見出し画像

AI音声文字起こしから『意味』も起こしてみよう

オンライン会議が終わった。

文字起こしもダウンロードできた。

これで議事録は半分できたようなものですね。敗北を知りたい。

翌日、その文字起こしを開きました。

文字にはなっているね。

意味は……分かりませんね。なんだこれは。

人名は別人になり、社内システム名は温浴施設になり、略称は一般語へ転職していました。

今日も敗北です。


AIに議事録化を頼めば、それらしい文章にはなるけれど

どうも、どこかのJTCで、生成AI業務推進室長をやっています。本日は、温浴施設へ転職した社内システムを、議事録へ連れ戻します。

ここに会議の文字起こしがあります。とりあえずAIに投げてみましょう。すると、

「何らかの設定」

「関連する処理」

「一定の基準」

へ丸くなっていきます。おかしい。

何らかを知りたくて議事録を作ってるんですよ。

今回は、同じ文字起こしから、業務辞書なし/ありの2通りで議事録を作りました。

持ち帰りは二つです。

社内用語を説明する『業務辞書』を添えるだけで、議事録の解像度は上がること。

そして、業務辞書は事実を足すためではなく、言葉を正しく結び直すために使うことです

※以下は、実際に試した比較の構造だけを残し、業種・人名・用語・数値を置き換えた架空の社内システム運用会議です。特定の会社・製品・案件を示すものではありません。

文字起こしは、こうなりました

ある日の会議では、朝の集計処理を早めるために設定を変えた結果と、次の確認事項について話していました。

まずは、その音声文字起こしを見てみましょう。

音声文字起こし(抜粋)

まず、ないと風呂の件です。
先週の平列事項数を6から8に振って、朝の締めに間に合うか見ています。
8にしたら処理は20分短くなりましたが、リトライ級が3件増えました。
アルファ側はグリーン系統を取った時と同じ条件です。
今回はエスエルエー内ですが、月末量では未確認です。
差分ログを見て、山田さんが来週水曜までに判断基準を作る、でお願いします。

「ないと風呂」、ちょっと楽しそうですね。朝までに戻れる気がしません。

お供は銘酒、『清正英愛』。

辞書なし:間違ってはいない。でも、仕事には少し足りない

辞書なしで作った議事録

夜間処理に関する設定数を6から8へ変更した結果、処理時間が20分短縮した。
一方、再処理に関する事象が3件増加した。
今回は基準内だったが、月末条件では未確認。
山田氏がログを確認し、来週水曜までに判断基準を作成する。

お、かなり読めますね。

話の方向も外していません。今回使った、会社で認められた無料版の生成AIでも、ここまでは整えてくれました。

ただ、マネージャーが後から読むと、確認したいことが残ります。

「これ、何の処理のこと?」

「何を6から8へ変えたの?」

「基準内って、どの基準?」

「再処理に関する事象って…?」

文章は整いました。しかし、判断に必要なディテールが見えません。

つまり、これでは議事録というより、会議があったことを伝えているだけですね。

まずは小さな業務辞書を同席させてみる

次に、音声文字起こしと一緒に、まだ小さな業務辞書を渡しました。

ここでは、人名やシステム名だけでなく、略称や判断基準まで含めた短い一覧を「業務辞書」と呼びます。

最初から立派な全社辞書は作っていません。

そんなものがあるわけないからです。

この会議で頻出し、聞き間違えると意味が変わる言葉だけをまとめました。

今回用意した業務辞書

【NightFlow】 
朝の帳票を作る社内の日次集計バッチ。「ないと風呂」と認識されやすい。

【並列実行数】
同時に動かす処理数。「平列事項数」などへ崩れる。

【リトライキュー】
再実行待ちになった処理の一覧。「リトライ級」と認識されやすい。

【Green Gate】
本番反映前に通す社内承認。「グリーン系統」などへ崩れる。

【SLA】
処理を完了させる目標時刻・サービス基準。

【α環境】
Green Gate取得時に使った検証環境。

辞書ありで作った議事録

NightFlow日次集計バッチの並列実行数を6から8へ変更し、処理時間を20分短縮した。
一方、リトライキューは3件増加。
α環境はGreen Gate取得時と同じ設定で、今回はSLA内に収まった。
月末データ量では未検証。
山田氏が差分ログを確認し、来週水曜までに並列実行数の判断基準を作成する。

もちろん、辞書あり版もそのまま確定版として受け取ってはいけません。

辞書の用語と文字起こしが本当に対応しているかは、原音や会議資料を見て人が確認します。辞書は正解を保証するものではなく、確認する場所を絞るためのものです。

違いは、文章のきれいさではありません

辞書なし版と辞書あり版を比べると、次のようになります。

【対象】

  • 辞書なし:夜間処理

  • 辞書あり:NightFlow日次集計バッチ

【変更条件】

  • 辞書なし:設定数6→8

  • 辞書あり:並列実行数6→8

【副作用】

  • 辞書なし:再処理に関する事象

  • 辞書あり:リトライキュー3件増

【検証条件】

  • 辞書なし:記載なし

  • 辞書あり:α環境/Green Gate取得時と同じ設定

【判定結果】

  • 辞書なし:基準内

  • 辞書あり:SLA内

【未確認点】

  • 辞書なし:月末条件

  • 辞書あり:月末データ量で未検証

辞書あり版では、設定変更と結果だけでなく、対象、検証条件、判定基準、未確認の条件がつながりました。

マネージャーが、

「このまま運用してよいのか」

「月末までに何を確かめるのか」

を判断しやすくなります。

AIが急に賢くなったわけではありません。会議の参加者だけが知っていた前提を、あとから読むAIにも渡しただけです。

社内用語は、社内の人には空気ですが、AIには暗号です。新人にも、たぶん暗号です。

有料版だからって、全部の社内用語は分かりません

この方法は、AIが会社の資料を自動で探しに行ける環境でなくても使えます。音声文字起こしと業務辞書を、同じチャットへ貼り付けるか、添付できればよいからです。

私は、会社で利用を認められた無料版の生成AIへ、入力できる量に分けて渡しました。扱える量や添付方法は製品や契約によって異なりますが、文字起こしと辞書を同席させる考え方自体は変わりません。

逆に、有料版へ替えただけでは社内語は補われません。

AIがアクセスできる場所に正しい資料が正しく整理されていなければ、資料室の前で呆然と立ち尽くすだけになります。

資料整理の話は、またどこかで。

もちろん、実務データは会社で認められた環境だけで扱います。個人向けサービスへ、社外秘や個人情報を入れない。今回の例も、公開用にすべて置き換えています。

辞書を渡したら、AIが少し張り切りすぎました

ただ、辞書あり版にも別の問題が生じることがあります。

業務辞書に書かれた用語の説明を、会議で話した内容のように議事録へ足そうとするのです。

ありがちな追加

NightFlowは朝の帳票を作成する社内の日次集計バッチであり……

たぶん正しい。説明も親切です。

ただし、その会議で話していないなら、議事録の事実ではありません。

辞書が分厚くなるほど、AIは詳しい解説者になれます。

だけど、今回は書記でいてください。

そのため、辞書を添えるときは「何に使ってよいか」も指定します。

そのまま使える|掲載用・最小プロンプト

添付の音声文字起こしから議事録を作成してください。
添付の業務辞書は、表記補正と用語の意味確認にのみ使用してください。
文字起こしにない背景、理由、判断、数値、担当者、期限は追加しないでください。
辞書の用語と文字起こしの語句の対応を断定できない箇所は[要確認]としてください。
決定事項、意見、対応事項を分け、担当者と期限は明示された場合だけ記載してください。

これだけでも、辞書を「議事録の材料」ではなく「翻訳表」として扱いやすくなります。

辞書に書いてあることを全部披露する場ではありません。

資料発表会じゃないんだよ。

最初の辞書は、5語でいい

辞書と聞くと、五十音順で数百語を並べたくなります。

やめましょう

完成する頃には、用語が一つ増えています。

まずは5語だけ。余裕があれば10語までで十分です。

人名、部署名、システム名、プロジェクト名、略称、判断基準。

正表記、よくある誤認識、短い意味があれば十分です。Excelでもテキストでも構いません。

そして、議事録を一度作る。直した言葉を辞書へ戻す。次の会議でも使う。

最初から全社辞書を目指すより、この小さな往復の方が続きます。

辞書は作ってから使うものではなく、使いながら育てるものです。

本当は、辞書の作り方まで書く予定でした

本当は、このまま業務辞書の作り方まで一気に書く予定でした。

しかし、言いたいことを全部入れたら、紙面が足りませんでした。フェルマーみがありますね。

というわけで、この話はもう一本続きます。

今回は、辞書を添えると何が変わるかまで。

辞書をどこから作り、どう育てるかは、次の記事で扱います。

次は、その辞書をどこから作るのか

ここまで読むと、次の問題が出ます。

「その業務辞書、うちにはないんだけど!」

大丈夫です。たいてい、ありません。

あるのは過去の議事録、業務マニュアル、FAQ、引継ぎ資料、Excel、共有フォルダの奥で静かに増えたPDFです。

資料はある。
辞書ではない。
それが普通です。

次の記事でも、無料版生成AIの利用を前提に、社内資料を小分けで読ませます。

そして、新たに見つかった用語や修正候補、意味を確定できなかった語だけを「差分ファイル」へ出し、人が確認して辞書本体へ統合する手順を扱います。

AIは一度に全部読めなくても、差分だけなら次へ渡せます。

AIさんも忘れます。
こちらも忘れます。
ファイルだけが妙にしっかりしています。

文字起こしに足りなかったのは、文字ではなく辞書でした。

次は、その辞書を社内資料の山から掘り出します。


あなたの職場では、何に化けましたか?

人には普通に通じるのに、AIの文字起こしでは別人、別の設備、まったく違う一般語になってしまう社内用語はありませんか。

もし「うちにもある」があれば、会社や人が特定されない範囲で、コメント欄に置いてもらえるとうれしいです。

最初の業務辞書へ入れる5語は、たぶんその辺りにいます。固有名詞は、一度着替えさせてからお願いしますね!

もちろん、お困りごとも大歓迎です。

前回は、AIさんに「まだ描かないで」と頼みました

前回は、画像生成AIへすぐに描かせず、対話しながら構図や表情、残したいものを言葉にしていく話を書きました。

今回と同じく、AIに完成品を頼む前に、こちらの前提を渡してみる回です。

Xでは、記事になる前のぼやきを置いています

Xでは、会議、Excel、共有フォルダ、生成AIなど、記事になるほどではないけれど、忘れるには惜しい業務の違和感を書いています。

「推進室長さん|生成AI業務推進室」でやっています。よければ、こちらものぞいてみてください。

いいなと思ったら応援しよう!

推進室長さん|JTC生成AI業務推進室 面白かったら、推進室の活動費を少し置いていってくれると嬉しいです。次の執筆の原動力(コーヒーかハイボール)になります。