#3つのお題に空想のひらめきを「星を落とす仕事」
第29回 3つのお題
お題①:「星を落とす仕事」
お題②:「逆さまの街」
お題③:「最後の祈り」
大っぴらには言えないが、大相撲の世界には星を落とす仕事がある。
取り組みで運よく勝つことを星を拾うという。逆に負けることを星を落とすという。星を落とす仕事とは、わざと負けることである。
序二段から三段目に上がった頃、取組相手の部屋の付き人から「明日よろしくな」と浴衣の袖に初めて万札を押し込まれた。
対戦相手は明日勝てば4勝3敗の勝ち越し。すでに5勝して勝ち越しが決まっているオレに白羽の矢が立ったというわけだ。
「八百長はしません!」と突き返せば良かったが、郷里の妹に好きな服でも買いなとお金を送ってやろうと思ってしまったのがまずかった。
「国技とはガチンコじゃないんだ。持ちつ持たれつなんだぞ」
付き人はオレの顔を見てニヤリと笑った。
これっきりにしようと決めてオレは初めて仕事をした。勇み足で相手に頭から飛びこんで、先に土俵に手を付いた。バレなかった。
やつは巧妙に仕事が出来ると噂話が広がったらしく、千秋楽に仕事が舞い込むようになっていた。それまでにいつも勝ち越しを決めていたから、いいこづかい稼ぎだと割り切るようになっていた。
迎える千秋楽。明日勝てば全勝。十両昇進が決まる。取組相手も同じだった。勝った方が関取と呼ばれる地位に立つ。オレは初めて相手に仕事を依頼した。しかし相手は直接頼みに来いという。ちゃんこやの裏で会った。
「あれしきの金でよく頼めたな。十両の地位がかかってるんだぞ」
言われてみれば確かにそうだ。オレは深く頭を下げて謝った。股の間の浴衣の向こうに逆さまの街がうっすら見えた。
「すまなかった。この話は無しにしてくれ。お金は返さなくてもいい」
そのままオレは踵を返した。
「馬鹿野郎が!倍出そうと思ったのに。金は返すからな。明日、星を落として取りに来やがれ!」
その夜は流星群が落ちていた。眠れずに起き出して夜空を眺めた。
「明日は絶対勝つ! もう仕事はしないし頼まない」
流れ星に最後の祈りを捧げたオレは翌日、あっさり負けた。千秋楽の仕事の負け癖のせいか、力が入らなかったのである。それ以来、星を落とし続けて、今また三段目にいる。でも、ガチンコ相撲が大好きだ。四股名を昇午星と変えた。心機一転、関取へ再チャレンジする。
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