門番レイン 第六話 初公開

第六話 「初公開」

うまいなあ、肉。

ビールも、ぐびぐび。

ぷはっ。


レインは、うまさに酔いしれていた。


人の喧騒で、世界が少し揺れる。


……あれ。なんだっけなあ。


そうだ。


イントロで手を挙げて、許可。

手で拒否を伝えるのが、停止。


(旨い。……けど、まずい。油断するところだった。)

ぽろん。
ぽろん、ぽろんぽぽろん、ぽろろん……。


始まった。

さっきまでのガヤガヤが、すっと薄れていく。

音が静かになるというより、静寂に塗り替わる。


反対の角の吟遊詩人が、こちらをにやりと見ていた。


レインの息が、浅くなる。

息を吐く前に、指が勝手に動いた。
指先が、細かく震える。


(見られる。仕事になる。指、やめろ。今だけは、ちゃんとしろ。)


レインは、おそるおそる手を挙げた。

肘が途中で止まりそうになる。
それでも、挙げきる。


合図が通った瞬間、近くの客が気づいて、ぱちぱちと拍手が起きた。


レインは、息を吐いた。

(大丈夫。俺、やれてる。)


それが広がって、店の中がいったん、あたたかい音に包まれる。


吟遊詩人は、帽子の羽根を指先で軽く押さえた。


それから、レインに向けて小さく頷く。


ぽろん。


一音置いて、歌が始まった。



♪「門の前で 立ち止まる人よ
 紙を読んで 息を整えた人よー

 迷いは 恥じゃない
 迷いは 合図だ
 ここへ来たってことだけで
 もう、十分だ

 よく来たな レインー

 今日の分だけ 座っていい
 名前は まだ曲がっていても
 腹は まっすぐ減るんだ
 肉は温かい 湯気は正しい
 ビールは冷たい 喉は正直だ
 仕事は明日でいい

 今夜は ここで息をしろー」


歌は、特別な言葉を言うでもなく、
ただ、今日の出来事を短く拾って、丸く整えていく。

(……ああ。そういう仕事か。)

レインは、笑うでもなく、泣くでもなく、
椅子の背に、少しだけ体を預ける。

拍手がもう一度、ぱらぱらと起きた。

その音が、外の暗さを追い返すみたいに聞こえた。

ビールの冷たさが、舌に戻ってくる。
肉も、ちゃんとうまい。

(ふぅ。なんとかなったな。)



ぽろん。♪「スカ捨て~無害」



遠くで、門がギィと鳴った。

レインだけが、反射で顔を上げた。

「え?」

 第七話 「朝の巡回」

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