十話「旋律と同期」


総目次はこちらへ(ひと言コメントあり、日々更新中です🦜)NEW🎯
総目次

いいなと思ったら応援しよう!

アマドリウシロ お読みいただき、ありがとうございます😊時間をかけてひとつの記事を書くスタイルです☘️「続きも読みたい」「応援したい」と思っていただけましたら、目指せnote小説家。その今後をチップでそっと応援いただけると励みになります🐦プライバシーを尊重し、気楽に交流できる世界へ🌏