「空と風と時と 小田和正の世界」レビュー
久しぶりの、オフコース関連の記事です。
こちらのシリーズでオフコースを熱く語ってから、約2年。
今でもシリーズ通してコンスタントにアクセスをいただいており(変わらぬオフコース人気ゆえ、ですね)うれしい限りです。
今読むと稚拙だったり冗長だったり、恥ずかしいところも。
2年の間にたくさんのオフコースファンの方と交流し、認識を新たにしたことも多々あります。
しかし基本的な思いは変わらないので、変わらず読んでいただけてうれしいです。
さて、我らが小田和正さんの評伝
「空と風と時と 小田和正の世界」
昨年の11月に発売されましたが、私は1年遅れでようやく読了しました。
膨大な取材に裏付けられた、小田さんの評伝。
著者は、ノンフィクション作家の追分日出子さん。
彼女の、小田さんはじめ取材対象者からの信頼と説得力を感じる、すばらしい本でした。
ファンの方は必読だと思います。
(すっごく厚いけど。辞書くらい)
今までの本、インタビューなどの情報では知り得なかったことが多々ありました。
ネタばれ云々、という本ではないのですが、そのようなことがないようにご紹介します。
周辺の人への綿密なインタビュー
小田さんの幼少期のみならず生まれる前のご両親についてまで、綿密に取材がされています。
兄・兵馬さんへのインタビューもあり、とても貴重です。
私は、小田薬局(小田さんの実家が経営する薬局)で働いていた人たちの様子が、まるでひとつの小さな物語のようで楽しかったです。
個人的なことですが私の母は小田さんと同い年で、やはり商家の娘だったので。戦後間もない商家で、母もこんな賑やかな環境で育ったのかな……と。
オフコースのデビュー後については、この時代のミュージシャンたちはもちろん事務所やレコード会社のスタッフにも、詳細なインタビューがされています。
「新事実!」というような派手な話はなく、
誠実で丁寧な取材により、いろいろな話が層のように重なって、彼らへの理解が深まっていく……
そんな感じです。
もちろん、オフコースの他メンバーへのインタビューもあります。
4人時代のことが詳しくわかった!
私が冒頭のシリーズを書く中で、何冊本を読んでもほとんど書かれていなかった、4人時代のバンドの雰囲気、エピソード。それがこの本を読んで、ようやく解き明かされたと思いました。
でも先ほど書いたように「新事実!」「激白!」というような、週刊誌的センセーショナルなものではなく。
周囲のスタッフや、清水さん、松尾さん、大間さんへのインタビュー、そして小田さん。複数の人の話やエピソードがありのままに、過剰にあおることなく重ねられ。
それで、あぁこんな風に終わっていったんだな……と、ようやく見えてきた感じです。
小田さんソロ時代
サウンドの変遷
この本は半分以上が、小田さんがソロになってからの話です。
小田さんの事務所スタッフ・コンサートスタッフへのインタビューが多数あり、彼らとの絆の強さ、関係の深さがよく伝わってきます。
作品については、
ドラマ主題歌にとの要請に応えて作った「ラブ・ストーリーは突然に」
セールスを考えずに作ったというアルバム「個人主義」で結果的に、今までと違った(同世代男性などの)ファン層を獲得したこと。
ファンにはお馴染みのエピソードではありますが、より深く、小田さんの思いを理解できた気がします。
オフコースファン、特に2人時代からのファンは、ソロになってから大幅にポップスに振れた小田さんの作品を、どう思っていたのでしょうか。
小田さんの「世界進出」への思いの変遷(あとでまた、詳しく書きます)を見ると、そのサウンドの変遷にまつわる思いを、より深く理解できると思います。
クリスマスの約束
TBS系番組「クリスマスの約束」の話は、かなり詳しく書かれています。
あの「誰も来なかった」第1回。
2009年「22分50秒」の制作秘話。
やはりファンには、お馴染みのものばかりですが。
スタッフ、共演のミュージシャンへの綿密な取材により、「ガチ」の軋轢がリアルに伝わってきて。
どこまでこの人は純粋なんだ、身近にいたら大変だろうな、とすら思わせる、ヒリヒリするエピソード。
でも、これがアーティストだよな、小田さんだよな、と。
今年、久しぶりに放送されますね! 楽しみです!!
インタビューからわかる本音
海外(洋楽)への思い
小田さんは、オフコースでもソロでも海外へのチャレンジをしました。
しかし結果的にどちらも、デビューはかなわなかった。
この本では、2013年の吉田拓郎さんとの対談を取り上げています。
吉田さんが、海外で日本の音楽が通用しないこと、若いミュージシャンが海外を目指さないこと(10年後の現在は、だいぶ様相が変わっていますが)への悔しさを語ることに対し
世界も大事だけど、日本人が喜んでくれる曲を書きたい、と語る小田さん。これを著者はこう分析しました。
これは挑戦しなかった者の悔いと、夢は果たせなかったが挑戦した者のいわば達観のように私には聞こえた。
私も、これに大いに同意しました。
思いきり挑戦したからこそ、ふっ切れて今の小田さんがあるのだなと。
洋楽志向だった頃のオフコース曲が大好きではあるのですが、日本のファンに対して、思いきりドメスティックに、時にはJポップ寄りに作品を作ってくれる小田さんがやはり好きです。
かつてJRAのCMに使用された「19の頃」
大好きな1曲で、恋愛の歌だと思っていました。でもこれは、小田さんの洋楽への思いとこれからの決意を歌ったものだったと。
「必要とされないことに傷つく」
私がこの本の中で、最も「小田さんらしい」と思ったインタビューがあります。
人によっては「そこ?」と思うのかもしれませんが、私は「まさに小田さん!」と思いました。
ソロでブレイク後に映画「いつか どこかで」を制作・公開し、悪評を浴びたことを振り返るもの。
オフコースデビューまもない不遇の頃、当時大人気の「かぐや姫」の前座をつとめ、観客に「早く終われ」「帰れ」と冷たい反応を受けた話がありますが、それと並べ、このことを振り返っています。
映画評も厳しかった。これについて、2005年当時、小田はこんな風に話した。
「映画は大きかった。あれだけ叩かれて。自主上映じゃなく、全国一斉ロードショーだものね、大騒ぎのロードショー。それはそれでよかったんだよ、マヌケで。いい経験したよ。オフコースの最初、前座で早く帰れといわれたことも、オフコースの最後の辛かったことも、映画で叩かれたことも、今となってはすごくおかしいものね。貧乏自慢じゃないけど、すっごくおかしいよ」
この時、私はこんな風に質問を続けた。
「無名時代の小田さんの経験と、逆に名前があるからこそ叩かれた映画の経験とは少し違うのではないですか?」
小田の返答はこうだった。
「今の時点で考えればそうだけど、もっと先にいって見れば同じじゃないかな。起きてしまった事象は同じものだものね。必要とされないという」
「二つの共通項は”必要とされない”なんですね?」
「必要とされないってことで傷つくんじゃないの、きっと。お前たちの歌はいらない、かぐや姫を見たいんだ。お前のつくる映画なんか見たくない、お前、才能ないもの。もちろん映画も1本目からすごくいいものができて、いまに至ればいいけど、2本目に至るまで、ここが一番学習するところなんじゃないか」
無名時代とビッグネームになってからのことを並べて、こんな風に俯瞰で、フラットに語る。
冷徹なほどに、自分は何も変わっていないんだとでも言うように。
私は小田さんのこういうところが好きなんだなぁと、改めて思いました。
小田さんは70代に入ってからも「○○記念」や「〇周年イベント」などには興味を示さず、ただがむしゃらにコンサートや楽曲制作を続けています。
その根底にあるものが、この話でよくわかった気がします。
再結成の可能性
オフコースファンにとっての念願は、彼らの再結成です。
中でも5人メンバーでの再結成が、一番強く望まれていると思います。
私も冒頭のシリーズやファンの方とのコメントのやり取りで、同じように考えてきました。
この本で膨大な取材とインタビューを終えた上で、著者は再結成(小田さんと鈴木康博さんの共演)を望む声に対し、自らの考えを書いています。
それについては、引用はしません。
私は、著者の考えに納得しました。
おわりに
長くなりました。本当に読み応えのある評伝でした。
何度も言いますが、ファンの方は必読だと思います!
これからも不定期でごくたまににはなりますが、小田さんやオフコース関連の記事を書いていきたいと思います。
