#3つのお題に空想のひらめきを「微かな望み」
砂が落ちきらないあいだに
意味が生まれる前の風景
書かれなかった方の世界
言葉が意味を拒んだ場所
まだ物語にならない場所で
「去年はかろうじて生き延びたが、今年はもう我慢ならない。ここを脱出するしかない」
夏の暑さは年々過酷になっている。彼はついに意を決して這い出した。
砂粒が彼のまだ濡れた体に纏わりついて、その動きを鈍くする。それでも彼は新天地を目指し、必死に体をくねらせて進んだ。あてがあるわけではない。しかし、あそこにいれば確実に死が待っているのだ。
「この砂が落ちきらないあいだに見つけないと」
彼の水分が枯渇し乾いてしまえば、砂粒たちは落ちていく。砂は邪魔だが
彼の命のバロメーターでもある。
強烈な紫外線が照りつけ、同時に焼けた大地が彼から否応なく水を奪う。彼の意識は朦朧として、もはや自分が何をしているのかもわからなくなっていた。
「オレはもう死ぬのか?」
その時コンビニから親子づれが買い物を済ませて、駐車場の車へと歩いてきた。母親に手を引かれた女の子が視線の先に何かを見つけた。
「?」
それは意味が生まれる前の風景だった。
「あ~!」「何?どうしたの?」「ミミズが死んでるぅ」
女の子は母親と結んだ手をほどいてしゃがみこみ、人差し指で彼をやおら突いたのである。それは死を覚悟した彼にとって、決して書かれなかった方の世界だった。彼はもしやと思った。しかし、母親は叫んだ。
「もう~ばっちいからやめて」
それは瞬時に言葉が意味を拒んだ場所となった。その子が自分を助けてくれるのではないかという彼の微かな望みは絶たれたのである。
彼は息絶えた。微かに残った彼の水分が蒸発し完全に干からびると、砂粒は彼の姿をなぞるように周りに落ちて取り囲んだ。その様子に気づくものは誰一人いない。まだ物語にならない場所で彼は朽ち果て、やがて風に舞った。
いいなと思ったら応援しよう!
サポートありがとうございます!
いまだサポートってよくわかっておりませんw