#3つのお題に空想のひらめきを「木綱の絆」
第30回 3つのお題
お題①:「雲の上の待合室」
お題②:「消えない手紙」
お題③:「木の指輪」
結婚5周年の節目の日を「木婚式」という。夫婦はその日、お互いの誕生木を使った指輪を贈り合う風習がある。木の指輪に限らず、木製の何かでも良いらしい。風雪に耐え成長を続ける木のように、共に成長していこうと絆を確かめ合う日なのだ。二本の木が近すぎれば、お互いの枝葉が邪魔して成長を妨げる。遠すぎてもお互いを無視して我勝手に伸びていく。つかず離れず、手綱を持って引っ張り合える距離が良い。絆とは木綱から来ているのかもしれない。
一組の若い夫婦。夫は4月生まれのサクラ、妻は3月生まれのヒノキが誕生木だ。木婚式に何を贈り合うのか、まだ何も決めてない二人。ただ、その日までお互い秘密にしておこうねとだけ決めていた。
夫はヒノキの板と彫刻刀を買った。妻には残業だと偽って、会社の会議室にこもって連日カリカリと字を掘った。妻に向けたラブレターである。一生消えない手紙になる。出会いから今までのこと、感謝の気持ち。そして最後の一行は「死ぬときはオレが先に逝くよ。君のいない人生は寂しくて耐えられない」。
妻は桜の苗木を買った。オーヘンリーの賢者の贈り物みたいに、相手を一番に思う何かではないかもしれない。でも桜は夫の分身だから私が大切に育てていくと鉢に植え替えた。まだ安アパートで植える庭もないけれど、いつか小さくても庭のある家を二人で建てようと誓い合うのだ。
あれから数十年。感激した妻が玄関に飾った「消えない手紙」は今、老人ホームの夫の個室に飾られている。意に反して先に旅立った妻の笑顔がいつも彼の脳裏に浮かぶ。孫達に囲まれて、庭のサクラの下で花見をした日。
「なんだか今日が今までで一番のごちそうね」と自らの手料理を口に運びながら笑う妻の顔だった。
天国の妻に呼び出しがかかった。雲の上の待合室に来てくださいと。
「いよいよ、来るのね」
ほどなくして、あの消えない手紙を抱えた夫がやってきた。
「やあ、久しぶり。またよろしくね」
「はい。こちらこそ。こっちでも桜の苗木を植えときましたよ」
「それは楽しみだ。みんなでまた花見をしような」
その日がいつになるのか、まだ誰にもわからない。
でも、何本もの木綱の日として、必ずやってくるのは間違いない。
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