〈小説〉スカートとズボンの話 #24
耀子さんは、ワンピースを脱ぐ前にジーンズを穿いた。
そして何気なく鏡を見て、あら、と目を見開いた。
「何これ。意外とおしゃれじゃない……?」
スキニージーンズと、トップスの代わりに着たワンピース。
不思議な取り合わせだが、いいバランスだった。
わたしたちは、顔を見合わせた。
単筒と複筒が兼用できるアイテムは、これまでなかった。ましてや、今までにない斬新なコーディネイトが完成している。
ただ、法律的にこれは大丈夫なのだろうか。ワンピースが、下にズボンを穿くだけで複筒のトップスに変身するなんて、そんなことが通用するのだろうか。
「耀子さんこれ、単筒・複筒兼用で売り出してみたい。法律的にOKかどうか、確認しないといけないけど。どうかな」
どこか、焦るような気持ちがあったかもしれない。
mer bleueの人気や売り上げは変わらなかったが、服飾業界の雰囲気が変化するのを、わたしは感じていた。廉価な大量生産のカジュアルブランドが質を高め、ファッション性の高いものを出すようになっていたのだ。
フランス製のヴィンテージという付加価値だけでは、そのうち勝負できなくなるにちがいない。何か斬新なオリジナル商品を生み出さなくては。そんなことを考えていた矢先だった。
「いいよ。華にまかせるよ」
耀子さんも、きっとわたしの思いを理解していた。無責任に人まかせにする人ではないが、そう言ってくれたのだ。
わたしは次の日図書館に向かい、法律書を手に取った。
単筒の長さ、もしくは複筒を着用する際の上衣の長さ。それらの規定がもしあって、それに触れていれば、この計画は白紙だ。
法律文では、単筒を
「鼠径部、臀部、及び両足を、1本の筒状の布等で覆う形状の衣料」、
複筒を
「鼠径部、臀部を覆い隠し、両足を各々振り分け覆う形状の衣料」、
などと、単筒・複筒の違いを細かく定義している。
しかし、単筒の長さや複筒を着用する際の上衣の長さについての記述はない。つまり、今回のワンピースのようなケースはまったく想定されていないのだった。
そして、最後まで目を通しても「罰則」が書かれていない。
盲点をついたもの、と言われたらたしかにそうかもしれない。
しかし違反ではない。そして、仮に違反とみなされても罰則はない。それが、わたしの出した結論だった。
つづく
