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需給調整市場、上限価格15円・1σ施行から1.5ヶ月——5/13安定供給WG資料が示す「応札不足の継続」と次の7.21円段階発動の判断軸

概要

2026年4月1日に施行された需給調整市場の制度変更——一次・二次①・複合商品の上限価格を19.51円/ΔkW・30分から15円/ΔkW・30分へ引き下げ、募集量を3σ相当から1σ相当へ縮減——から約1.5ヶ月が経過しました。

資源エネルギー庁が2026年5月13日に開催した電力安定供給ワーキンググループ第1回会合の資料8では、3月13日(受渡分)からの前日取引化と4月の上限価格引下げの運用状況がフォローアップされ、「応札量の増加や一次における不足率の改善が見られたものの、完全には解消されていない」「上限価格付近での応札は一部不落となっているものの、引き続き約定する状況が継続している」との中間評価が示されました[1][2]。

当初想定された段階的引下げ(15円→10円→7.21円)の次ステップ発動可否が、2026年下期の制度設計WG・安定供給WGの最大論点として浮上しています[1][3]。系統用蓄電池事業者にとっては、単独調整力市場収益依存モデルからの転換が一段と現実味を帯びる局面に入りました。

背景と経緯

需給調整力(kW・ΔkW)は、一般送配電事業者(TSO)が周波数を50/60Hz±0.2Hz以内に維持するために必要な調整力で、2021年4月の三次調整力②開設を皮切りに段階的に商品が拡充され、2024年4月までに一次・二次①・二次②・三次①・三次②の5商品体制が出揃いました[4]。商品はEPRX(電力需給調整力取引所)が運営する一元市場で全国大で取引されます[4]。

開設以来の最大の制度課題は、(1) 応札量が募集量を慢性的に下回る「不足率」の高止まり、(2) 約定価格が上限価格(一次・二次①・複合:19.51円、二次②・三次①単独:7.21円)に張り付くことによる調達コスト膨張、の2点でした[5][6]。経済産業省・資源エネルギー庁は2025年度から制度検討作業部会と需給調整市場検討小委員会(OCCTO)の場で集中的に対策を議論し、(a) 週間商品の前日取引化、(b) 上限価格の段階的引下げ、(c) 募集量の1σ統一による複合商品流動性向上、を柱とする見直しを決定しました[3][6][7]。前日取引化は2026年3月13日取引(3月14日受渡分)から、上限価格引下げ・1σ募集量は2026年4月1日から施行されています[5][8]。

上限価格は競争状況の改善度合いを見ながら15円→10円→7.21円と段階的に引き下げる設計で、最終段階の7.21円は二次②・三次①の単独市場と同水準まで揃えるイメージです[3][7]。

今回の動向の詳細

5/13安定供給WG資料8の中間評価

5月13日に開催された安定供給WG第1回の資料8「需給調整市場について」は、施行後の運用状況を初めて公的な場で総括した文書として位置付けられます[1]。資料は「前日取引化と一次・二次①の募集量の削減により、応札量の増加や一次における不足率の改善が見られた」と一定の効果を認めつつも、「完全には解消されていない」と慎重な評価を示しました[1]。

具体的には、(i) 一部のエリアで前日取引化後に応札量が減少し、複合商品であっても応札未達となるケースが報告されている、(ii) 一定量の応札が上限価格付近に集中分布し、上限価格付近での応札は一部不落となるものの引き続き約定している、(iii) 競争状況の改善は時間軸を要する、との認識が示されました[1][3]。エネ庁は1月23日の制度検討作業部会資料の段階で、移行後1ヶ月・2ヶ月・3ヶ月・6ヶ月の実績を踏まえて段階引下げの判断を行う旨を明示しており、5月13日のWGはこの検証サイクルの「1ヶ月時点」のスナップショットに相当します[3]。

次の段階引下げ判断の論点

15円→10円への引下げ判断は、(α) 上限価格付近への応札集中の解消、(β) 不足率(実約定量/募集量)の改善継続、(γ) 投資撤退や事業継続困難の発生有無、の3点を主軸に行われる見通しです[1][3][9]。2025年12月の制度検討作業部会では、7.21円への一律統一案に対して「募集量削減と上限価格引下げの同時実施は事業継続を困難にし、調整力投資を毀損する懸念がある」との意見が複数委員から提出され、これを受けてエネ庁は当初の7.21円直接統一案から、15円→10円→7.21円の段階引下げへと案を修正した経緯があります[7][9]。安定供給WGでは、TSO各社・蓄電池事業者・新電力からの実績データ提出を踏まえ、夏季ピーク期間(7〜8月)の運用状況確認を経た上で、2026年度下期の判断に持ち込む可能性が高いと見られます[1]。

データ・数値分析

需給調整市場の制度変更ポイントを下表に整理します。

参考までに、2026年1月の予備力確保関連の平均単価は0.93円/kW・30分、複合商品の平均約定価格は3.15円/ΔkW・30分との実績が報告されており、平時の約定水準は上限価格を相当下回るレンジに収斂しつつあります。一方で需給逼迫局面では上限価格張り付き応札が集中するため、価格上限の引下げが直接的に調整力調達コスト総額を圧縮する構造です。

ステークホルダーへの影響

発電事業者(火力中心) にとっては、調整力収益単価の頭打ちが進む一方、複合商品の募集量が2026年度に+50%増となるため、一次〜三次①を一括応札できる火力電源は約定機会を拡大できる可能性があります[6]。ガス火力・既設石炭火力ともに調整力収入のウェイトが小さくなる構造変化が進みます[6]。

系統用蓄電池事業者 には最も大きなインパクトが及びます。三次②商品の平均約定単価は依然として相対的に高いものの、複合商品流動性増加に伴い高単価約定機会は減少傾向にあります[6]。長期脱炭素電源オークション(LDDA)落札による固定収益、容量市場kW収益、JEPXスポット裁定(充放電マージン)、自家消費・需要家ペアリングといった「複層的レベニュー設計」を前提とした事業計画への作り直しが急務です[6][10]。本欄でも4月以降の連載記事で繰り返し指摘してきたとおり、調整力単独依存モデルは2026年度上期で実質的に終焉を迎えました[5][10]。

小売電気事業者・需要家 にとっては、調整力調達コストの低下が中長期的に託送料金の引下げ余地を生む方向に作用します[6]。ただし2026年度については夏季需給逼迫リスク(東京エリア8月予備率0.9%)が併存するため、即時の料金低減効果は限定的とみるのが妥当です[6][11]。

系統運用者(TSO) にとっては、応札未達リスクの増大が運用負担となる一方、調達コスト圧縮が監督官庁・需要家からの強い要請を受けている構造があります[1][6]。前日取引化に伴うリアルタイム調整負荷の増加への対応も並行課題です[7]。

今後の見通しとアクションポイント

短期(3ヶ月)では、夏季ピーク(7〜8月)の運用実績が10円段階引下げ判断の最大材料になります。安定供給WGは8月後半〜9月にも2回目以降の会合を開催し、夏季実績を踏まえた次ステップ案を提示する見通しです[1][3]。蓄電池事業者・アグリゲーターは、4〜6月の自社約定データを基に、収益シミュレーションを少なくとも10円ケースで再計算しておく必要があります。LDDA第3回応札(2027年初頭)に向けた応札価格設計にも直結します[10]。

中期(1年)では、2027年4月施行を視野に10円段階の発動可否が決まる蓋然性が高く、さらに条件不整であれば2028年度に7.21円統一が射程に入ります。海外比較では、英国Balancing Mechanism(BM)が応札上限を実質撤廃しスポット市場との一体運用を進めているのに対し、日本は上限価格規制を残したまま競争醸成を図る独自路線にあります[12]。豪州AEMOのFCAS市場(応札上限15,000豪ドル/MW)と比較しても日本の上限価格水準は極めて低く、調整力投資インセンティブとのバランスが今後の最大論点となります[12]。

事業者が取るべきアクションとしては、(1) 4〜6月の自社・市場全体の約定実績をデータ化し、10円・7.21円シナリオでの収益感応度を経営陣に提示すること、(2) 単独調整力依存からLDDA・容量市場・JEPX・PPA等の複層ポートフォリオへ事業計画を再構築すること、(3) 安定供給WGのパブコメプロセス(夏季以降想定)に業界団体経由で実績ベースの意見提出を行うこと、の3点を強く推奨します。

関連情報・参考リンク

[1] 資源エネルギー庁「需給調整市場について」(電力安定供給ワーキンググループ第1回 資料8)2026年5月13日
[2] 電力需給調整力取引所(EPRX)「取引実績の取りまとめ結果」
[3] 資源エネルギー庁「需給調整市場について」(制度検討作業部会 第110回 資料4)2026年1月23日
[4] 電力需給調整力取引所「需給調整市場かいせつ資料 第2版」2026年3月13日
[5] 情熱電力「【緊急解説】2026年度、需給調整市場の上限価格が半減!?系統用蓄電池ビジネスへの深刻な影響と対策」
[6] 資源エネルギー庁「需給調整市場について」(制度検討作業部会 第109回 資料6)2025年12月12日
[7] エネハブ「経産省、需給調整市場の入札上限価格15円/ΔkW・30分に見直し案、2026年度以降」
[8] EPRX「上限価格」
[9] 日経BPメガソーラービジネス「需給調整市場・上限価格、『7.21円へ引き下げ』に賛否」
[10] 日経xTECH「系統用蓄電池に激震、需給調整市場の上限価格引き下げの背景」
[11] 資源エネルギー庁「今夏の電力需給及び今冬以降の需給見通し・運用について」(資料3)2025年10月31日
[12] 自然エネルギー財団「電力市場」

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