第11回 GROWリハ勉強会レポート|脊髄小脳変性症の症例検討
📍症例概要
〈対象者〉
・60代女性🧑🏼🦳
・5年前に脊髄小脳変性症の診断
・現在デイサービスへ週2回通所
<主症状>
・失調性歩行🚶♀️
・転倒性(3週間前、洗髪中に後方へ転倒)
<理学所見>
・立位・歩行ともに広い歩隔
・座位保持など静的安定性の低下🧎♀️➡️
・独歩不可(歩行車使用)
1.この症例の評価は何を行うか?
Mくん👦🏻:「自分はバランス能力、歩行や座位でのバランスの取り方、筋力、体幹の評価をしています。みなさんはどう評価しますか?」
Sさん👱🏻♂️:「どこを軸に見るかが大切だね。デイサービスに来られているなら、進行はそこまで重くないと考えているから日常生活動作を重視して評価するね。」
Mくん👦🏻:「3週間前に後ろへ転倒してしまい、めまいが強くてデイサービスに来られなかった時期があります。日常生活で起立性低血圧を起こす方はどう判断しますか?」
Sさん👱🏻♂️:「このケースは失調の影響が大きいと思う。」
Mくん👦🏻:「活動量が減っている可能性もあるので、筋力的な部分はトレーニングに組み込みたいですね。評価はどうしていますか?」
Sさん👱🏻♂️:「単発の筋トレができるなら症状は軽い方。協調性障害が強いと単独運動が難しいから、動作の中で筋トレをした方が良いね。」
Mくん👦🏻:「どのレベルで筋力がないと判断すると思いますか?」
Sさん:👱🏻♂️「協調性障害の方は“筋力を出し過ぎてしまう”タイプの人が多いんだよね。歩く・座るなどの“動作そのもの”ができなくなっていく過程で結果として筋力が落ちていくイメージ。
移動能力がまだ保たれている段階では、筋力低下の判断にはしていないかな。
症状が軽い人は通常の筋トレで良いけど、協調性が崩れてきている人は単独運動では逆にやりにくいから、動作の中で筋力を使うようなトレーニングの方が効果的だと思う。」
Mくん👦🏻:「自分の中で症状が軽い=日常生活がそれなりに自立しているレベルですね。症状が重いと介助が常に必要になりますよね。」
Sさん👱🏻♂️:「ヘルパーが常に補助したり、看護が毎日入るレベルだと“症状が重たい”と判断するかな。でもこの方は今のところそこまで重度ではないと思う。」
Mくん👦🏻:「自分が気になったのは歩行の状態ですね。まずは静的立位・座位保持など“静的バランス”を評価しました。動的バランスは歩行自体がかなり不安定で、軽介助がないと歩けないレベルのため、評価としては難しい部分もありました。歩行の際は手を添えて補助しながらの移動になります。」
Sさん👱🏻♂️:「車の乗り降りができるかも重要な評価ポイントになるよね。歩行器を使えば見守りで歩けるけど、放っておくと危険なレベルではある。」
Mくん:👦🏻「協調性の評価はどのように行いますか?」
Sさん👱🏻♂️:「物を取る、自分の手をタッチ、握力の加減など、その時の力の加減で障害の有無をみる。時間がないから簡易的な評価になってしまうため、ピンチテストを行うかな。箸を使うのかスプーンを使っているのかもみるね。」
💡あなたなら、この方の“何を最優先に評価”しますか?
2.失調性歩行の方へのリハビリ
Mくん👦🏻:「今回行った内容は、歩行がなんとか可能なのでフレンケル体操を入れつつ、視覚・表在感覚を使った背臥位でのコントロール練習をしました。座位での簡易的なバランスリスク評価も介入に入れています。」
Sさん👱🏻♂️:「まず歩行は“ゆっくり”と“早く”の両方をやるね。最初はゆっくり歩いてもらって基本的な動きをチェックする。
そのあとにランジ、ステップ系の動作を行い、足が目標の位置に正確に出せるかどうか、股関節・膝・足首をまとめて確認していくよ。
ランジでは、膝の角度を指定して膝のコントロールをメインで評価する。」
Mくん👦🏻:「膝の角度を意識させる理由を教えてください。」
Sさん👱🏻♂️:「その角度で転倒リスクがあるかどうかを確認するためだね。
例えば60度までは調整できるけど、それ以上深くなると崩れて転びやすくなるようなスクワットの評価と同じ考え方だね。
あとは足を前後・斜めに姿勢を変えて膝の角度の変化や安定を見ていく。その時はいつでも支えられるように近くにいるのが大事。
それからまたぎ動作のチェックもやるよ。踏んでしまっても安全なものを置いて注意する。
段差の練習は、足幅くらいの雑誌などを置いて、そこに足を乗せる形でやってるね。」
Mくん👦🏻:「この方は転倒恐怖が強く、大きな動きの介入が難しかったです。」
Sさん👱🏻♂️:「転倒方向の評価が重要になる。後方が多いなら前後のランジは避けて、三点支持などリスクを下げる。昔は重錘負荷歩行もあったけど今はやらないね。」
Mくん👦🏻:「介入時間が長ければ色々と組み込めますね。しっかりと動作を出させながら視覚代償でできることは積極的にやった方が良いですよね。」
Sさん👱🏻♂️:「そうだね。年齢が上がると目が開けれなくなって視覚・知覚・体性感覚系のトレーニングが難しくなってくるからできるうちにやっておくかな。」
Mくん👦🏻:「パーキンソン病の方も同じですが、まずは測定の荷重を意識してもらいます。踵の荷重量が減ったり、感覚が鈍くなることが多い。
そのためランジ動作を使いながら測定感覚を再認識させるように意識づけをします。
その時にどこを意識して、どんな声かけをしますか?」
Sさん👱🏻♂️:「測定が入っている状態で膝角度のチェックをするなら、膝を意識してもらいつつ、その人ごとの協調性の悪い部分を評価していく。
現状で“できる/できない“を確認する形だね。」
Mくん👦🏻:「ランジしたときの膝角度で、どのあたりまで曲がらないと膝の問題が高いですか?」
Sさん👱🏻♂️:「ランジで足をついて膝を曲げていく中で、患者さんは両手を掴まってスクワット状態にした後片手にして角度調整をかけていく。
30°・60°・90°の3段階でチェックをして、90°で膝折れが起きるならかなり危ない。内側広筋・外側広筋・直筋など、角度で使う筋肉も変わる。
このときに膝がつま先より前に出るかで“膝優位“か“股関節優位“かを判断し、重心位置がどこにあるかも大きなヒントになる。」
Mくん👦🏻:「戦略(movement strategy)というより、どの筋肉を優位に使っているかを見るイメージですか?」
Sさん👱🏻♂️:「そうだね。膝優位の人はそもそも戦略がうまく作れないことが多い。
股関節か足のコントロールが問題なら、ランジよりバランスマットの方が適切な場合もある。」
Mくん👦🏻:「あまりないと思いますが、ランジで踏み出した足ではなく逆側の足でコントロールしている場合はどうですかね?」
Sさん👱🏻♂️:「評価ポイントによるね。後ろ足でコントロールできているなら、その足の協調性が高いという評価にもなる。
後方重心で転ぶ人は踵側に重心があり、後ろ足も屈曲位になりやすい。単関節筋の問題だけじゃないケースが多いよ。」
Mくん👦🏻:「サイド系の評価はどうしてますか?」
Sさん👱🏻♂️:「サイドランジ、サイドステップ、斜め方向など。転倒の時、手が出るか足が出るかも確認する。」
Mくん👦🏻:「側方が弱い場合、サイド方向のトレーニングを積極的に入れて感覚を入れさせても問題ないですよね。」
Sさん👱🏻♂️:「そうだね!なかなか協調性が入りにくいから、これ以上悪くさせないアプローチが特に重要。」
Mくん👦🏻:「この方の難点が易疲労性です。椅子の立ち座りでもかなり疲れる様子でした。ランジは特に疲労が強く出てしまいます。脊髄小脳変性症の方は疲労性が強いことが多いですか?」
Sさん👱🏻♂️:「人によってバラバラだけど、動作がしっかりできてる人ほど緊張が高い印象がある。
過緊張になりやすいから、筋が一気に落ちるイメージはないかな。ただし歩く量が減ると、肺活量や持久系が落ちて悪循環になるため注意が必要だよね。」
💡あなたなら失調性歩行の方にどんな “安全で効果的なトレーニング” を選びますか?
3.ホームエクササイズは何を指導する?
Sさん👱🏻♂️:「ランジができる人はぜひやってほしい。ストレッチ系をやりたい人には指導して、実際に続けてる人もいる。ただしリスクや本人の意欲がないなら難しい。本人の“やりたいもの・できるもの“ を一緒に探すことが大事だね。」
Mくん👦🏻:「易疲労性が強く、買い物もカートにつかまればなんとかできる状態です。
まずは背もたれのある椅子での立ち座りなど、少しずつ活動量を増やす方向で指導をしています。」
Sさん👱🏻♂️:「起立性低血圧や血糖などのリスクが抑えられるなら、やった方がいいね。
デイサービスに行ってるなら“社交性”はあるから、そういったグループに所属して通ってもらうのはすごく良いと思うよ。」
Mくん👦🏻:「強制的にやらせるというより、自然と参加・継続できる環境の方が良いですよね。」
Sさん👱🏻♂️:「ホームエクササイズは、“モチベーション・やりたい気持ち“が続くかどうかが重要だから本当に難しいよ。
自分の病気を受容できず、“人にやってもらいたいタイプ”の人にはホームエクササイズの指導はしない。今の生活に満足してるか、努力したいと思ってるかで運動の意欲は変わるから、そこに合わせてリハの指導やアドバイスをするね。
家族構成も大事で1人暮らしでも、ヘルパーさんが協力的なら活動量を上げることが可能だね。ヘルパーさんが居ない人ならケアマネに相談して調整していく。
発症して5年経っているから、劇的に良くなるレベルではないため、 “今の活動量を少し上げて落ちにくくする“ことがメインになるね。」
Mくん👦🏻:「諦めてしまっている方に対しては、
こちらだけ熱量が高くても難しいですよね。
整形経験から“良くしたい“と思いすぎてしまうところがあるので、患者さんの置かれている環境や意欲を踏まえた対応力をつけたいです。」
💡あなたは“ホームエクササイズの意欲が低い方”にどうアプローチしていますか?
✅まとめ
① 評価:静的バランスと動作の協調性を中心に捉える
・立位・座位の安定性と、歩行のゆっくり/速いの比較で協調性の破綻を確認する。
・筋力単独ではなく“動作の中で筋が使えるか”を評価軸とし、膝角度・重心位置・転倒方向を精査する。
・失調の強い方ほど単独運動が難しいため、動作ベースでの評価が最も有効。
② リハビリ介入:安全性を確保しながら協調性を引き出す
・ランジ・ステップ・またぎ動作などの実動作で股関節〜足部の協調性を引き出す。
・膝角度(30°・60°・90°)でどの筋肉を使用してコントロールしているかを確認する。後方転倒が多ければ前方ランジではなく後方ランジを行い促通をする。
・視覚代償や表在感覚を活用しつつ、疲労性を考慮した“小さな成功体験”を積み上げることが鍵。
③ ホームエクササイズ:本人の意欲と生活環境に合わせて最適化する
・ランジや立ち座りなど、できる範囲で活動量を上げる方向へ。
・“やりたい・続けられる”を優先し、強制ではなく日常に自然と組み込める形を目指す。
・発症から5年以降は改善よりも“現状維持と悪化予防”に焦点を置き、無理のない継続を支援する。
💭この症例検討を通じて、あなたはどのような気づきを得ましたか? 同じような症例を担当された経験や、異なる視点があれば、ぜひコメントで教えてください。
⚠️注記
本記事で取り上げている症例は、実際に当院へお越しいただいたクライアント様の状況を確認し、勉強会でディスカッションした内容を整理したものです。
記事化にあたっては、クライアント様ご本人から掲載の許可をいただいております。
本記事の目的は、臨床に携わる理学療法士・作業療法士をはじめとしたリハビリ専門職の方々と、学習・知識を共有することにあります。
実際の診療行為や診断を代替するものではありませんので、その点ご理解ください。
