〈小説〉スカートとズボンの話 #27
バブル的ネーミングセンスの装美監理庁は、女性下衣選択法が制定されると同時に作られた官庁だ。下衣選択法の監理運用を行っている。他にも何かしているのかもしれないが、わたしにはよくわからない。
「脱法コーデの件でお話を、って言ってた。脱法ハーブみたいに言わないでほしいよねえ」
耀子さんは暢気な口調で言った。
「どんな人だった?」
「けっこう若かった。寺尾聰の若い頃みたいだった」
「寺尾聰?『ルビーの指環』の?」
「いや、どっちかというと『西部警察』のときの」
耀子さんは、食い込み気味に答えた。どうでもいい話だ。大体、どちらにしろわたしにはよくわからないのだ。
店長と相談してまた連絡します、と耀子さんは彼に言ったそうだ。mer bleueでは対外的には、耀子さんが「オーナー」でわたしが「店長」だ。
「わかった、これから電話して会ってくる。耀子さん、ここはわたしが責任持って対応しますから」
華だけの責任じゃないんだからね、あまりしょい込みなさんなよ、と耀子さんは言った。でもこれは、どう考えてもわたしの責任だった。この今井誠順とかいう査察官と話して、なんとか穏便に取り計らってもらわなくてはならない。
名刺にある携帯電話にかけると、彼はまだ近くにいるようだった。場所を聞いて、わたしは急いでそこへ向かった。
誰が今井誠順なのか、わたしはすぐにわかった。
くたっとしたスーツ姿の、背が高い男だ。もしかしたら、わたしとあまり歳は変わらないのかもしれない。耀子さんが西部警察なんて言うものだから、まるで刑事のような威圧感が漂っている。カラフルで穏やかな空気が流れるこの街で、彼は完全に浮いていた。
わたしが声をかけると彼は、先ほどと同じ名刺をくれた。わたしは、できるだけ店から離れた場所で話したかった。少し歩いて適当な喫茶店に案内しようか、と思案していると、今井誠順は急に言い出したのだ。
「吉祥寺って、旨いメンチカツの店あるんですよね? 俺1度あれ食べてみたいんですよ。今からちょっと連れてってもらえませんか」
つづく
