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第40話✧【癸卯】圧を持たない人へ



あなたは、前に出る人ではなかった。


声を張らない。主張しない。


それでも、気づくと

人の本音のそばにいる。


癸卯。


静かな水(癸)が、

やわらかな草木(卯)を潤す干支。


癸の水は、押さない。

変えようとしない。

必要なところに、静かに染み込む。


卯は、始まりの草。

まだ固まらない芽。

守られなければ折れてしまう柔らかさ。


この組み合わせを持つ彼女は、

無意識に「安全な距離」をつくる。


近づきすぎない。

離れすぎない。


だから人は、あなたの前で警戒をほどいてしまう。


癸卯のあなたは、人を煽らない。


急かさない。正しさを持ち込まない。


言葉より先に、空気が落ち着く。


それは優しさというより、

圧を持たない在り方に近い。


あなたは、

人の弱さを暴かない。


言葉にさせない。


ただ、弱さがあっても大丈夫な場所を

先につくってしまう。


癸卯のあなたは、傷つきやすい。


けれど、それを守ろうともしない。


草木が雨を拒まないように、

来たものを、そのまま受け取る。


だから時に、

流されやすく見える。


けれど実際は逆。


癸卯のあなたは、流れを選んでいる。


荒れる場所には根を下ろさない。

乾いた言葉のそばには立たない。


あなたが力を発揮するのは、

人が張り詰めきったあと。


壊れる手前。

少し疲れすぎた瞬間。


そのときあなたは、何もしない。


励まさない。答えを出さない。


ただ、そこに在る。


すると人は、

自分で呼吸を取り戻す。


癸卯のあなたは、導く人ではない。


それでも、人が自分のペースに戻るのを

邪魔しない。


あなたは、

人生を早く進めるために生まれたのではない。


未完成のままでも、

育っていける余白として、

そこに在る。








甲辰


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