《プリンス、ギタリストとしての魅力》─ギター名演10選
Prince(1958年6月7日 - 2016年4月21日)
コンポーザーとして、シンガーとして、マルチプレイヤーとして、エンターテイナーとして……オールラウンドに秀でた才能を持ち合わせていることは今さら語るまでもないが、かつて「ローリングストーン誌」が選ぶ歴史上最も過小評価されているギタリストの1位に選ばれ、ギターマガジンの企画「もっと語られるべき偉大なギタリスト」でも第1位に選出された経歴を持つ。しかし、一方で当店主催の「ギター好きが選ぶ 歴史上最も偉大なギタリスト」ランキングでは第39位に選出された。ギターに造詣の深い人々が投票すれば、プリンスのギタリストとしての実力は、決して過小評価されることなく、むしろ正当に評価されることが、この順位によって証明されたといえるだろう。
1958年ミネソタ州ミネアポリスに生まれ、あらゆる楽器を独学で習得した彼は、ファンクのキレ、ロックのダイナミズム、鮮やかな即興性をギター一本で体現してみせた。彼のトレードマークであるHohner製マッドキャットや、独創的なクラウドギターから放たれる多彩なトーンが堪能できる。カッティングの鋭さはもちろん、時にエモーショナルに、時に暴力的なまでに歪ませたリードプレイは、後世のギタリストに多大な影響を与えた。
今回は、没後10年という節目に改めて、そのプリンスのギターの魅力について深掘りしていきます。
ギターとの出会いと「多才さ」の原点
プリンスが最初に手にした楽器は、ジャズ・ミュージシャンであった父の影響によるピアノだった。しかし、13歳から14歳頃の中学生時代、自身が結成したバンド「グランド・セントラル」での活動を機に、本格的にギターへと傾倒していく。当初はキーボード担当だったが、よりダイナミックな自己表現の手段として独学でギターを習得。この「必要に迫られて独学で極める」というスタイルが、後に全楽器を一人で操る驚異のマルチプレイヤーとしての土台を築いた。

孤高のスタイルを形作った先達たち
プリンスのプレイスタイルは、単なる模倣を超えた「ジャンルの融合」にある。本人が多大な影響を認めているのが、以下の巨匠たちだ。
サンタナ: 初期に「ギターの弾き方はサンタナのレコードを聴いて学んだ」と語るほど、そのサステイン豊かなメロディックなソロに影響を受けている。
ジミ・ヘンドリックス: 比較されることを畏れ多く感じながらも、ワウペダルやフィードバックを駆使したエモーショナルな表現、ステージでのカリスマ性を継承した。
ジェームス・ブラウンとフレディ・ストーン: 彼の真骨頂であるパーカッシブなファンク・カッティングは、ジェームス・ブラウンの歴代ギタリストや、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのフレディ・ストーンからの影響が色濃い。
ジョニ・ミッチェル: 意外な接点だが、彼女の変則チューニングや複雑なコード進行を深く愛し、自身の楽曲における洗練された和音構成のヒントとした。

30ドルの相棒と、こだわり抜いた機材群
プリンスの機材選びには、スターらしからぬ「職人気質」な側面がある。
Hohner製「マッドキャット」: 生涯のメインギターは、デビュー当時にガソリンスタンド付近の楽器店でわずか30ドル程度で購入したとされるテレキャスター・タイプのコピーモデル。ピックアップがストラトキャスターに近い構造だったことが、あの独特のトーンを生んだ。
BOSSのエフェクターへの信頼: 足元には常に、日本が誇るBOSS社のコンパクトエフェクターが並んでいた。DS-2(ターボ・ディストーション)やBD-2(ブルース・ドライバー)などを愛用し、基本的には「フルゲイン」に近いセッティングで弾き倒すのがプリンス流だ。
アイコンとしての特注ギター: 映画『パープル・レイン』のために作られた「クラウド・ギター」や、自身の改名騒動時に作成した「シンボル・ギター」など、視覚的インパクトと演奏性を両立させた独創的なモデルも数多く使用した。




ギターに懸けたプライドと情熱
彼は生涯を通して、一人のギタリストとしての評価に敏感であり、情熱的だった。 2004年のロックの殿堂入り式典では、前年にローリングストーン誌の「偉大なギタリスト100人」から漏れたことへのリベンジと言わんばかりの超絶ソロを「While My Guitar Gently Weeps」で披露。最後にギターを真上に放り投げ、それが空中に消えたかのように見せた演出は、今なお伝説として語り継がれている。
また、2007年のスーパーボウル・ハーフタイムショーでは、記録的な土砂降りの中で「Purple Rain」を熱演。感電の危険すら顧みず、雨を天からの演出に変えてギターをかき鳴らす姿は、世界中を震撼させる歴史的パフォーマンスとなった。
さらに、人気ゲーム『ギター・ヒーロー』の出演を断った際には「プラスチックのボタンを押すより、本物のギターを練習してほしい」と語るなど、楽器を自らの手で鳴らすことへの崇高なまでのこだわりを持ち続けていた。

【プリンスの ギター名演 10選】
あくまで氷山の一角ではありますが、プリンスの珠玉のギター名演を10曲選びました。ぜひご覧ください。
1. Purple Rain
ギターという楽器を「歌わせる」ことの到達点。後半の壮大なソロでは、ストラトキャスター特有の煌びやかなトーンと深いリバーブが、哀愁を帯びたメロディを空高く響かせる。テクニックを超えた、一音の説得力に震える一曲だ。 あのエリック・クラプトンは、プリンスのことを「世界で最高のギタリストの一人」だと称えた。あるインタビューでは「世界最高のギタリストでいることについてどう感じるか」と尋ねられた際、クラプトンは「わからない。プリンスに聞いてみて」と返したエピソードはあまりに有名。
2. Kiss
情熱的なリードソロと並び、彼の真骨頂と言えるのが「カッティングの名手」としての顔だ。その真髄がこの名演に凝縮されている。極限まで音を削ぎ落としたアンサンブルの中で、まるで切り取ったサンプリングのように響く正確無比なカッティングギター。後半2:17〜からのカッティングソロは必聴。PVでは女性が弾いてるが実際の録音は勿論プリンス本人によるもの。マッドキャット特有の乾いたトーンによる鋭いストロークが、この曲のクールな質感を決定づけている。
3. Endorphinmachine
アルバム『The Gold Experience』を象徴するハードなロック・ナンバー。重厚なディストーションを効かせたリフと、縦横無尽に駆け巡るアグレッシブなリードプレイは、彼のロックギタリストとしての攻撃的な側面を如実に物語っている。日本では格闘技番組「K-1」のテーマ曲としても話題を呼んだ。おそらく90年代以降のプリンス作品中最も有名な曲の一つでしょう。
4. While My Guitar Gently Weeps
2004年ロックの殿堂入り式典での伝説的なライブ演目。ジョージ・ハリスンの名曲を、プリンスは感情を爆発させた超絶ソロで塗り替えた。ベンディング、高速パッセージ、そして「消えるギター」の演出まで、すべてが完璧なギターショーだ。
5. Joy in Repetition
プリンスがいかにライヴ・パフォーマーとしても天才かつ圧倒的存在だったかを体感できるアルバム「One Nite Alone... The Aftershow: It Ain't Over!」から。彼の過去の作品中、ギターをフィーチャーしたアルバムと言っても、これといってアルバム単位としては見当たらず、要所要所でのギターソロを探して聴くしかなかったが、本アルバムのようなライヴ演奏こそ、(氷山の一角ではあるものの)ギタリストとしての才能をより感じ取るには、持ってこいかも知れない。逆に言えば、「ギターという楽器は、ライヴで最も映える楽器なのかも?」と、プリンスの圧倒的なギター演奏で改めて気付かされた。ブルースの語り口をベースに、ワウペダルを巧みに操りながら、静寂から激情へとビルドアップしていくストーリーテリングが見事。
6. The Ride
1998年発売の未発表曲集・通販限定アルバム「Crystal Ball」に収録。プリンスの「ブルースマン」としての魂が剥き出しになった楽曲。シャッフルビートに乗せて、粘り気のあるトーンで奏でられるソロは、彼がいかに伝統的なブルースを深く理解し、現代的に昇華していたかを証明したプリンス屈指のブルースギター名演の一つ。
7. Batdance
映画『バットマン』のサントラから。混沌としたサンプリングの中で、突如として切り裂くように現れる暴力的なファズ・ギター。機械的なビートと、人間味溢れる荒々しいギターの対比がスリリングな快感を生んでいる。これこそプリンスの真骨頂である、歪みまくった熱いリードソロと、彼のもう一つの顔あるファンクリズムのカッティング名演の両方が一度に聴ける、まさにプリンスのギタリストとしての二面性を体現している一曲。
8. Thunder
90年代を代表する名盤「Diamonds and Pearls」のオープニングを飾るナンバー。冒頭のエレクトリック・シタールと、まるでストリングス・オーケストラを彷彿とさせるオクターヴをかけた分厚いギターソロが圧巻。天を突くようなロングサステインのチョーキングを多用し、メロディメーカーならではのプリンスの真骨頂とも言えるキャッチーでありながら、エモーショナルで激アツなギターソロが炸裂する。
9. Guitar
32枚目のスタジオアルバム2007年作品「Planet Earth」収録、その名も「Guitar」。タイトル通り、全編にわたってギターが主役。ロックンロールの快楽原則に忠実なリフと、遊び心溢れるフレーズが散りばめられている。「何よりもギターを愛している」という彼のメッセージが、その軽快なピッキングから伝わってくる。プリンスといえば、言わずと知れた80年代のアルバムは何れもが神がかっているが、ギターに関して言えば、90年代以降の方がよりアグレッシヴなギター名演は多い。
10. The Morning Papers
90年代プリンスの代表的名作1992年のスタジオ・アルバム「Love Symbol」に収録。メロウなバラードの中で、ギターが第二のボーカルとして機能している。まるでブライアン・メイを彷彿とさせるような、完全に曲の一部としてソロやオブリガートが重要な位置を占める、メロディメーカーならではのプリンス屈指のギター名曲の一つだ。洗練されたコード・ボイシングと、情感たっぷりに響くクリーントーンのソロは、彼の音楽的背景にあるジャズやフュージョンの知性を感じさせる。
プリンスが去って10年。しかし、彼が遺した鋭いカッティングと咽び泣くようなリードギターの音色は、今もなお色褪せることなく、新しい世代のギタリストたちに道を示し続けている。
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