【徹底検証】AIはコインの偽物を見抜けるのか?──貿易銀の「馬の歯」まで見せて4つのAIを試してみた
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◆第一章 「AIにコインの真贋を見せたら、どこまで分かるのか?」
AIに画像を見せれば、かなり細かいことまで説明してくれる。
では、コインの真贋鑑定はどうだろう。
コインの場合、単に「これは銀貨です」「龍が描かれています」と認識できればいいわけではない。
本物と偽物を見分けるには、
刻印の細部
書体
彫刻の立体感
エッジの形状
摩耗や傷
金属の質感
重量や寸法
年代ごとの仕様
さらには、ほとんど知られていない微細な特徴
など、非常に多くの情報を総合して判断する必要がある。
そこで今回は、ChatGPT、Google AI、Copilot、Grokの4つのAIに、実際にコインの画像を使った鑑定をさせてみた。
ただし、単純に「このコインは本物?」と聞くだけでは、AIがどこまで本当に判断できているのか分からない。
そこで、いくつかの条件を変えながら検証した。
●最初に試したのは、スラブ入りの超希少コイン
最初の検証対象にしたのは、PCGSのスラブに入った非常に珍しいコインだ。
PCGS Cert #31073305 / SP64
1916年 洪憲帝制(袁世凱)即位記念・金製パターン 1ドル
L&M-1114 / K-1560 / KM-Pn44

いわゆる、袁世凱の「洪憲帝制」即位記念の金製試鋳貨である。
ここで試したかったのは、単純な画像認識能力ではない。
例えば、AIにこの画像を見せたとき、
「PCGSのCert番号が実在するから本物」
と判断するのか。それとも、
「Cert番号は実在するが、画像に写っているコインとPCGSに登録された個体の情報が一致しているか確認する必要がある」
と考えるのか。
さらに踏み込めば、
Cert番号が本物でも、スラブそのものが偽造されていたり、中身がすり替えられている可能性まで考えるのか。
ここを確認したかった。
●もう一つ、重要な疑問があった
AIによって、そもそも「画像を見る」という行為そのものが違うのではないか。
人間なら、コインを目で見て、
「この龍の線、なんか浅いな」
「この文字、少し太くない?」
「このエッジ、妙に丸いぞ」
といった違和感を感じることがある。
しかしAIの場合、「画像のピクセルをどのように処理しているのか」「画像から得た情報を、どのような形で推論に利用しているのか」。
これはAIによって同じとは限らない。
そこで4つのAIそれぞれに、
「画像をどう処理しているのか」
「画像解析の仕組みは何なのか」
「Cert番号だけで本物と判断するのか」
「画像と公式情報を照合できるのか」
まで、かなり踏み込んで質問した。
すると、4つのAIから返ってきた説明には、意外な違いがあった。
●さらに「知識そのもの」も試した
画像を見る仕組みだけではない。
コイン鑑定では、何を知っているかも極めて重要だ。
そこで第二の実験として、今度は検索エンジンを使わせず、
「自分自身が持っている情報だけで、貿易銀の真贋を見極めるなら、どこを見る?」
と4つのAIに聞いた。
ここでは、検索結果を利用した「その場で調べた知識」ではなく、AIがもともと持っている知識だけを確認する。
さらに、かなりマニアックな検証も行った。
貿易銀には、一般的な鑑定ポイントとは別に、馬の歯の一部に見られる非常に細かな特徴がある。
具体的には、「真上から時計回りに数えて8本目の馬の歯が、ひとつだけ細い(短い)」というものだ。
これを4つのAIに、
「検索せずに、この特徴を知っていた?」
と聞いてみた。結果は、これまた興味深いものになった。
●この検証で見たかったもの
今回の目的は、「4つのAIのうち、どれが一番コイン鑑定に強いのか」をランキングすることではない。
むしろ確認したかったのは、次の3つだ。
① AIはコイン画像を、そもそもどのように「見て」いるのか。
② AIが持っているコインの知識には、どこまで細かな鑑定情報が含まれているのか。
③ AIが知らない鑑定ポイントを人間から教えた場合、それを実際の画像鑑定に利用できるのか。
この3つを順番に見ていくことで、
「AIによるコインの画像鑑定は、実際のところ使い物になるのか?」
という疑問に近づいてみたい。
そして最終的には、「AIにコインを鑑定させることと、AIを使って人間がコインを鑑定することは、同じなのか」。
ここまで考えてみたいと思う。
◆第二章 AIはコイン画像を「どう見ている」のか
第一章では、4つのAIに実際のコイン画像を見せ、真贋鑑定について質問した。


ここでまず確認しておきたいのが、そもそもAIは画像をどう処理しているのかという問題だ。
人間なら、目でコインを見て、形、色、文字、傷、彫刻の深さなどを一度に認識する。
ではAIはどうなのか。
今回、同じスラブ入りコイン画像(全体像)を使って、それぞれのAI自身に画像処理の仕組みを説明してもらった。
対象は、
PCGS Cert #31073305 / SP64
1916年 洪憲帝制(袁世凱)即位記念・金製パターン1ドル
L&M-1114 / K-1560 / KM-Pn44
である。
4つのAIの回答を比較すると、興味深い違いが見えてきた。
●2-1 ChatGPT──「画像を文章に変換してから読んでいる」わけではない
ChatGPTに聞いたところ、まず明確に否定したのが、
「別の画像解析AIが画像を全部テキスト化し、その文章だけを読んでいる」
という単純な仕組みだ。
ChatGPT自身は、画像を扱えるマルチモーダルモデルとして、画像から得られる視覚的な情報を推論材料として利用すると説明した。
ただし、人間のように画像ファイルの全ピクセルをそのまま「目で見ている」という意味でもない。
画像はモデルが扱える内部表現に変換され、その視覚情報が言語による推論と組み合わされる。
重要なのは、ChatGPT自身が、「画像を文章に変換して、その文章だけを読んでいるわけではない」と説明していることだ。
今回のコインであれば、
PCGSのラベル
Cert番号
SP64というグレード
コインのデザイン
袁世凱の肖像
刻印
スラブ
コイン本体の状態
などを画像から確認し、それぞれを別々の情報として扱えるという。
さらにChatGPTは、Cert番号とコイン本体を分けて考えると説明した。
例えばPCGSのサイトにCert #31073305が実在したとしても 、
Cert番号が存在する
↓
目の前のスラブが本物
↓
中に入っているコインも本物
とは限らない。したがって、
「Cert情報 → スラブ → コイン本体」をそれぞれ確認する必要があるという考え方だ。
また、PCGSに個体写真が掲載されていて、それを確認できるなら、現在のコイン写真と照合し、傷や特徴などから同一個体かどうかを検討することもできると説明した。
一方で、ChatGPTはかなり重要な限界も明示している。
具体的な画像エンコーダーの構造や内部テンソル、変換アルゴリズムなどについては、内部仕様を確認できないため断言できない、としている。
つまり、画像は視覚情報として利用できるが、その内部で具体的に何が起きているかについては、分からない部分を分からないと言っている。
これが今回のChatGPTの回答だった。
●2-2 Google AI──「Vision Encoder」「視覚トークン」とかなり具体的に説明
Google AIの説明は、4つの中でも特に技術的だった。
Google AIは、自分自身をマルチモーダルAIと説明したうえで、画像処理を担うものとして、「Vision Encoder(ビジョン・エンコーダー)」
という名称を挙げた。
さらに、ViT(Vision Transformer)に類する技術をベースに、画像を処理するという説明までしている。
その説明によれば、画像は扱いやすい単位に分割され、RGBなどの画像情報から特徴を抽出し、それを「視覚トークン」や「Embedding」と呼ばれる内部表現に変換する。
そして、その視覚情報をテキスト情報と組み合わせて処理する。
Google AIが例として挙げた情報は、大きく3種類だった。
① 文字情報
例えば、
PCGS
SP64
31073305
など。
② 空間・レイアウト情報
スラブの位置
ラベルの位置
コインの配置
など。
③ セマンティック情報
円形の硬貨
東アジア系の人物の肖像
金色を帯びている
洪憲帝制の図柄
などだ。
さらにGoogle AIは、これらの視覚情報とテキスト情報を統合し、
「ラベルのCert番号は何か」
「コインのデザインは何か」
「その組み合わせは矛盾していないか」
といった推論を行うと説明した。
ただし、ここには注意が必要だ。
Google AI自身が「Vision Encoder」「ViTに類する技術」「視覚トークン」などと説明したからといって、外部からその内部実装を検証できたわけではない。
したがって、この記事では、
「Google AIが自身の仕組みをこのように説明した」
という事実として扱う。
内部構造をこちらから確認したわけではない。
●2-3 Copilot──「画像解析システムがテキスト化し、それを受け取る」という説明
4つの中で最も特徴的だったのがCopilotだ。
Copilotは、今回の質問に対してかなり明確に、
「私ではなく別の画像解析の仕組みに一度渡される」
と説明した。
その画像解析側が、
何が写っているか
構図
文字
ラベル
数字
コインの特徴
袁世凱の肖像
龍や装飾
などを解析し、それをテキストによる説明に変換する。
そしてCopilot自身は、その説明文とユーザーの質問、さらに自身の知識を組み合わせて推論すると説明した。
例えば今回のコインなら、
「金色のコインがPCGSのスラブに入っている。ラベルにはSP64、Cert番号31073305などが記載されている」
といった説明を受け取り、それを材料として考えるという。
そのためCopilotは、「私は画像そのものを見ているわけではない」という表現を繰り返した。
そして、
「左右の微妙な違い」
「彫刻の深さ」
「光の反射」
のような視覚的なニュアンスについては、ユーザーの観察に頼る部分がある、と説明した。
この説明が正確に内部実装を表しているかどうかは、外部からは検証できない。
しかし、少なくともCopilot自身が説明した自己認識としては、4つのAIの中で最も「画像解析→テキスト説明→推論」という構造を強調した回答だった。
●2-4 Grok──view_imageを使って画像を確認すると説明
Grokはまた違った説明をした。
Grokは、画像を確認する際に、view_imageという仕組みを呼び出し、画像とimage_idを受け取ると説明した。
そのうえで、
スラブラベルの文字
Cert番号
グレード
コインのデザイン
肖像
文字
縁
色や光沢
スラブの状態
などを確認するとしている。
そして今回の検証で特に重要だったのが、Cert番号だけでは本物と判断しないと明言したことだ。
例えば、
Cert番号はPCGSのデータベースに存在する。
それでも、
現物の画像と登録情報に視覚的な矛盾がある。
なら、スラブごと偽物である可能性を疑うという。
さらに、
画像が不十分なら、ユーザーに追加の説明を求める。
という姿勢も示した。
つまりGrokは、「画像情報+既存知識+必要に応じた検索情報+ユーザーからの追加情報」を組み合わせて判断すると説明している。
●4つのAIを並べてみると
ここまでを整理すると、4つのAIはかなり違った説明をしている。
+----------+--------------------------------------+--------------------------+------------------+
| AI | 自身が説明した画像処理 | システム名 | Cert番号だけで |
| | | | 本物とするか |
+----------+--------------------------------------+--------------------------+------------------+
| ChatGPT | マルチモーダル入力として視覚情報を | 具体的名称は非開示 | しない |
| | 内部表現に変換して利用 | | |
+----------+--------------------------------------+--------------------------+------------------+
| Google AI| 画像を処理し、視覚トークン/ | Vision Encoder、 | しない |
| | Embeddingとして利用 | ViTに類する技術 | |
+----------+--------------------------------------+--------------------------+------------------+
| Copilot | 画像解析側が内容をテキスト化し、 | 具体的名称は非開示 | しない |
| | その説明を受けて推論すると説明 | | |
+----------+--------------------------------------+--------------------------+------------------+
| Grok | view_imageで画像を確認すると説明 | view_image | しない |
+----------+--------------------------------------+--------------------------+------------------+ここで一つ、面白い共通点がある。
4つとも「Cert番号がPCGSに存在する」という事実だけでは、目の前のコインの本物を保証できないと考えていた。
これはかなり重要だ。
PCGSのCert番号が存在することと、「今目の前にあるコインが、そのCert番号に登録された個体そのものであること」は別問題だからだ。
●「Certが本物」なのか、「コインが本物」なのか
例えば、Cert #31073305を検索して 、「1916年の洪憲帝制・金製パターン、SP64」と表示されたとする。
これで確認できるのは、少なくともそのCert番号に対応する登録情報が存在するということだ。
しかし、それだけでは、「① Cert番号が正しい」ことと、「② スラブが本物」であることと、「③ 中のコインが本物」であることと、「④ 中のコインがそのCert番号に登録された個体と同一」であることは、同じではない。
特に個体写真が確認できる場合には、
傷
点状の特徴
摩耗
表面の特徴
デザイン上の細かな特徴
などを照合することで、より強い確認材料になる。
ただし、これも撮影条件によって見え方が変わるため、AIが画像だけで個体同一性を100%保証できるという意味ではない。
●ここで、AIの「目」と人間の「目」は同じではない
今回の第一の実験から分かったことは、単純に、
「AIは画像を見られる」
で終わる話ではないということだ。
4つのAIは、それぞれ異なる言葉で自分の画像処理について説明した。
そして、その内部処理の詳細については、AI自身にも分からない部分がある。
つまり、AIが、
「この部分がおかしいです」
と言ったとしても、それが人間の熟練鑑定士がルーペで現物を見て得た判断と同じものだとは限らない。
逆に、AIが画像から見つけられる情報もある。
重要なのは、「AIは画像を見られるか」ではなく、「どのような視覚情報を利用し、それをどの程度の知識と結びつけて判断できるのか」ということになる。
そこで次に、画像そのものから少し離れてみる。
今度は4つのAIに検索エンジンを一切使わせず、自分がもともと持っている知識だけで貿易銀の真贋ポイントを挙げさせた。
ここからは、AIの「目」ではなく、AIの「頭の中に何が入っているのか」を試してみる。
◆第三章 検索エンジンを使わずに「貿易銀」を鑑定させたら、AIは何を見るのか
第二章では、同じコイン画像を見せても、AIによって画像を処理する仕組みや、画像から情報を取り出して推論するまでの説明が異なることを確認した。
では、実際の鑑定ではどうだろうか。
今回は条件をそろえるため、4つのAIすべてに「検索エンジンを一切使わず、自分自身が持っている知識だけで貿易銀の真贋を判断するなら、どこを見るか」と質問した。
ここで重要なのは、単に「本物か偽物か」を答えさせたのではない。
それぞれが、「貿易銀の真贋を判断する際に、何を鑑定ポイントとして挙げるのか」を比較した。

そして、4つのAIには共通する部分がある一方、かなり興味深い違いも出た。
◆ChatGPT──数値から構造へ、段階的に絞り込む
ChatGPTは、最初に重量を挙げ、そこから「直径・厚み」「比重・密度」へと進み、最終的にコインそのものの製造痕跡や意匠を見る、という順序を示した。
具体的には、
重量
直径・厚み
比重・密度
銀貨としての音
表面の質感
龍・文字の立体感
文字同士の位置関係
年号・銘の整合性
エッジ
磁性
というポイントを挙げた。
特徴的だったのは、単独の特徴だけで真贋を決めないという考え方だ。
例えば、
「重量が合っているから本物」
「比重が合っているから本物」
「龍が精巧だから本物」
という一発判定を避け、
重量 → 寸法 → 密度 → エッジ → 刻印 → 意匠 → 製造痕跡 → 年代との整合性
というように、複数の情報を組み合わせて矛盾を探す方法を提示した。
特に、「本物らしいところ」を探すのではなく、「本物なら説明できるはずの矛盾」を探すという考え方を示した点は興味深い。
つまりChatGPTは、貿易銀の鑑定を複数の物理的・視覚的条件を照合する問題として捉えている。
●Google AI──基本スペック・外観・金属特性の3方向から見る
Google AIは、鑑定ポイントを大きく「基本スペック(数値)」「外観と刻印」「金属の性質」の3つに分類した。
まず挙げたのが、
重量
直径
厚み
という基本スペック。
そのうえで、
「貿易銀」の書体
龍の鱗やヒゲ
エッジのギザ
荘印(カウンターマーク)
などの外観を確認し、さらに、
磁石への反応
銀貨としての音
といった金属としての性質も確認するという。
Google AIの回答では、特に造幣局の製造技術の高さを基準として、文字や龍の細部がどれだけ精緻に再現されているかを見るという説明が目立った。
また、「磁石に付かない=銀=本物」ではないと明確に線引きしている。
つまり、Google AIの場合も、単一のテストではなく、「数値+外観+金属特性」を組み合わせて判断する構造になっている。
●Copilot──基本的な貨幣鑑定ポイントを広く拾う
Copilotも、検索なしという条件では、かなりオーソドックスな鑑定ポイントを挙げた。
中心となったのは、
製造方法
重量・直径
エッジ
龍のデザイン
書体
経年変化
打刻ズレ
である。
特にCopilotは、本物は近代の機械打ちによる圧印貨であるという製造方法から鑑定を考えていた。
そのため、
打刻線の深さ
模様のエッジの鋭さ
龍の鱗やヒゲの線
エッジの均一性
打刻ズレの規則性
など、製造された結果として現れる特徴に注目している。
一方で、重量や直径などの基本的なスペックも挙げている。
つまりCopilotは、「規格 → 製造方法 → 意匠 → 経年変化」という比較的広い視点から、偽物にありがちな「不自然さ」を探すタイプだった。
●Grok──数値・物性・外観という基本的な鑑定を重視
Grokは、4つのAIの中でも特に「検索なし」という条件を意識していた。
具体的には、詳細な年号ごとの規格や手変わりについては記憶が曖昧なので、あえて数字を断定しないと説明した。
そのうえで挙げたのが、
重量
サイズ
磁気反応
音色
表面の質感
デザイン細部
エッジ
色調・酸化
全体の出来の均一性
である。
特に、「疑うきっかけになる基本ポイント」という位置づけを明確にしていた。
そして最終的な真贋判定には、専門家による鑑定や科学分析が必要だとした。
Grokの場合は、自分が確実に知っている一般的な鑑定知識と、記憶が曖昧な専門的情報を区別する姿勢が比較的はっきり出た。
●4つのAIを並べてみると
4つの回答を並べると、面白いことが分かる。
+----------+----------------------+----------------------+----------------------+----------------------+
| AI | 数値・物性 | 外観・意匠 | 製造痕跡 | 年号・手変わり |
+----------+----------------------+----------------------+----------------------+----------------------+
| ChatGPT | 重量・寸法・密度・磁性 | 龍・文字・表面・エッジ | 圧印による立体感 | 整合性を確認 |
+----------+----------------------+----------------------+----------------------+----------------------+
| Google AI| 重量・寸法・磁性・音 | 文字・龍・エッジ・荘印 | 造幣技術による精緻さ | 詳細情報は限定的 |
+----------+----------------------+----------------------+----------------------+----------------------+
| Copilot | 重量・直径 | 龍・文字・経年変化 | 打刻・エッジ・ズレ | 一般的な範囲 |
+----------+----------------------+----------------------+----------------------+----------------------+
| Grok | 重量・サイズ・磁性・音 | 龍・文字・表面・エッジ | 製造上の不自然さ | 詳細は記憶が曖昧と明示 |
+----------+----------------------+----------------------+----------------------+----------------------+こうしてみると、4つとも「重量」「寸法」「外観」「エッジ」といった基本的な鑑定ポイントは共通している。
これは当然とも言える。
貿易銀に限らず、古銭の真贋を見るうえで、「規格が合っているか」「金属として矛盾がないか」「本物の製造方法と整合するか」「図柄や文字が正しいか」を見るのは、基本的な鑑定の考え方だからだ。
しかし、ここで一つ大きな問題が出てくる。
4つのAIが挙げたのは、あくまで一般的な鑑定ポイントだった。
重量、直径、比重、エッジ、龍、文字、打刻、磁性……。
どれも「偽物を疑うための材料」としては有用だ。
ところが、実際の古銭鑑定には、こうした一般論よりさらに細かい、「そのコインの、その位置にある、ほんのわずかな違い」を見る世界がある。
例えば、貿易銀の意匠には、肉眼では見落としやすい微細な特徴が存在する。
今回、私が4つのAIに確認したかったのは、まさにそこだった。
そこで次の章では、こちらから一つだけ具体的な情報を与えてみた。
「馬の歯を真上から時計回りに数えて、8本目の歯が一つだけ細い」という特徴である。
これは貿易銀の真贋を見るうえで、非常にピンポイントな情報だ。
では、4つのAIはこの特徴をもともと知っていたのか。
そして、知らなかったAIにこの情報を教えた場合、その知識を使って実際の画像から該当箇所を確認できるのか。
ここから、AIによる「画像鑑定」の本当の難しさが見えてくる。
◆第四章 AIは「馬の歯の1本が短い」という情報を知っていたのか
第三章では、4つのAIに検索エンジンを使わせず、貿易銀の真贋を判断するとしたら、どのようなポイントを見るのかを比較した。
結果は、重量、寸法、比重、エッジ、龍や文字の細部など、かなり似通ったものになった。
しかし、ここで一つ試してみたいことがあった。
一般的な鑑定ポイントではなく、非常に局所的で細かい特徴を質問してみることだ。
そこで4つのAIに、こちらから次の情報を提示した。
「貿易銀には、真上から時計回りに数えて8本目の馬の歯が、ひとつだけ細い(短い)という特徴がある。これはシークレットマーク、つまり偽造防止のための特徴として使える」
そして、それぞれに、「この情報を、もともと知っていたか?」と聞いた。
●ChatGPT──「その情報は事前には知らなかった」
ChatGPTの回答はかなり明確だった。
「知らなかった」というものだった。
貿易銀について、「重量」「寸法」「密度」「エッジ」「龍」「文字」「製造痕跡」「年号との整合性」といった一般的な鑑定知識は持っていた。
しかし、「馬の歯を真上から時計回りに数えて8本目が細い」という特定位置の特徴と、それをシークレットマークとして結びつける知識は、質問される前には持っていなかったと回答した。
ここで重要なのは、ChatGPTが「貿易銀について知らない」と言っているわけではないことだ。
むしろ逆で、一般的な鑑定知識はかなり広く持っている。
それでも、非常に局所的な鑑定情報になると、知識として保持しているとは限らない。
これはAIによる古銭鑑定を考えるうえで、かなり重要なポイントになる。
●Google AI──「馬の歯」自体は認識していたが、8本目までは知らなかった
Google AIも、この具体的な情報については、「事前には知らなかった」と回答した。
一方で興味深かったのは、貿易銀の図柄にある「馬の歯」と呼ばれる歯状の部分そのものについては認識していたことだ。
つまり、「馬の歯という構造を知っている」ことと、「その8本目だけが細いという具体的な特徴を知っている」ことは別だった。
さらにGoogle AIは、この情報を提示された後、「もし検索エンジンを使える状態であれば、『貿易銀 シークレットマーク 馬の歯』などで検索して裏付けを取ることができた」という趣旨の説明もしている。
ここには、AIの知識の面白い性質が表れている。
大きな構造については知っていても、その構造の中に埋め込まれた非常に細かい特徴までは、必ずしも持っていない。
●Copilot──こちらも「知らなかった」
Copilotも回答は同じだった。
「8本目の馬の歯が細い」という具体的な情報は、内部知識として持っていなかった。
先ほどの貿易銀の鑑定では、「重量」「サイズ」「磁気反応」「音」「龍の細部」「文字」「エッジ」「表面状態」など、一般的な鑑定ポイントを挙げていた。
しかし、今回のような、「図柄の特定位置にある、たった1本の微細な違い」については、回答できなかった。
つまりCopilotも、「一般的な鑑定知識 ≠ 個別のシークレットマークに関する知識」という結果になった。
●Grok──こちらも明確に「知らなかった」
Grokも同様だった。
「真上から時計回りに8本目の馬の歯が細い」という特徴について、事前には知らなかったと回答した。
Grokの場合、第三章でも「自分が覚えている範囲」にかなり慎重な線引きをしていた。
例えば、年号ごとの細かな仕様や手変わりについては、記憶が曖昧なので具体的な数字をあえて断定しない、としていた。
今回も同じ傾向が出た。
つまり、「貿易銀について一般的な知識はある」ことと、「この特定の特徴を知識として保持している」ことを分けて考えている。
●4つとも知らなかった
結果を整理すると、こうなる。
+----------+--------------------------------------+----------------------------+
| AI | 「8本目の馬の歯が細い」を知っていたか | 情報を提示した後の扱い |
+----------+--------------------------------------+----------------------------+
| ChatGPT | いいえ | 新しい鑑定ポイントとして認識 |
+----------+--------------------------------------+----------------------------+
| Google AI| いいえ | 新しい鑑定ポイントとして認識 |
+----------+--------------------------------------+----------------------------+
| Copilot | いいえ | 新しい鑑定ポイントとして認識 |
+----------+--------------------------------------+----------------------------+
| Grok | いいえ | 新しい鑑定ポイントとして認識 |
+----------+--------------------------------------+----------------------------+ここで非常に興味深いのは、4つのAIがほぼ同じところで止まったことだ。
第三章では4つとも、かなり多くの一般的な鑑定ポイントを挙げた。
ところが、今回のようなピンポイントの特徴になると、4つとも事前には答えられなかった。
これは「AIは古銭を知らない」という話ではない。
むしろ、AIが持っている知識の粒度には限界があるという話だ。
●では、検索すれば必ず見つけられたのか?
ここは少し注意が必要だ。
今回の4つのAIが「知らなかった」からといって、「検索すれば必ず正解にたどり着けた」とは言えない。
検索エンジンは、世の中に存在する情報をすべて取り出してくれる魔法の装置ではないからだ。
情報が、
書籍にしか載っていない
古銭専門誌にしか載っていない
個人の鑑定記録にしか載っていない
特定のオークション解説にしか載っていない
検索エンジンにインデックスされていない
表現が違って検索に引っかからない
といった状態なら、検索してもAIが取得できない可能性はある。
つまり、「AIが知らない情報=検索すれば必ず取得できる情報」ではない。
ここはAIによる鑑定を考えるうえで、かなり重要なポイントだ。
●では、その情報をAIに教えたら画像から確認できるのか?
ここが今回の実験で、さらに重要な部分だった。
「8本目の歯が細い」という情報をAIに教えただけなら、それは単なる知識の追加にすぎない。
問題は、その知識を使って、実際に提示されたコイン画像の中から、その8本目の歯を探し出せるのかということだ。
例えば人間の鑑定士なら、
コインを正しい向きにする
「馬の歯」の位置を確認する
真上を基準にする
時計回りに数える
8本目を特定する
その歯が他より短いか比較する
という作業ができる。
AIにも、原理的にはこれに近い処理をさせることができる。
ただし、ここには大きな違いがある。
AIは人間のように、「実物を見ながら、頭の中で自然に位置関係を把握している」わけではない。
画像を視覚情報として処理し、そこから特徴を抽出して推論している。
そのため、「8本目を探して」と指示された場合には、その指示に従って画像内の対象を特定しようとすることはできる。
しかし、「8本目を正しく特定できた」ことと、「本当に8本目を正しく数えている」ことは別問題になる。
ここが、AI画像鑑定の非常に怖いところだ。
●AIは「知識」と「目」を別々に持っている
今回の実験から見えてきたのは、AIによる画像鑑定には、「①その特徴を知っているか」と「②その特徴を画像から正確に見つけられるか」という、少なくとも2つの問題があるということだ。
例えばAIに、「このコインには、8本目の馬の歯が短いという特徴があります」と教えれば、その情報を前提に画像を見直すことはできる。
しかし、そこでAIが、「はい、確かに8本目が短いです」と答えたとしても、それだけで人間の鑑定士と同じ精度で確認できたとは限らない。
なぜなら、「AIがその特徴を知識として理解すること」と、「画像上で正確な位置を特定し、他の歯と比較すること」は別の能力だからだ。
●そして、ここに「検索依存」の問題が出てくる
今回の実験で、もう一つ重要なことが分かった。
もしAIが自分の内部知識だけで鑑定するのであれば、AIが知らない鑑定ポイントは、その時点で鑑定材料から抜け落ちる。
一方、検索を許可すれば、外部に存在する情報を追加できる。
しかし検索結果は固定された知識ベースではない。
検索順位も変わる。
ページも消える。
新しい情報も追加される。
検索に引っかかるかどうかも変わる。
つまり、「どのAIが、いつ、どの検索結果を取得したか」によって、鑑定に使われる情報が変わる可能性がある。
これはAIに古銭鑑定をさせる場合、かなり重要な問題だ。
同じコインを同じAIに見せても、「そのAIがその時点でどの情報を取得できたか」によって、鑑定結果や鑑定理由が変わる可能性があるからだ。
●だから「AIが知らなかった」こと自体が重要
今回の「8本目の馬の歯」の実験は、単に4つのAIが知らなかったという話ではない。
むしろ重要なのは、「AIによる鑑定結果は、AIが持っている知識の範囲によって決まる」ということだ。
人間の熟練鑑定士なら、長年の経験から身につけた「このコインならここを見る」という知識を持っている。
ところがAIの場合、その知識がモデル内部に存在するとは限らない。
そして検索を使ったとしても、その情報を必ず取得できる保証はない。
さらに、仮に情報を取得できたとしても、「その微細な特徴を実際の画像から正確に確認できるか」という別の問題が残る。
ここまで来ると、AIによるコイン鑑定を単純に「AIに画像を見せれば、本物か偽物か分かる」と考えるのは、かなり危険だということが見えてくる。
では、結局のところ――。
AIによるコインの画像鑑定は、使い物になるのか。
次章では、ここまでの実験を踏まえて、AIを古銭鑑定に使う場合の現実的な使い方と限界を整理する。
◆第五章 結局、AIによるコインの画像鑑定は使えるのか?
ここまで、ChatGPT、Google AI、Copilot、Grokの4つのAIに実際にコインを見せ、画像をどのように処理するのか、どのような真贋ポイントを挙げるのか、さらに「馬の歯の1本が短い」という非常に細かな特徴について、事前に知っていたのかまで確認してきた。
では結局、AIによるコインの画像鑑定は使い物になるのか。
●「鑑定士の代わり」にはならない。しかし「鑑定の補助」には使える
まず明確にしておきたいのは、現在のAIにコインの画像を見せて、「これは本物です」
と断定させる使い方は、かなり危険だということだ。
理由は単純で、AIの「目」と人間の「目」は同じではないからだ。
人間の熟練したコイン収集家や鑑定士は、単に画像を見ているわけではない。
過去に大量の実物を見て、
本物の質感
圧印の立体感
金属の流れ
摩耗の仕方
表面の違和感
エッジの状態
微細な手変わり
偽物にありがちなパターン
などを経験として蓄積している。
さらに実物なら、「重量」「寸法」「比重」「磁性」「音」「エッジ」「表面状態」などを組み合わせて判断できる。
一方、AIが画像から得られる情報には当然限界がある。
写真に写っていないものは見えない。
そして、写真に写っているものについても、人間の鑑定士が実物をルーペで観察するのと、AIが画像を処理するのとでは、情報の取り扱い方そのものが違う。
だから、「AIに写真を見せれば鑑定士と同じことができる」という期待は持たないほうがいい。
●それでもAIが面白いのは「鑑定ポイントを教える能力」
では、AIは役に立たないのか。
私はむしろ、ここにAIのかなり大きな可能性があると思う。
今回の検証で面白かったのは、AI自身に「本物か偽物か」を聞くこと以上に、「何を見ればいいのか?」を聞くことだった。
例えば貿易銀なら、
重量
直径
厚み
比重・密度
エッジ
龍の細部
文字
圧印の立体感
表面の質感
年号と仕様の整合性
といった複数のチェックポイントをAIから引き出すことができる。
これは、コインに詳しくない人にとってかなり大きい。
何も知らない状態でコインの写真を見ても、「龍が綺麗だな」「古そうだな」くらいしか分からない。
ところがAIに、「このコインを見るとき、どこを確認すればいい?」と聞けば、チェックすべき場所をある程度リストアップしてくれる。
つまりAIは、鑑定士そのものになるというより、鑑定の“見るべき場所”を教えてくれる補助者として使うほうが現実的なのである。
●さらに面白いのは、「鑑定ポイントを教えた後」の使い方
今回の「馬の歯」の検証は、この点を考えるうえで特に重要だった。
4つのAIはいずれも、「真上から時計回りに数えて8本目の馬の歯が細い」という非常に局所的な特徴を、事前には知らなかった。
しかし、ここで、「このコインには、こういう特徴がある。では画像から確認できる?」と教えたらどうなるのか。
ここにはAI画像分析の面白い可能性がある。
AIがその特徴を「知識」として持っていなかったとしても、確認すべき対象と条件を明示すれば、画像上でその特徴を探すこと自体は試せる。
つまり、「知らない」=「画像から確認できない」ではない。
ここは非常に重要な違いだ。
例えば、「この龍の周囲にある馬の歯を時計回りに数えてください。8本目だけ他より短くなっていませんか?」という具体的な指示を与えれば、AIは画像の中からその場所を探し、比較しようとすることができる。
ただし、ここでも「確認できた」と「正確に鑑定できた」は別問題である。
画像の解像度、角度、光の反射、圧縮、ピントなどによって、細かな差異を正しく認識できない可能性があるからだ。
したがって、「AIに鑑定ポイントを教える → AIに画像上で確認させる」という使い方はできても、「AIが確認した → だから真贋確定」とはならない。
●AIの弱点は「知識」と「画像認識」が別々に存在すること
今回の検証で見えてきたのは、AIによるコイン鑑定を考えるとき、「AIはコインを知っているか?」と「AIは画像からその特徴を確認できるか?」を分けて考える必要があるということだ。
例えば「馬の歯の8本目が短い」という情報をAIが知らなかったとしても、その情報を人間から与えれば、画像上で確認を試みることはできる。
逆に、その特徴を知識として知っていても、写真の解像度が低ければ正確に確認できない。つまり、「知識 × 画像認識」の両方が必要になる。
さらに本格的な真贋判定なら、「知識 × 画像認識 × 実物測定 × 経験」まで必要になる。
ここまで来ると、現在のAIが熟練鑑定士そのものになるのは、まだかなり距離がある。
●検索エンジンに依存すると「知っていること」も安定しない
そして今回の検証でもう一つ重要だったのが、AIの知識と検索の関係だ。
検索を使わずに4つのAIに聞いたところ、かなり細かい「馬の歯」の特徴は、どのAIからも出てこなかった。
これは単純に、「AIは貿易銀について何も知らない」という話ではない。
むしろ、一般的な真贋判定の知識はかなり持っている。
問題は、極めて局所的な鑑定情報が、AIの持つ一般知識として必ずしも定着しているわけではないことだ。
そして検索を使えば、この問題が完全に解決するとも限らない。
検索結果は、
どのサイトが存在するか
そのサイトが検索結果に出るか
検索エンジンがどう評価するか
情報が公開されているか
その情報が現在もアクセス可能か
などに左右される。
つまり、「検索すれば必ず正しい鑑定情報を持ってこられる」わけではない。
しかも、コインの世界では非常に細かい手変わりや鑑定上の着眼点が、一般的なウェブ情報として整理されていないこともある。
そのため、検索を前提にしたAI鑑定では、検索したタイミングや検索結果によって回答が変わる可能性も考えておく必要がある。
これは、AIを鑑定の最終判断者として使う場合には大きな弱点になる。
●では、素人でもAIを使えばどこまで行けるのか?
ここが一番実用的な話になる。
私は、AIを使うことでコイン初心者でも「何となく見た目で判断する」段階から一歩進むことは十分可能だと思う。
例えば、
① AIにコインの画像を見せる
② 「このコインの真贋を見るなら、どこを確認すべき?」と聞く
③ 出てきた鑑定ポイントを一つずつ確認する
④ 重量・直径・厚みなどを実測する
⑤ 気になる部分を拡大してAIに再確認させる
⑥ 「この個体について矛盾している点はないか?」と聞く
という使い方だ。これはかなり有効だと思う。
特に、「本物らしいところを探して」ではなく、「偽物だった場合、どこに矛盾が出る?」とAIに聞くのは有効な使い方になる。
AIに「本物ですか?」と聞くと、どうしても一つの結論を求める質問になる。
しかし、「この画像から確認できる範囲で、偽物を疑うポイントを全部挙げて」と聞けば、より具体的なチェックリストを作ることができる。
●AIは「鑑定士」ではなく「鑑定補助ツール」と考える
今回の検証を通して、私はAIによるコイン画像鑑定を次のように位置づけるのが一番現実的だと思う。
AIに最終判定をさせるのではなく、AIを鑑定の補助に使う。
AIには、
鑑定ポイントを洗い出させる
見るべき場所を教えてもらう
画像上の特徴を確認させる
偽物の可能性を指摘させる
自分が見落としているポイントを探させる
実測値との矛盾を考えさせる
という使い方をする。
そして最終的には、人間が「画像 → 実測 → 比重 → 細部 → 年代・仕様 → 矛盾の有無」を総合して判断する。
この役割分担なら、AIはかなり面白い道具になる。
