《オリジナル盤探究記》─Jeff Beck『Wired』 【切り抜き】
※本連載は、一枚のレコードの全体像から印象的な場面を切り出して紹介する【切り抜き】版です。
ギター好きが選ぶ「歴史上最も偉大なギタリスト」ランキングの第1位に選ばれたジェフベック。そして「史上最高のギター名盤」ランキングの第3位に選ばれたアルバム「Wired」。
今回は、そのジェフベックの言わずと知れた名盤「Wired」のオリジナル盤について深掘りしていきたいと思います。その中でも、UKオリジナルとUSオリジナルを比較検証することで、意匠と音像がどのように結びついていったのか、その過程がよく分かります。
※専門用語がわからない場合は『レコード用語集』を参照ください。
1 表面ロゴの変遷:パッケージ全体のアップデート
US盤の表面ジャケットにあるロゴの違いは、裏面のクレジット修正と密接に連動しています。
初期ロゴの共通性とロンドンの影 最初期のUS盤に見られるロゴは、UKオリジナル盤のデザインを引き継いだものでした。これは、当初ロンドン主導で進められていたプロジェクトの「顔」としての意匠と言えます。
ヤンハマー修正との連動 裏面でヤンハマーによるクレジットが追記される(詳細は後述に記載)タイミングで、表面のロゴも現行のデザインへと変更されました。この意匠の変化は、中身のサウンドがよりアグレッシブな方向へ決定づけられたことを象徴しています。
UKオリジナルのYellowラベル


US初期盤(PROMO)白ラベル


US修正盤 オレンジラベル


2 裏ジャケットの驚異:制作過程を物語る初期仕様
確認されたUK盤とUS最初期盤に見られる「Side表記の欠落」や「曲順の不一致」。これらは当初エラーとも目されましたが、おそらくは音源の完成を待たずにアートワークの印刷が先行した、制作現場のスピード感を物語る説も考えられます。
UKオリジナルの裏ジャケット


US初期盤(PROMO)の裏ジャケット


3 クレジットの変遷:承認された「音響革命」の詳細
US盤は製造の過程で、UK盤の構成を引き継いでいた初期デザインを大幅に修正しました。ここでは、実態に合わせて追記された具体的な修正内容を掘り下げます。
リミックス表記の劇的な追記 修正後のUS盤では、以下の5曲に対して「Remixed by Jan Hammer」というクレジットが明確に刻まれました。「Come Dancing」「Sophie」「Led Boots」「Play With Me」「Blue Wind」全8曲中5曲というこの占有率は、実質的なサウンドの決定権が誰にあったかを雄弁に物語っています。
制作拠点の承認:Red Gate Studio 「Recorded at Air Studios, London」という一文しかなかった初期盤に対し、修正版ではヤンハマーのプライベートスタジオである「Red Gate Studio, New York」がレコーディング場所として追記されました。
ヤンの所属と立場を明文化 ヤンハマーが自身のレーベルである「Nemperor Records」の所属であるという注釈もこのタイミングで加えられました。これらは音源の差し替えではなく、ロンドンで録音された素材をニューヨークでヤンが研ぎ澄ませたという「制作の真実」を後から公式化したものです。
US修正盤の裏ジャケット


4 三大プレス工場:東・中・西の刻印
全米規模での爆発的なヒットを受け、本作は主に以下の3つの拠点で製造されました。
ピットマン工場(P) 東海岸の主要拠点。プロモ盤やマトリクス「2A/2A」といった究極の若番、そして前述の修正前仕様が多く見られる、最初期盤の核心地とも言えます。
テラホート工場(T) インディアナ州の拠点です。中低域の押し出しが強く、ガッツのある音像が特徴です。
サンタマリア工場(SX) 西海岸の拠点です。カスタムインデックス(o)の刻印と共に、2Dや2Fなどの安定した品質の盤を供給しました。
5 刻印が証明するオリジナルの系譜
しかしながら、表記が修正されたからといって、修正盤がオリジナルではないということではありません。むしろ、これらもまた「オリジナルのファミリー」として地続きの系譜にあります。
その根拠は、盤面に刻まれた当時のマスター刻印にあります。ジャケットの修正は、最初期のマスターから音が刻まれていく過程で行われた「情報のアップデート」に過ぎません。 送り溝に当時のカッティングを示す刻印がある盤は、たとえジャケットのデザインが変更された後であっても、マスターテープが持つ本来の熱量をダイレクトに保持しています。後年の再発盤では決して再現できない、当時の空気感をそのままに伝える正当なオリジナルグループの一翼を担っているのです。
Collector’s Note
一枚のレコードの裏側に隠されたクレジットの書き換え。それは単なる不備の修正ではなく、ジェフベックが自らの求める「より鋭利な音」へと突き進んでいった、その生々しい変遷の記録です。ジャケットの表記が初期の混迷を伝えるものであれ、後の完成された姿であれ、当時の刻印が保証する熱量は等しく本物なのです。その音を再生することで、この名盤が辿った劇的なプロセスを体感してみてはいかがでしょうか。
今後も《オリジナル盤探究記》として、さまざまなレコードのオリジナル盤について深掘りしていきたいと考えています。ただ、一枚のレコードの全体像を投稿しようとすると、かなりの長編になってしまいます。そこで今回のように【切り抜き】という形で、要所を端折りつつ部分的に掲載していけたらと思っています。
そんな少しマニアックでディープなレコードの世界ですが、今後ともゆるく楽しんでいただければ幸いです。
