マネ×ゴト Vol.22──心構えをしない
「心構えをしてから臨もう」──これは、仕事でも生活でもよく耳にする言葉であり、実際に私自身も長らくそうした態度をとってきました。しかし最近では、あえて「心構えをしない」ことにこそ意味があるのではないかと考えるようになっています。今回は、この「心構えをしない」というテーマを掘り下げてみたいと思います。
心構えが足かせになるとき
心構えをして臨むことには、もちろん良い面があります。準備を整え、想定をし、対応策を練る。その一連の行動は安心感を生み、一定の成功確率を上げてくれるでしょう。しかし一方で、心構えが過ぎると物事が先に進まないことがあります。あれも想定しなければ、これも考えておかなければ、と準備に時間をかけすぎるあまり、肝心の実行に移れない。これはよくある失敗の一つです。
また、「忘れてはいけない」と思うことをリスクと捉え、忘れないようにと構え続けることも同様です。頭の中で抱え込みすぎて、動きが遅くなる。あるいは、過度に緊張し、かえって本来の力が出せなくなる。そういう経験をした方も多いのではないでしょうか。
……私もそういう経験を数多くしてきました。
見逃せないリスクを絞る
では、心構えをせずにどう物事に臨むか。ひとつの答えは「リスクの取捨選択」にあると思います。つまり、どうしても見逃せないリスクだけに集中し、それ以外は受容するのです。
ここで重要なのは、「どうしても見逃せないリスクとは何か」を自分で定義しておくことです。物事を進めるとき、抜かされてしまうと目的が達成できなくなる要素は必ず存在します。それこそが「どうしても見逃せないリスク」です。逆にいえば、それ以外は起こったら起こったで対処すればよい。そう割り切ることで、構えなくても前に進めるようになります。
心構えが生む硬直
会議や話し合いの場で構えてしまうと、意外と柔軟な対応ができなくなるものです。事前にシナリオを描いてしまうと、そのシナリオ内での対応はスムーズにできても、少しでも想定外の展開が出てきた途端に迷いが生じます。結果的に、かえって反応が遅くなる。
自分の思い描いていた「用意」ができてなかった状態で臨んだ話し合いの場で、事前には思いもよらなかった方向に話が進んだりすることはよくありますが、「心構えをしない」というのは、むしろそうした場での自由度を高めるための選択でもあります。必要最小限のリスクだけを頭に置いておき、あとはその場で柔軟に動く。これができると、対話も交渉も驚くほどスムーズになるのではないでしょうか。
些細なことにこだわるべきか
ここで一つ注意したいのは、「些細なことにはこだわらなくてもよい」という姿勢と、「些細なことでもこだわるべき場合がある」という両面を持っている点です。たとえば、言葉遣いや手順の確認など、普段なら些末に見えることでも、それが崩れると大前提が揺らいでしまう場合があります。こうしたケースでは、些細なことでも見逃してはいけません。
つまり、「心構えをしない」といっても、すべてを無視するということではなく、あくまで優先順位をつけるということです。大切なのは、「自分が何を大切にしたいのか」を明確にしておくこと。それさえできていれば、心構えに縛られる必要はありません。
無駄とリスクの関係
ここで、以前この『マネ×ゴト』でも紹介した同僚の言葉を思い出します。彼または彼女は「無駄あるところにリスクあり」とよく口にしていました。つまり、無駄が積み重なると、そこに新しいリスクが生まれるということです。
この視点を重ね合わせると、心構えをしすぎること自体もまた「無駄」であり、その無駄がリスクを生むと言えるかもしれません。大切にしたいものを守るためには、むしろ無駄を減らし、必要最小限のことだけに集中する。その結果として、「心構えをしない」という態度が生きてくるように思えます。
逆転のチャンスは必ず来る
私自身が心がけているのは、「気をつけることをできるだけ少なくする」ことです。これはつまり、頭に入れておくべき注意点を極力絞り込むことです。あれもこれもと抱え込むと、結局どれも守れなくなる。だからこそ、「これだけは外せない」というものを絞り、そのほかはその場で柔軟に対処する。この考え方に立つと、驚くほど気持ちが軽くなります。
そして、その軽さは行動の速さや発想の柔軟さにつながります。構えていないからこそ、変化に合わせて即座に対応できる。これは、結果的にリスクを減らすことにもつながるのです。
まとめ──「構えない」自由さ
「心構えをしない」というと、無防備さや無計画さを想像されるかもしれません。しかし実際には、見逃せないリスクを見極め、それ以外を受容するという合理的な態度です。そのためには、自分が守るべきものを明確にする必要がありますし、無駄を減らす努力も必要です。
心構えをしないことで得られるのは、軽さと自由さです。その軽さが行動力を生み、その自由さが柔軟性を育みます。結果的に、それが最も実行力のある姿勢になるのではないかと、私は考えています。
次に何かに臨むとき、あえて「心構えをしない」と自分に言い聞かせてみてはいかがでしょうか。そのとき、これまでとは違う景色が見えてくるかもしれません。
(ということを、自分に言い聞かせるために書いたのが、この文章です)
