《オリジナル盤探究記》─ Jimi Hendrix Experience『Are You Experienced』【切り抜き】
※本連載は、一枚のレコードの全体像から印象的な場面を切り出して紹介する【切り抜き】版です。
ギター好きが選ぶ「歴史上最も偉大なギタリスト」ランキングの第2位に選ばれたジミヘンドリックス。そして「史上最高のギター名盤」ランキングで第5位に選ばれたアルバム「Are You Experienced」。
今回は、その「UK」と「US」それぞれのオリジナル盤について深掘りしていきたいと思います。
※専門用語がわからない場合は『レコード用語集』を参照ください。
1. なぜイギリスからデビューしたのか?
アメリカ人であるジミ ヘンドリックスが海を渡り、ロンドンでデビューを飾った背景には、当時のニューヨークにおける閉塞感と、マネジメント側の緻密なビジネス戦略がありました。
閉ざされていたUS音楽シーンの壁
1966年時点のアメリカでは、黒人ミュージシャンはR&Bやソウルの枠組みで活動することが求められていました。白人主体のロック市場に進出する土壌が極めて未成熟であり、ジミの独創的な演奏スタイルは、既存の音楽業界の枠組みでは受け入れられにくいという厳しい状況にありました。
チャス チャンドラーが見出した勝機
1966年7月にニューヨークでジミを発見した元アニマルズのチャス チャンドラーは、ロンドンを中心に興隆していたサイケデリック ムーブメントであれば、ジミの異能が必ず受け入れられると確信しました。1966年9月24日にジミをロンドンへ渡航させ、現地でオーディションを通じてノエル レディング、ミッチ ミッチェルを選出し、伝説のバンドを結成したのです。

2. なぜ「UK盤」と「US盤」は収録曲が異なるのか?
1967年に発表された本作は、イギリスとアメリカで、発売日、収録曲、ジャケットデザインが明確に異なります。この相違は、当時の英米それぞれのレコード市場における「商習慣」の決定的な差異に起因します。
イギリスの美学:シングルはアルバムに入れない
当時のイギリスでは、シングルとアルバムは完全に別個の商品とみなされていました。シングルを既に購入したファンに、同じ曲をアルバムで再度買わせることは「不利益を与える行為」あるいは「アルバムとしての鮮度を下げるもの」とされ、既発シングル曲は収録しないのが当時の業界の通例でした。
アメリカの論理:ヒット曲不在のアルバムは売れない
対照的にアメリカでは、ラジオで流れるヒットシングルが入っていないアルバムは、商業的に成功しないという判断が優先されました。販売元であるリプリーズ レコードは、全米チャートを賑わせていた「Purple Haze」等の強力なヒット曲をアルバムの核として収録することを、リリースにあたっての絶対条件としたのです。

3. リリース情報と形態の相違
両国のオリジナル盤のデータは以下の通りです。
イギリス盤(UK Original)
発売日:1967年5月12日
レーベル:Track Record
規格番号:612 001 (Mono) / 613 001 (Stereo)
構成:先行シングル3枚のA面曲を一切含まない11曲で構成されています。
アメリカ盤(US Original)
発売日:1967年8月23日
レーベル:Reprise Records
規格番号:R 6261 (Mono) / RS 6261 (Stereo)
構成:UK盤から3曲を削除し、シングルA面ヒット3曲を追加した11曲で構成されています。

4. 英米盤収録曲 徹底対比
1966年から1967年前半にかけて公式に発表されたスタジオ音源は、以下の合計17曲です。
【曲順】 【UK盤収録曲】 【US盤収録曲】 【備考】
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01 Foxy Lady Purple Haze (2nd Single A面)
02 Manic Depression Manic Depression
03 Red House Hey Joe (1st Single A面)
04 Can You See Me Love Or Confusion
05 Love Or Confusion May This Be Love
06 I Don't Live Today I Don't Live Today
07 May This Be Love The Wind Cries Mary (3rd Single A面)
08 Fire Fire
09 Third Stone From Sun Third Stone From Sun
10 Remember Foxy Lady
11 Are You Experienced? Are You Experienced?
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【アルバム未収録:シングルB面曲】
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-- Stone Free (Hey Joe B面) Smash Hitsに収録
-- 51st Anniversary (Purple Haze B面) Smash Hitsに収録
-- Highway Chile (The Wind Cries Mary B面) Smash Hitsに収録
--------------------------------------------------------------------------------5. パズルを埋める終着点『Smash Hits』
上記のLPから漏れた楽曲は、後にコンピレーション アルバム『Smash Hits』にて補完されることになります。
アルバム未収録となっていた初期シングルB面曲
Stone Free (Hey Joe B面)
51st Anniversary (Purple Haze B面)
Highway Chile (The Wind Cries Mary B面)
英米で異なる『Smash Hits』の役割
UK盤(1968年4月発売):アルバム未収録だった「Purple Haze」「Hey Joe」「The Wind Cries Mary」というヒット3曲をLP化し、ファンを補完しました。
US盤(1969年7月30日発売):アメリカのLPに未収録だった「Red House(UK盤とは異なる別テイク)」「Can You See Me」「Remember」および各シングルB面曲を全て収録しました。さらに次作2ndアルバムから「Up from the Skies」「Spanish Castle Magic」も加えた選曲となっています。

結びに代えて:三部作で完結する初期の軌跡
1967年当時のジミ ヘンドリックス エクスペリエンスが遺した初期スタジオ録音の全貌は、UK盤LP、US盤LP、そして『Smash Hits』の三枚を揃えることで、全17曲すべてが網羅される仕組みになっています。この複雑なリリース形態こそが、当時の英米音楽ビジネスの対立と融合を象徴する歴史的記録と言えるでしょう。
刻印やラベルの詳細については、また他の回で説明できたらと思います。
今後も《オリジナル盤探究記》として、さまざまなレコードのオリジナル盤について深掘りしていきたいと考えています。ただ、一枚のレコードの全体像を投稿しようとすると、かなりの長編になってしまいます。そこで今回のように【切り抜き】という形で、要所を端折りつつ部分的に掲載していけたらと思っています。
そんな少しマニアックでディープなレコードの世界ですが、今後ともゆるく楽しんでいただければ幸いです。
ご覧いただきありがとうございました!!
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