門番レイン 第二十二話 ないがある

第二十二話「ないがある」

朝。


朝食を軽く済ませたレインは、出勤準備をしていた。

なんとなく、すがすがしい。


ハミングしても、今日はなんとかなりそうな気がする。

でも――当分やめておこう、と決めた。

(調子がいい日は、だいたい危ない。)

宿舎のドアを閉めた。


一歩目を出す寸前。

レインの足が、わずかに引っかかった。

(あぶっ)

体が先に傾いて、反射で手を地面についた。


転んだわけじゃない。
転びかけただけだ。

その拍子に。


こつん。


小さな音が、足元で鳴った。

レインは手をついたまま、そちらを見た。

(……え。)

茶色いものが、少しだけ転がって止まっていた。

小さい。
丸い。

硬そうな凹凸のついた、木の実みたいなもの。


見たことはある。

たぶん、クルミに近い。


でも、なんでそれがここにあるのかはわからない。

自分の近くから落ちた気がする。
なのに、入れた覚えがない。
それが先に、気持ち悪かった。


どこから。
ポケットか。
いや、そんなはずはない。


レインは一瞬だけ指を止めてから、そっと拾い上げた。


硬い。指先に、ひっかかりがある。

手のひらに乗せると、ますますそれは、
クルミみたいに見えた。

(……ない。俺、これを入れた覚えがない。)

レインはポケットを探った。


ほかには何もない。穴もない。
それだけが、いる。

(誰の? どこから? いつ?)

考え始めた瞬間に、もう負けだと思った。

レインはひとまず、それをポケットに戻した。


とりあえず出勤だ。

今日は湖コースを巡回する。


歩きながら、レインはもう一度だけポケットの口を押さえた。


入れた覚えはないのに、いまはたしかにそこにある。


ポケットのところだけ、妙に気になった。


歩くたび、そこへ手が行きそうになる。


道を歩いていると、村人のハミングが聞こえる。
まあ、気持ちよさそうだ。


でもレインは、それどころじゃない。


あるものがないのも、気が気でない。
が、ないものがあるのも、気が気でない。


どうすべきか考えながら歩いていると。


後ろから音が鳴った。


じゃら。


 第二十三話 「盗ってない」
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