法務部の私が退去費用の不当な高額請求を退けた方法
弁護士・保証会社とのやり取りで見えた“不当請求への対応術”
退去時の費用請求は、誰にでも起こり得る身近なトラブルです。私の場合も、突然の20万円の請求から始まりました。
新しい生活を始めて少しホッとしていた矢先のこと。画面に映る高額な費用を、何度も見返してしまった。何がいくら、なぜ必要なのか。根拠が見えないまま支払いだけを迫られる。ここから始まる人は少なくありません。
そこで私は、10年間法務部で培ってきた知識を総動員し、この請求に正面から向き合うことにした。
アパート退去時に高額な退去費用を請求された
地方のアパートで2年間ひとり暮らしをしていた私がパートナーと同居を開始することになった。引っ越しが完了して、新生活をはじめて間もないときにそれが訪れた。
前のアパートの管理会社(大手不動産会社)の職員からの着信。
電話の向こう側から言われたことはこのような内容だった。
「ご利用されていた部屋の退去後の状況を確認したところ、壁紙の複数の損傷が確認されたので、原状回復費用として20万円の支払いを今月中にお願いします。」
住んでいた期間は2年だけで、部屋をキレイに使っていた自信があったので、退去時の立ち合いはしなかった。DIYで部屋の一面に壁紙を貼った際は確かに望まぬ小さな傷を付けた記憶はあって、玄関の巾木も数ミリ欠損させたのは把握していたが、それだけで20万円はあまりにも高すぎるというのが素直な感想だった。
電話の向こうの声は続けた。
「部屋の中でペットを飼っていましたか?フローリングにペットの爪痕のような傷があります。」
ペット禁止の物件だったためペットは飼っていなかったが、実家の小型犬を何度かうちで預かったことはあった。そのことを素直に報告した。
「いつお支払いできますか?」という質問が飛んできた。
20万円の内訳をまったく聞かされていなかったので、請求内容の詳細を確認して検討したいと答えた。
「写真をお見せしますので、いつご来店できますか?」
対面でのトラブルを避けるため、忙しくてお店まで行けないと説明し、資料をすべて書面で自宅へ送るようにお願いした。
これが、私の“20万円との戦い”の幕開けだった。
管理会社の資料
数日後、管理会社から資料「確認書兼計算書」が自宅に届いた。
部屋の中の写真が6枚並べられて印刷されたA4用紙も複数枚含まれていた。
各写真の右側に部屋の状態に関する説明文が書かれていた。
巾木以外の写真については正直、説明文を読まないと何を指摘しているのかが分からなかった。
数日後、管理会社からまた着信があった。
私からは、いただいた資料では巾木の欠損は確認できたが、その他の損傷については確認できていないので支払いに応じることは難しいと説明した。他の資料や鮮明な写真があれば確認をして再度検討をするも可能だということも伝えた。
「支払う意思はないということでしょうか?」と向こうは強めの口調で聞いてきた。
それに対し、現時点では請求内容に納得はいかないので支払いに応じられないと回答して管理会社とのやり取りが終了した。
保証会社からの支払い請求
管理会社とのやり取りから2週間ほど経過して、知らない電話番号から着信があった。
出てみたところ、前住んでいたアパートと関わっている保証会社だと説明を受けた。こちらの退去費用の未払いが発生したことが原因で、保証会社は退去費用を立て替えることになり、今度は保証会社が求償権を使って退去費用を請求して来たということだ。
保証会社の男性が簡単な状況の説明を終えるとすぐに「いつ支払っていただけますか?」と質問してきた。
私はこれまでの管理会社とのやり取りのことを説明し、請求の内訳とそれを裏付ける資料の確認ができないと請求に応じられないことと、もし資料をいただければ支払いを検討することを説明した。
電話口の向こうは「お支払いいただかないのであれば法的手続を取らせていただきます。」と言ってきたので、私は再度、資料をいただければ検討することをお伝えして保証会社とのやり取りが終了した。
弁護士からの支払い請求
保証会社とのやり取りから約1か月後、法律事務所から「通知書」という書面が自宅に届いた。その内容は、債権回収業務に関する受任通知とその支払いの請求で、指定されていた支払期限は2週間先の月末日となっていた。それ以外の資料は特に何もなかった。
このような書面は自然な流れで支払いを促そうとするが、金額は相手方が一方的に決めたもので絶対に応じないといけないものではない。その請求内容を裏付ける資料がこちらに提示されていない以上、支払いに応じないのは何らおかしくはない。
不都合な真実① 多くの人が“怖さ”で支払ってしまう現実
弁護士からの書面であることや、支払期限が定められていること、支払わないと「法的手続き」という文言などを恐れて、こういった請求に納得していないにも関わらず支払ってしまう人がたくさんいる。普段は請求する側にいる私はそれをよく見てきた。まじめな人、人と対立を避けたい人ほど、いわゆる「優しいひと」ほど支払いに応じてくれる。
弁護士から届いた通知書に対し、私は、現時点では請求に応じられないことと、請求内容に関する資料の送付のお願いをまとめた文書を作成して、担当の弁護士あてに郵送した。
こちらが回答書を郵送してから1週間ほど経過した頃、法律事務所から資料「確認書兼計算書」1枚が届いた。これは以前、管理会社からもらったものとまったく同じ内容だった。
それに対し私は、巾木の修繕に関しては支払う意思があること、その他の壁紙などの請求内容に関する裏付け資料を確認したいことと、管理会社との一連の流れの説明を書面にまとめて回答した。
その回答書を郵送してから1週間ほど経過した頃、弁護士から辞任通知書が届いた。(弁護士の辞任というのは、弁護士がもう請求手続きを担当していないことを意味します。)
辞任の理由はもちろんこちらでは確認できませんが、考えられるものとしては次の理由があげられるのかなと思いました。
【可能性その①】弁護士が依頼された内容は、書面による簡単な支払い請求のみだった。
これなら請求以外の手続き、例えば交渉などの面倒なやり取りをせずに辞任したことは理解できる。
【可能性その②】私が支払いを検討するために必要な資料を用意できなかった。
支払い請求に対して、請求されている側は説明や裏付け資料の提示を求めるのはごく自然なことであることを弁護士は理解しているはずだ。それに応えるのも請求している側の責任なので、それができないから辞任した可能性も考えられる。また、裏付け資料がなければ訴訟を提起することも難しいので、それ以上請求を続けても時間の無駄だと判断したかもしれない。
理由が何であれ、弁護士が辞任したことにより、この件は終了したと思っていた自分がいた。
新たな弁護士からの支払い請求
弁護士からの辞任通知書を受けてから約6週間後、別の法律事務所から受任通知書が届いた。
その書面には、請求金額を1週間以内に行うようにとの指示と、それが難しい場合は、「直ちに当職までご連絡ください」と書かれていた。
弁護士はそのような強い口調であれこれ指示してくるが、その時点ではそれに応じる義務は存在しない。正直、この失礼な書面にはイラっときたので最初は無視しようと思ったが、私は払うべきもの(その時点では巾木の修繕費のみ確認済み)はきちんと支払って早く解決させたかったので、指定された支払期限の1週間後に回答書を郵送した。回答書には、現在の資料が不足している状況では支払いに応じられないことと、管理会社と前任の弁護士とのやり取りをまとめて記載した。
それから1週間後、法律事務所から「確認書兼計算書」が届いたが、やはり管理会社と前任の弁護士から送られたものと同じ内容だった。むしろ、コピーが何度も繰り返されているためか、多くの文字が潰れて読めない状態になっていた。それ以外の資料は一切入っていなかった。
これまでの一連の流れを説明して、資料があれば支払いに応じることも可能だと伝えているのに、このような対応はあまりにも失礼だと感じたので時間を置くことにした。
不都合な真実② “中の人”は誰か?
このような法律事務所からの請求手続きに関する業務(電話対応や文書作成)は弁護士本人ではなく、事務員がマニュアルに従って担当していることが多い。
「確認書兼計算書」が届いてから3週間後、カラフルで派手な封筒に入った「催告書」が自宅に届いた。そこには私が「未だに入金はおろか、ご連絡すらいただけておりません」「誠意あるご返答をいただけないため、解決が困難な状況となっております」と書かれていた。
私は書面ですでに連絡しており、解決に向けて資料をお願いしていたのにも関わらず、このような内容が届いた。これを送った担当者は、以前こちらが送った書面を精読せず、ただ機械的にテンプレート文を使って事務作業を行っているのだろう。
こうなるとむしろ弁護士に訴訟を起こしていただいて、裁判官に誠意のない対応をとっていないのは誰なのかを見ていただきたいという気持ちになってくる。訴訟となると向こうは裏付け資料を必ず出さないといけなくなるので、こちらとしても無駄なやり取りが減って楽になる。
そう思って、催告書を無視することにした。
「催告書」から3週間後、今度は派手な封筒の中に「通告書」が入っていた。そこには何故か訴訟の先にある「債権差押」の説明が書かれていて、「貴殿の信用情報に影響を与え」「各種ローン及びクレジットカード等のご利用ができなくなる」とまで書かれている。
そもそも債権差押という手続きに至るまでには基本的にいくつかのフェーズを通過しないと開始できないのではないか。
①訴訟で裁判官の支払い命令の判決を得る。
②判決が確定する。
③債務者が支払い命令に応じない。
このような手続きのため、仮に訴訟になって、そこで裏付け資料がすべて提出されて、裁判官も納得できる内容なら、私はすぐに支払いに応じるつもりだ。私にこの支払いの意思がある以上、債権差押を申し立てられる状態にさせないので、心配することは一切なかった。
不都合な真実③ 封筒の色と文言は「心理戦」である
債権管理回収会社や法律事務所の多くが派手な封筒を使ったり、「信用情報に影響」や「各種ローンが利用できなくなる」などのリスクを書くことで、本人だけではなく、その家族にまで圧力をかける効果もある。法律の仕組みを知らない本人や家族が、それらのリスクを過剰に恐れ支払いに応じさせることが狙いの場合がある。
通告書が届いた翌日、法律事務所あてに、以前いただいた「確認書兼計算書」の文字が潰れていて正確な内容が確認できないという内容の書面を郵送した。
1週間後、字が潰れたままの資料が自宅に届いたので、すぐに読解不能な点の説明をもとめる書面を法律事務所へ郵送した。翌週に読める状態の資料が手元に届いたが、請求を裏付ける資料としては足りないと判断し、請求を無視することにした。
それから6週間後、「督促状【給与差押等前最終告知】」と題した書面が自宅に届いた。
以前届いた「通告書」と同様に「給与差押等の法的手続の検討に入り、手続きを進めてることとなります」という文言を使って、債権差押で圧力を与えてくる内容だった。
督促状に対する回答は、現時点で支払いに応じられる項目一覧、その他の項目の裏付け資料の提出、これまでの一連のやり取りの説明をまとめたものを郵送した。
回答書を郵送してから3年以上経過した今も、弁護士や相手方から請求を受けることが一切なくなった。5年経過しないと時効が完成しないのでまだ請求が届く可能性はあるが、そうなった場合は坦々と対応していけばいいだけなので、今後も気にせず生きていくこととする。(新たに賃貸を契約する場合は、今回関わってきた不動産会社や保証会社から入居を断られる可能性を理解した上での判断です。)
一連の流れを終えて
初めての経験で驚きもあったが、法務部で請求業務に関わってきた知識があったからこそ、感情的にならず冷静に対応できた。
強い言葉や圧力に屈せず、請求の根拠を求め続ける姿勢が何より重要だと実感した。
ここから先では、実際に届いた弁護士事務所からの書面と、私が送った回答書の実例をもとに、各段階での心構えを解説する。
この心構えは退去費用に限らず、あらゆる「不当だと感じる請求」に対しても有効である。状況に動じず、事実と根拠を冷静に見極める力が、最終的に自分を守ることにつながる。
この先の有料部分では、以下の内容が含まれている。
・管理会社から届いた資料の画像(3通)
・法律事務所から届いたすべての書面の画像(10通)
・私が法律事務所に宛てたすべての回答書の内容(5通)
・納得いかない請求を受けたときの心構え7つとその解説(1700文字以上)
※当事者を特定できるような情報はすべてマスキングした状態で公開する。
※記載している内容はあくまで一例であり、すべてのケースに当てはまるものではありません。また、法的な助言を目的としたものではありません。具体的な状況に直面している場合は、必ず弁護士などの専門家へご相談ください。
※当記事に掲載されている文章および画像の無断転載・転写・使用を固く禁じます。
弁護士からの書面とそれらに対する回答書等
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