小児の神経学的診察 ― 「何を評価しているか」を意識した、頭頸部から全身への進め方
こんにちは。小児科医のひろです。
今回は、「小児の神経学的診察」について、医療者向けにまとめました。
(普段の内容とは異なり、保護者様向けではありません。)
また、わかりやすく説明することを心がけるために、普段の口調は一旦封印しました。
では、早速始めていきます。
1. 診察の前提 ― 取捨選択と「何を評価しているか」
神経学的診察は、全項目を網羅するものではない。
問診から「どこの障害か(局在)」「何が起きているか(病態)」の仮説を立て、それを診察で検証するのが基本の流れである。
小児では二点に注意する。
・発達途上で所見そのものが変化すること。
・成人疾患(完成した神経系の障害)と小児疾患(発達途上の障害)では病態の分布や性質が異なる。
診察の順番は自由だが、決めておくと見逃しが減る。
本稿は頭頸部から上肢・下肢・全身へと進める。
2. 一般身体所見と、高次機能
神経の診察は、まず全身状態の把握から始める。
神経疾患が他臓器の異常を伴うことも、その逆もあるためである。
神経皮膚症候群や先天異常症候群を念頭に、皮膚・顔貌・四肢・外性器の形態異常も確認する。
意識・知能・言語・行動・社会性は、主に問診で評価する。
発達は代表的なマイルストーンを聞き取り、健診や学業での問題も確認する。
診察への協力性も手がかりになる。
協力が得られないときは、知能・認知の問題なのか、注意や不安などの行動・情緒の問題なのかを考える。
3. 脳神経(頭頸部)
まず表情を一目みる(緊張、表情の乏しさ、眼瞼下垂、不自然な開口)。
脳神経は「何を支配し、障害でどう出るか」をセットで診る。
嗅神経(I)
鼻閉によることが多く、省略されやすい。
視神経(II)
視力と視野(対座法)をみる。幼児での診察は難しい。
動眼・滑車・外転(III・IV・VI)
9方向(正面・上下左右・斜め)の追視で眼位・眼球運動・複視をみる。
輻輳と近見縮瞳も確認する。
瞳孔は左右同大(2〜5mm)・正円で、対光反射は直接・間接性をみる。
片側の網膜・視神経障害では、患側に光を当てても両側が縮瞳せず散大気味となる。
三叉神経(V)
額・頬・下顎の感覚の左右差と、咬筋を触れて咀嚼をみる。
顔面神経(VII)
表情の左右差・閉眼力・口角・額のしわをみる。
舌前2/3の味覚も顔面神経支配。
末梢性麻痺では障害側の額にしわが寄らないが、中枢性では前額部が両側支配のためしわが残る。これが両者を分ける要点である。
内耳神経(VIII)
指示が通れば両側性の高度難聴はない。
難聴があればWeber・Rinne試験で感音性/伝音性を鑑別する。
前庭障害では自発眼振をみる。
舌咽・迷走(IX・X)
発声で口蓋垂が健側へ偏倚(片側障害)。
鼻への逆流・鼻声(両側障害)。
舌下神経(XII)
舌を突出させると麻痺側へ偏倚し、障害時に線維束性収縮を認める。
副神経(XI)
頸部回旋と肩挙上の筋力をみる。
4. 筋力・筋緊張・筋量
筋力低下(筋脱力)は、上位運動ニューロン(一次運動野〜脊髄前角)、下位運動ニューロン(末梢神経)、神経筋接合部、骨格筋のどこが障害されても起こる。
このうち錐体路(一次運動野〜末梢神経)の障害によるものを運動麻痺とよび、筋緊張から弛緩性麻痺と痙性麻痺に分かれる。
神経筋接合部の障害は筋無力症(反復で筋力が落ち、夕方に増悪)、骨格筋の障害は筋脱力とよぶ。
評価はMMT(徒手筋力テスト)が基本である。
協力の得られない年少児では、運動マイルストーンの遅れや自発運動で判定する。
近位筋の低下はGowers徴候や動揺性歩行・階段昇降の困難として、遠位筋の低下は食器や筆記具の操作の困難として現れる。
筋緊張は、筋がもつ自発的な緊張である。
低下は中枢から末梢のどこでも起こるが、亢進は中枢神経障害でのみ起こる。
安静時筋緊張は、四肢を他動的に動かして三要素でみる。
被動性(passivity)
四肢をゆすった揺れ。
筋緊張低下で増大、筋緊張亢進で減弱。
硬さ(consistency)
筋腹を押した固さ。
筋緊張低下で柔らかく(末梢神経障害でマシュマロ様)、筋緊張亢進で固い。
伸展性(extensibility)
関節可動域。
筋緊張低下で拡大(スカーフ徴候、heel to ear 試験)。
筋緊張低下と筋力低下を区別するのは、想定する疾患が違うためである。
両者とも低下なら末梢性低緊張(末梢神経・筋疾患)、筋緊張だけ低下なら中枢性低緊張(染色体異常・中枢神経疾患)を示唆する。
筋萎縮の分布も疾患により異なる。
筋疾患では高口蓋・顔面筋萎縮・翼状肩甲、末梢神経疾患では遠位の変形(下腿の逆シャンパンボトル様、凹足=pes cavus)を認めやすい。
Duchenne型・Becker型筋ジストロフィーでは、下腿の仮性肥大を呈する。
5. 腱反射と病的反射 ― 麻痺の鑑別
腱反射は、腱叩打による筋の伸長を筋紡錘が感知し、脊髄反射弓を介して同じ筋を収縮させる反射で、客観的に評価できる。
重視される五つと髄節は次のとおり。
上腕二頭筋反射 C5〜C6
腕橈骨筋反射 C6〜C7
上腕三頭筋反射 C7〜C8
膝蓋腱反射 L3〜L4
アキレス腱反射 S1〜S2
出やすさには個人差があり、軽度の亢進・減弱は正常範囲かの判断を要する。
患者がリラックスでき、上体が引っ張られないよう支えるのがコツである。
病的反射は、健常人では出現しない。
Hoffmann徴候(中指末節を弾き母指屈曲)、Mendel-Bechterew徴候(足背叩打で足趾屈曲)、足クローヌス(急な背屈で背屈・底屈が律動反復)がこれにあたる。
足底皮膚反射では、足底外縁を踵から足趾へこする。
健常は無反応か足趾屈曲だが、錐体路障害では母趾が緩徐に背屈し他趾が開排する(Babinski徴候)。
Babinski徴候は錐体路障害を示す最も有用な指標だが、障害があっても陰性のことがあり、必発ではない。
足底を嫌がればChaddock法・Oppenheim法で代用できる。なおジストニアでは錐体路障害がなくても母趾背屈が出ることがある。
腱反射と病的反射は、麻痺の鑑別に重要である。
運動麻痺は、他動時に抵抗の少ない弛緩性麻痺と、緊張が亢進する痙性麻痺に分かれる。
腱反射の減弱・消失は弛緩性麻痺と筋疾患(Guillain-Barré症候群も原則減弱)、亢進は痙性麻痺でみる。
6. 運動失調と不随意運動
運動失調は、運動時に複数の筋群を合目的に協調できない状態である。
固有感覚を中枢へ伝えられない後索型と、運動学習を担う小脳の障害による小脳型がある。
協調障害は、指鼻試験(測定過大・終末時振戦)、踵膝試験(滑らせられない)、回内回外試験(拙劣・肘の固定不良)でみる。
歩行は、小脳型が歩隔を広げ、後索型は踵で強く床を打つ。
鑑別の要点は、後索型は視覚で代償される点である。
後索型は閉眼で立位が不安定化・転倒する(Romberg徴候陽性)が、小脳型は閉眼で悪化しない。
健常小児の到達年齢の目安は、閉眼立位での頭部安定が7歳、回内回外が8歳以上、小脳失調の評価が成人レベルに達するのが11歳である。
7. 感覚と自律神経
すべての感覚は診察できないため、病歴から精選して調べる。
感覚障害は自覚されにくく、けがや熱傷が多いといった問診が手がかりになる。
対象は、表在覚(触覚・痛覚・温度覚)、深部感覚(関節覚・振動覚)、複合感覚(部位覚・2点識別覚・書字覚・立体認知)である。
体性感覚では、デルマトーム(髄節支配)と末梢神経の支配領域が異なるため、障害がどちらの分布に沿うかを考える。
支配の境界は重複するため、障害領域は支配域より狭くなる。
逆に、感覚障害の境界が正中線上に明瞭なら、機能性障害を強く疑う。
自律神経は、循環・血圧・呼吸・体温、消化管、膀胱、発汗などを制御する。
問診で食事・排泄・睡眠、起立性調節障害の情報を集める。
8. 乳児期の診察 ― マイルストーンと原始反射
乳児期も基本は年長児と同じだが、発達と原始反射の評価が加わる。
発達歴は、粗大運動・微細運動・言語・社会性の各側面を、発達指標(マイルストーン)に沿って整理する。
ここで大切なのは、平均の月齢だけでなく、「いつまでに達成されなければ遅れか」というカットオフを併せてみることである。
代表的な指標と、遅れと判断する目安は次のとおり。
定頸
目安3か月(5か月を超えれば遅れ)
座位
目安6か月(8か月を超えれば遅れ)
独歩
目安13か月(18か月を超えれば遅れ)
手の機能
物をつかむ 目安5か月
手渡し 目安7か月
有意語
目安1歳(1歳6か月を超えれば遅れ)
2語文
目安2歳(3歳を超えれば遅れ)
遅れの有無だけでなく、発達の偏りや質的な特徴にも注意する。
視線の合いにくさ・指差しの欠如・常同行動・回転物への固執は自閉スペクトラム症(ASD)を疑う。
全般的な遅れは知的発達症(ID)を疑う。
多動・衝動性・不注意は注意欠如多動症(ADHD)を疑う。
原始反射は乳児期早期に存在し、発達とともに消失する。
残存すれば異常で、成人期の出現は前頭葉など中枢の機能低下を示唆する(乳児で残存する場合の局在的な意味は乏しい)。
主なものと消失時期は次のとおり。
非対称性緊張性頸反射 3か月
手掌把握反射 6か月
Moro反射 6か月
探索反射 4〜6か月
吸啜反射 5〜6か月
足底把握反射 9〜10か月
Babinski反射 11か月
9. 意識障害時・救急での診察(髄膜刺激徴候)
意識障害とは、平時と異なる意識状態を指す。
後遺症などで平時から指示に応じられない場合でも、平時と変化がなければ意識障害とはいわない。
意識障害があれば、SpO2・呼吸様式などのバイタル、全身の筋緊張・肢位、眼位・瞳孔を観察し、画像・血液検査・脳波を加えて原因(中枢神経・心血管・全身性・精神疾患)を探る。
けいれん重積で一見止まっても意識回復が不明瞭なときは、発作が止まったか、けいれん後の一過性意識障害(twilight state)か、発作が残存するかを見極める。
瞳孔散大・眼球偏倚・眼振・瞬目、振戦や微細なミオクローヌス、SpO2非上昇・無呼吸・頻脈持続が手がかりになる。
髄膜炎では、発熱・項部硬直・意識障害の三徴がそろうことは多くない。
髄膜刺激徴候は特異度が高い一方で感度は低く、陰性でも除外できない(新生児ではほぼ出ない)。
項部硬直
仰臥位で頸部を前屈すると抵抗が高まる(健常は顎が胸に着く)。
Kernig徴候
下肢を挙上すると、股関節屈曲に伴い反射的に膝が屈曲する。
Brudzinski徴候
頸部を前屈すると両側の股・膝関節が屈曲する。
紛らわしいが、Lasègue徴候(Kernigと同手技で大腿後面に痛み)は神経根・末梢神経障害、Lhermitte徴候(頸部前屈で背〜下肢へ放電痛)は脊髄後索障害の徴候であり、髄膜刺激徴候とは意味が異なる。
参考:「小児内科」2026年4月号(神経学特集)「小児の神経学的診察」および「問診とレベル診断―小児神経診療における基本的アプローチ」(発達歴)の解説をもとに、医療者向けに再構成した。
