生成AI全盛時代に生成AIを使いこなす鍵は、プロンプトより前にある。「問いの編集力」とは何か?
生成AIは、分からないことを教えてくれるだけの存在ではなくなりました。
膨大な資料を調べて整理する。文章、画像、コード、スライド、Webサイトやアプリをつくる。複数の選択肢を比較する。さらに、ツールやパソコンを操作して、複数工程にまたがる仕事を進めるところまで来ています。
ここまで多くのことが可能になると、私たちが直面する問題も変わります。
何を聞くかだけではありません。何を調べるのか。何をつくるのか。何を決めるのか。どこまでAIに任せ、何を人間が引き受けるのか。そして、そもそも今取り組んでいる問題は、本当に解くべき問題なのか。
私は、生成AIの能力が高くなるほど、こうした問いを発見し、組み替え、選び、行動へつなげる力が重要になると考えています。
そのことを深く考えるきっかけになったのが、安藤昭子さんの『問いの編集力――思考の「はじまり」を探究する』です。
AIが強くなるほど、プロンプトの前にあるものが重要になる
生成AIの進化は、回答精度の向上だけではありません。
現在のAIは、知識労働、調査、コーディング、画像生成、ツール利用、コンピューター操作などを横断する方向へ進んでいます。OpenAIのChatGPT Workも、調査や予約、スライド作成などを、複数のツールとコンピューター操作を使って進めるものとして発表されています。
つまり、AIに渡す言葉は、単なる質問ではなくなりつつあります。
何を調べるか
何をつくるか
どの情報を使うか
何を変更してよいか
どの条件で止まるか
誰が最終的に承認するか
こうした内容を含む、仕事の設計図に近づいています。
だからこそ、「良いプロンプトを書けるか」だけを考えても不十分です。
プロンプトを書く前に、何を問題として扱うのか、誰のどの状態を変えたいのか、何を成功とみなすのかを定めなければなりません。
『問いの編集力』は、上手な質問文をつくる本ではない
『問いの編集力』の冒頭には、私たちは「答え方」は練習してきたものの、「問い方」を十分に学んできただろうか、という問題意識があります。
本書が扱う問いは、知識の空白を埋めるための疑問だけではありません。
たとえば、次のような疑問には、既にどこかに答えがあります。
この言葉は何を意味するのか
この制度はいつ始まったのか
このエラーはどう直すのか
検索や生成AIは、この種の疑問に非常に強い。
一方、本書が焦点を当てる問いは、現在の見方や、自分と世界との関係まで動かします。
なぜ、私はこれを問題だと思っているのか
誰にとっての問題なのか
今の成功基準は、本当に妥当なのか
別の立場から見ると、何が見えるのか
そもそも解決すべき問題なのか
他にあり得た状態はないのか
こうした問いには、どこかに用意された唯一の正解があるとは限りません。
問いを立てた人自身が、それまで当然だと思っていたことを見直し、新しい情報や他者との関係を通じて、認識を変えていきます。
本書はこの過程を、一つの質問文をつくる技術ではなく、問いが生まれ、育ち、形になる編集過程として描いています。
問いは「ほぐす・集める・発芽させる・結像させる」で育つ
本書は、問いが生まれる過程を主に4つのフェーズで整理しています。
Loosening:問いの土壌をほぐす
Remixing:問いの種を集める
Emerging:問いを発芽させる
Discovering:問いを結像させる
さらに第5章では、内発する問いが、学習、行動、自分と世界との関係をどう動かすのかが論じられます。

この4フェーズは、一度だけ順番に通過する直線的な工程ではありません。
自分の前提をほぐし、異なる情報を集め、問いを仮置きする。調べた結果、最初の見方が間違っていたと分かれば、また土壌をほぐし直す。
問いは、こうした往復の中で育ちます。
ここからは、本書の4フェーズを生成AI活用へ接続して考えてみます。
固まった自分をほぐさなければ、新しい問いは生まれない
最初のフェーズは、問いを考えることではなく、問いが生まれる土壌をほぐすことです。
私たちは、現実をそのまま見ているわけではありません。
過去の経験、役職、専門知識、成功体験、失敗体験、価値観、周囲から期待される役割を通して見ています。
たとえば「会社の売上が伸びない」という同じ状況でも、立場によって最初に見える問題は変わります。
経営者なら、戦略や営業力を疑うかもしれません。
営業責任者なら、商品の魅力やリードの質を問題視するかもしれない。
現場社員なら、人手不足や社内手続きの多さが原因だと考えるかもしれません。
顧客は、そもそも商品が自分の課題に合っていないと感じている可能性があります。
同じ現実を見ていても、そこから生まれる問いは同じではありません。
「一人の私」から自由になる
本書では、「たくさんの私」を解き放つことが扱われます。
私たちは、経営者、専門家、親、消費者、地域の住民、初心者、過去の自分、未来の自分など、複数の側面を持っています。
ところが仕事では、一つの役割へ自分を固定しがちです。
「経営者だから、弱い問いを出してはいけない」
「専門家だから、基本的な前提を疑ってはいけない」
「この業界では昔からこうしている」
この固定が強いほど、問いの範囲も狭くなります。
そこで、同じ出来事を複数の「私」から見直します。
経営者としては何が問題に見えるか
顧客としては何に不満を感じるか
新入社員なら何が理解できないか
10年前の自分なら何を不思議に思うか
5年後の自分なら今の何を後悔するか
生成AIは、この視点移動を支援できます。
異なる関係者や時代の視点から論点を出させれば、一人では気づきにくい見方を短時間で並べられます。
ただし、AIが並べた視点を読むだけでは問いは自分のものになりません。
どの視点に強く反応したのか。何に違和感を持ったのか。なぜ、これまで見落としていたのか。
そこを考える必要があります。
主語より、動きや関係を見る
本書では、固定した主語だけでなく、動きや関係を示す「述語」へ注目する考え方も示されます。
AIへの依頼でも同じです。
私はスタートアップの経営者です。新規事業案を考えてください。
この依頼では、主語は説明されていますが、何をしようとしているのかは十分に分かりません。
それよりも、次を明らかにした方が問いは深くなります。
どの判断に迷っているのか
誰のどの状態を変えたいのか
何に違和感を覚えているのか
何を失うことを恐れているのか
何と何を結びつけようとしているのか
大切なのは、AIへ渡す情報量を増やすことではありません。
自分が何をしようとしているのかを、自分自身が理解することです。
見方を変えると、同じ現実から別の問いが生まれる
土壌をほぐした後は、問いの種を集めます。
本書では、言葉の直接的な意味と連想的な意味、注意の向き、地と図の反転などを通して、見方が変わると同じ情報から別の意味が立ち上がることが示されます。
背景にしていたものを、前景へ出す
たとえば、次の問いを考えてみます。
営業担当者の成約率をどう上げるか。
この問いでは、営業担当者の能力が「図」、商品、顧客、評価制度などが背景である「地」になっています。
地と図を反転させると、別の問いが出てきます。
顧客はなぜ意思決定できないのか
商品の価値が分かりにくいのではないか
営業力がなければ売れない商品構造に問題はないか
成約しない方が顧客にとって良い案件はないか
成約率ではなく、継続率や顧客成果を見るべきではないか
最初の問いが間違っているとは限りません。
ただ、最初から「成約率を上げる」と決めてしまえば、営業研修、トークスクリプト、営業支援ツールといった施策へ議論が偏ります。
本当の問題が商品設計や顧客選定にあるなら、AIが優秀であるほど、狭い前提の中で完成度の高い施策を大量に作ってしまいます。
AIを問いの変形器として使う
ここでは、AIを答えの生成器ではなく、問いの変形器として使えます。
元の問いに対して、次のように依頼します。
主語を変えた問いをつくる
暗黙の前提を列挙する
因果関係を逆向きにする
成功の定義を変える
時間軸を過去・現在・未来へ動かす
見落としている関係者を挙げる
この問いによって見えなくなる論点を探す
解決策が問いに埋め込まれていないか確認する
AIは、問いの候補を増やすことに向いています。
しかし、生成された問いをそのまま採用するのではありません。
その問いが現実のどの事実に触れているのか。誰の判断を変えるのか。自分たちが責任を持って検証する価値があるのか。
問いの選択は人間側に残ります。
分からなさや偶然を、すぐに説明で埋めない
第3フェーズでは、未知や偶然との出会いから問いを発芽させます。
これは、生成AIの利便性が高くなった現在ほど重要です。
生成AIは、「分からない状態」を短くします。
知らない言葉を説明する。理解しにくい資料を要約する。案が出なければ候補をつくる。構成に迷えば整理する。
これは大きな利点です。
一方で、違和感に立ち止まる前に、もっともらしい説明で空白が埋まる可能性もあります。
驚きは、自分の理解と現実のズレを知らせる
思いがけない事実に出会ったとき、人は驚きます。
それは「自分は世界をこう理解していたが、現実は違うらしい」と知らせる信号でもあります。
ところが、すぐAIに理由を説明させると、そのズレを十分に検討する前に納得した気分になることがあります。
説明を得る前に、次を考えてみます。
なぜ自分は驚いたのか
何を当然だと思っていたのか
どの予測が外れたのか
既存の説明では何が足りないのか
この事実が正しいなら、他に何が変わるのか
この短い保留が、新しい問いを育てます。
AIに未知の境界を探させる
AIには、答えだけでなく「まだ分かっていないこと」を探させることもできます。
私がまだ問えていないことは何か
現在の前提に反する証拠はあるか
専門家でも見解が分かれる点は何か
この説明で解消できない例外は何か
別分野に似た構造はあるか
私の理解の中で最も怪しい部分はどこか
AIを使って分からなさを消すのではなく、どこまで分かり、どこから分からないのかを明確にするわけです。
問いを広げた後は、仮説と検証へ変える
問いをたくさん出すだけでは、仕事は前へ進みません。
問いを選び、暫定的な仮説を置き、何を調べれば判断できるかを定める必要があります。
本書の第4フェーズでは、アンラーン、別の可能性を考えること、物語、仮説、アブダクションなどを通して、問いが形を持っていく過程が扱われます。
アブダクションとは、観察された出来事を説明できそうな仮説を置く推論です。
たとえば、企業が生成AI研修を実施したのに、現場利用が広がらなかったとします。
ここで、
研修内容が悪かったのではないか。
と考えることはできます。
ただし、他の仮説もあり得ます。
利用する対象業務が決まっていなかった
上司がAI利用を認めていなかった
良い成果物の評価基準がなかった
機密情報の扱いが分からなかった
AIを使う時間や権限が与えられていなかった
仮説を置けば、次に何を確認すべきかが変わります。
研修後に対象業務を決めたか
管理職の承認ルールがあったか
利用可能な情報が明確だったか
成果の評価方法を定めたか
利用しなかった理由を記録したか
問いと仮説を往復させることで、思索が検証可能な仕事へ変わります。
複雑な問いを、確認可能な単位へ分ける
複雑な仕事を一つの大きな問いとしてAIへ渡すと、どこで認識がずれたのか分かりにくくなります。
新規事業を成功させる方法を考えてください。
という問いは、その典型です。
次のように分けると、確認しやすくなります。
誰の、どのような問題を扱うのか
現在は何で代替しているのか
既存手段の何が不十分なのか
問題の頻度と損失はどの程度か
自社のどの資産を使えるのか
最も不確かな仮説は何か
最小コストで何を検証できるか
どの結果なら中止または変更するか
複雑な質問をサブクエスチョンへ分ける手法は、一部の複雑なQAや複数文書を横断する検索で、証拠の回収範囲や回答の検証可能性を改善したと報告されています。
ただし、分解の仕方自体が間違っている可能性は残ります。
問いを小さくするだけでなく、分解後も全体目的とのつながりを確認しなければなりません。
問いの編集力は、プロンプトエンジニアリングより前にある
ここまでの話を、「良いプロンプトを書くこと」と感じる人もいるでしょう。
両者は関係していますが、同じではありません。
プロンプト設計は、目的、文脈、入力、制約、出力形式などをAIへ伝える技術です。
しかし、その前に決めることがあります。
何を問題として扱うのか
誰のどの状態を変えたいのか
なぜ今それを変える必要があるのか
何を成功とみなすのか
どの価値を優先するのか
何が分かったら方針を変えるのか
AIを使うこと自体が適切なのか
これは、入力文の表現を工夫することではありません。
目的、問題、評価、責任を設計することです。
私は、問いからAI活用までを、次の6層として捉えています。

問いの編集
何を問うべきかを考える。問題定義
誰のどの状態を、なぜ変えるのかを定める。要求・評価設計
どの条件を満たせば成功とするかを決める。タスクと役割の設計
何をどの順番で、人間、AI、システムの誰が担うかを分ける。プロンプト・コンテキスト設計
AIへ目的、情報、制約、形式を伝える。出力評価と問いの更新
結果を検証し、次に問うべきことを作り直す。
つまり、問いの編集力は、プロンプトを書く前工程であり、AIの出力を受け取った後に次の問いをつくる後工程でもあります。
プロンプトが良くても、間違った問題を解いていれば価値にはつながりません。
反対に、問いが良くても、必要な情報や評価基準をAIへ渡さなければ、実用的な結果にはなりません。
問いと実行設計の両方が必要です。ただし、順番としては問いが先にあります。
生成AI全盛時代に、問いの編集力が重要になる7つの理由
AIが進化すれば、問いを考える必要がなくなるのでしょうか。
私は逆だと考えています。
AIが多くのことを教え、調べ、比較し、つくり、実行できるほど、何のためにその能力を使うのかが重要になります。

1.何をつくるかの選択が重要になる
文章、画像、コード、資料などの初稿をつくるコストは下がっています。
だからこそ、
何をつくるべきか
誰に必要なのか
既存のものと何が違うのか
何をつくらないのか
どこまでつくれば十分か
を決める必要があります。
生成能力が増えると、選択と編集の負担も増えます。
2.AIは問いの前提を引き継ぐ
離職率を下げる施策を考えてください。
と依頼すれば、報酬、福利厚生、1on1、キャリア支援などの施策が出てくるでしょう。
しかし、この問いには「離職率を下げることが望ましい」という前提があります。
本当に確認すべきことは、別にあるかもしれません。
誰の離職を問題にしているのか
採用時の期待調整に問題はなかったか
業務や事業自体を変える必要はないか
残ってほしい人が辞めているのか
離職率以外の指標を見るべきではないか
AIの能力が高いほど、与えられた前提の中で完成度の高い案がつくられます。
だから前提の検査が必要です。
3.選択肢が増えるほど、選ぶ基準が必要になる
AIは10案でも100案でも生成できます。
しかし、選択肢が多いことと、良い判断ができることは同じではありません。
期待効果
必要資源
実行可能性
リスク
可逆性
検証速度
顧客への影響
長期的な学習価値
何を重く見るのかを決めなければ、最も流暢な案、最も新しく見える案、AIが最初に推奨した案が選ばれやすくなります。
問いは、可能性を増やすだけでなく、何を残し、何を捨てるかを決める基準にもなります。
4.完成度の高い出力が、検討終了の感覚を生む
AIの文章には、見出し、理由、具体例、結論があります。
そのため、前提が曖昧でも「十分に考えた」という感覚を持ちやすい。
しかし、読みやすさと正しさは別です。
文章の完成度と、現実への適合性も同じではありません。
AIの出力を受け取った後には、次を問い直す必要があります。
どこまでが確認済みの事実か
どこからが推論か
何が不足しているか
反対の証拠はないか
この結論で誰の行動が変わるのか
5.目的や価値の正当性は、自動的には決まらない
AIは、設定された目標に沿って選択肢を比較できます。
しかし、
誰の利益を優先するか
何を公平と考えるか
どの損失を許容するか
速度と安全のどちらを重視するか
何を人間へ残すか
どこまで自動化してよいか
は、性能だけで決められる問題ではありません。
AIから複数の観点を得ることはできます。
最終的に何を良い状態と定めるかは、人間と組織が引き受ける価値判断です。
6.AIへの依存の仕方によっては、問いを立てる機会が減る
AIに単純作業を任せることで、人間がより複雑な課題へ集中できる可能性があります。
一方、問題設定、論点整理、選択肢の作成、採否まで常にAIへ任せれば、人間が自分で問いを形成する機会が減る可能性もあります。
重要なのは、AIを使うか使わないかという二択ではありません。
何を外部化し、何を人間側へ残すかです。
AIを使う前に、短くてもよいので次を書いておくと、思考の主導権を保ちやすくなります。
観察した事実
現時点の仮説
感じている違和感
分からないこと
結論を左右する条件
AIの出力を受け取った後も、その枠組み自体が妥当かを確認します。
7.AIが行動すると、問いが実行仕様になる
文章をつくるだけなら、曖昧な問いから生じるのは、主に曖昧な文章です。
しかしAIがツールやコンピューターを使い、調査、予約、資料作成、コード変更、ファイル操作などを行う場合は違います。
何を達成するのか
どの情報を使ってよいのか
何を変更してよいのか
誰の承認が必要か
どの条件で停止するか
失敗時にどう戻すか
何を完了とするか
これらが曖昧なら、AIの行動も曖昧になります。
AIの実行能力が高くなるほど、問いの編集力は思考法だけでなく、要件定義、権限設計、リスク管理の能力にもなります。
AIは問いを強くも、弱くもする
ここまで読むと、「問いは人間だけで考え、AIには答えだけをつくらせるべきだ」と思うかもしれません。
私は、そうは考えていません。
AIにも問いはつくれます。
人間一人では思いつかないほど多様な問いを、異なる立場、時間軸、専門領域から生成できます。
問題は、AIに問いをつくらせることではありません。
問いの選択と所有までAIへ渡すことです。
AIの使い方を、二つに分けて考えてみます。

問いを弱くする使い方
問題設定からすべてAIへ任せる
AIが最初に出した論点だけで考える
最初の出力で探索を終える
流暢な説明を正しいと判断する
自分の違和感より一般的な整理を優先する
なぜその問いを選んだのか説明できない
結果を受け取った後に問いを更新しない
問いを強くする使い方
自分の観察や違和感を先に記録する
AIに問いを増幅・変形させる
前提、反証、例外を監査させる
異分野の類似構造を探させる
複数の問いを分類させる
人間が重要な問いを選ぶ
検証結果から問いを更新する
AIは、問いのすべてを任せる作者というより、次のような役割で使うと有効です。
問いの増幅器
問いの変形器
問いの反証者
問いの分類器
問いの監査者
どの問いに時間、費用、権限、責任を割くかは、人間が決めます。
実務で使える「AIと問いを編集する7ステップ」
では、問いの編集力を、実際のAI活用へどう落とせばよいのでしょうか。
本書の4フェーズを踏まえ、実務で繰り返し使える7ステップに整理します。

Step 1.違和感を、すぐ解決策へ変換しない
まず、起きていることを記録します。
事実、解釈、感情を分けるのがポイントです。
例を挙げます。
事実:研修後1か月で、AIを週1回以上使った人は一部だった
解釈:研修内容が実務に合わなかった可能性がある
感情:期待したほど利用が広がらず、違和感がある
この段階で「研修を増やす」と決めないことが重要です。
Step 2.現在の問いに含まれる前提を出す
仮に、次の問いを持っているとします。
AI研修をどう改善すればよいか。
この問いには、いくつもの前提があります。
研修は必要である
問題は研修内容にある
受講者の知識不足が原因である
AI利用率を上げることが望ましい
追加研修によって改善できる
AIに、問いへ含まれる暗黙の前提を列挙させてもよいでしょう。
ただし、AIの列挙自体にも漏れがあり得ます。現場の事実と照合します。
Step 3.問いを発散させる
前提が見えたら、問いを増やします。
受講者はなぜ使わなかったのか
使わないことに合理的な理由はなかったか
管理職はAI利用を支援していたか
対象業務は明確だったか
利用できる情報と禁止情報は明確だったか
成果を誰が評価したか
研修以外の方法で解決できないか
AIを使わなくてよい業務まで対象にしていないか
この段階では、すぐに良し悪しを評価せず、探索範囲を広げます。
Step 4.問いを種類ごとに分ける
次に、問いを目的別に整理します。
事実の問い:何が起きているか
因果の問い:なぜ起きたのか
解釈の問い:それは何を意味するか
可能性の問い:他に何があり得るか
価値の問い:何を望ましいとするか
実行の問い:次に何をするか
検証の問い:何を確認すれば判断できるか
すべての種類を毎回そろえる必要はありません。
現在の議論に欠けている問いを確認します。
Step 5.重要な問いを選ぶ
問いを増やした後は、資源を集中する問いを選びます。
評価基準は次の通りです。
答えによって判断が変わるか
影響が大きいか
現時点で不確実か
検証可能か
自分たちが行動できるか
他の問いより先に確認すべきか
面白い問いと、今取り組むべき問いは同じではありません。
Step 6.問いを仮説と反証条件へ変える
選んだ問いに対して、暫定的な仮説を置きます。
AI利用が定着しない主因は、研修内容より、対象業務と上司の承認ルールが定義されていないことではないか。
次に、反証条件を決めます。
対象業務と承認ルールが明確な部署でも利用が進んでいなければ、この仮説だけでは説明できない。
反証条件を置くことで、仮説に都合の良い情報だけを集めにくくなります。
Step 7.結果から問いを更新する
AIの出力、調査、ヒアリング、実験の結果を得たら、最初の問いへ戻ります。
何が分かったか
何がまだ分からないか
どの仮説が弱くなったか
どの前提が間違っていたか
新しく何を問う必要があるか
次に何を実行するか
問いは、回答を得たら消えるものではありません。
良い結果は、次の問いを生みます。
良い問いは、すぐ答えが出る問いとは限らない
生成AIを使っていると、すぐに結果が出ることに慣れます。
数秒で説明が返り、短時間で資料や試作品ができます。
その速度は大きな力です。
しかし、すべての問いをすぐ閉じる必要はありません。
良い仕事とは何か
企業は誰のために存在するのか
AIへ任せるべきでない判断は何か
成長と幸福は両立しているか
自分はなぜ、この問題を放置できないのか
こうした問いには、一つの確定回答がないかもしれません。
それでも、問いを持ち続けることで、日々の情報の見え方や判断基準が変わります。
本書の第5章では、「内発する問い」が世界を動かすことが論じられます。
問いは、自分でも言葉にできなかった暗黙知を表へ出し、他者との対話を生み、学び方や世界像を変える可能性を持っています。
ここに、単なるプロンプト技術には収まらない問いの価値があります。
AIが何でもつくれるほど、何をつくらないかも問われる
生成AIによって、できることは増え続けています。
記事、画像、動画、コード、資料、アプリをつくる。調べる。比較する。ツールやパソコンを操作する。
しかし、できることが増えることと、やるべきことが増えることは同じではありません。
つくれるからつくる。
自動化できるから自動化する。
AIを導入できるから導入する。
この状態では、手段が目的になり、時間、費用、注意、システムの複雑性だけが増えることがあります。
問いの編集には、「何をするか」だけでなく、次も含まれます。
何をしないか
何をつくらないか
何を自動化しないか
どこで止めるか
何を人間へ残すか
何を検証してから進めるか
AIによって実行力が拡張されるほど、停止する判断の価値も高まります。
まとめ|AIは可能性を増やす。人間は、進むべき問いを選ぶ
生成AIは、知らなかったことを教えてくれます。
情報を調べ、整理し、比較します。文章、画像、コード、資料、アプリをつくります。ツールやコンピューターを使い、複数工程の仕事を進めることもできます。
これほど多くのことが可能になったからこそ、人間には以前より重い問いが残ります。
何を知るべきか
何をつくるべきか
誰のために行うのか
何を良い結果とするのか
どの前提を疑うべきか
どこまでAIへ任せるのか
何が分かったら考えを変えるのか
何をあえて行わないのか
『問いの編集力』が示しているのは、良い疑問文をつくる小技ではありません。
固定した自分をほぐし、世界との接面を柔らかくし、異質な情報や偶然を取り込み、問いを発芽させ、仮説や行動へ育てていく過程です。
AIは、この過程を強力に支援できます。
異なる視点を出し、問いを増やし、前提を指摘し、反証や検証方法を考えられます。
ただし、どの問いを重要と考えるのか。
どの問いを自分たちのものとして引き受けるのか。
その問いのために、どのような行動と責任を負うのか。
そこまでAIへ預けるべきではありません。
AIは可能性を増やす。人間は、進むべき問いを選ぶ。
生成AI全盛時代にAIを使いこなす鍵は、プロンプトの言葉を工夫することだけではありません。
その前に、自分が何を見て、何を疑い、何を変えようとしているのかを編集することです。
関連記事
AIに「どう思う?」と聞くだけでは、判断は良くならない。問い・前提・代替案から考える意思決定の基本設計
問いを前提、代替案、反証、最小実験、停止条件へ変換し、AIを意思決定支援に使う方法を具体的に整理しています。
AI時代に「プロンプトエンジニアリング」はまだ重要か?2023〜2026年、設計対象はどこまで広がったのか。
プロンプトからコンテキスト、ツール、権限、評価、ハーネスへ、AI活用の設計対象が広がった経緯を解説しています。
出典・参考資料
安藤昭子『問いの編集力――思考の「はじまり」を探究する』
OpenAI「Introducing ChatGPT agent: bridging research and action」
OpenAI Developers「Computer use」
OpenAI「Introducing GPT-5.4」
OpenAI「Codex for (almost) everything」
Radhakrishnan et al., “Question Decomposition Improves the Faithfulness of Model-Generated Reasoning”
Ammann et al., “Question Decomposition for Retrieval-Augmented Generation”
いいなと思ったら応援しよう!
社会問題×マーケティングが好き / ㍿小さな一歩(前澤ファンド出資先)で養育費の未払い問題にビジネスでトライ→㍿SHIRO創業。社会問題の発見→要因分析→ビジネス考案→実行に必要な資本整備→実行・改善のサイクルが最短で回り社会問題が解決されつづけるインフラを創る。