自閉スペクトラム症は「31人に1人」 〜増えているのは病気か、気づきか〜
こんにちは。小児科医のひろです。
1歳半の健診で、「もう少し様子を見ましょう」と言われた。
家に帰ってスマホで調べてみると、「自閉症 増えている」という文字がでてきてきたりします。
似たような体験談を読むほど不安だけが大きくなったりしたこともあると思います。
自閉スペクトラム症(ASD)は、決して珍しいものではありません。
今回は、「ASDは本当に増えているのか」という入口から、どんな特性で、なぜ起こり、治るのか、進路はどうなるのか、今わかっていることを順番に整理してお伝えします。
ぜひ、最後までご覧ください。
1. 数字で見ると、ASDは「31人に1人」
「31人に1人」と聞くと、子どものクラスに1人以上はいる計算になります。
そう考えると、身近な数字に感じますよね。
実際、米国疾病対策センター(CDC)が2025年に発表した報告では、8歳の子どものうち約3.2%、つまり31人に1人がASDと判定されています。
少し前の報告では36人に1人、さらにその前は44人に1人でした。
数年ごとに数字が大きくなってきているのが分かります。
日本のデータもあります。
信州大学などのグループが医学雑誌JAMA Network Openに2021年に発表した全国規模の調査では、5歳までにASDと診断される子どもの割合は約2.75%でした。
こちらも、生まれた年が新しいほど割合が増える傾向が見られています。
男の子のほうが多く、男児は女児のおよそ3〜4倍と報告されています。
数字だけを見ると、不安になるかもしれません。
ですが、まず知っておいてほしいのは、ASDは「数十人に1人」のもう珍しくない特性だということです。
珍しくないからこそ、社会の理解も、支援の仕組みも、少しずつ整ってきています。
2. 「急に増えた」のではない ── 増加の正体
「自分が子どもの頃は、こんなに聞かなかった気がする。なぜ今こんなに増えているの?」
そう感じる親御さんは少なくありません。
ここが大事なところですが、増えている主な理由は、ASDという特性そのものが急に増えたからではない、と考えられています。
理由は大きく二つです。
一つ目は、診断の考え方が広がったことです。
かつては限られた状態だけを「自閉症」と呼んでいましたが、今は知的な遅れを伴わない人まで含めて、幅のある「スペクトラム(連続体)」として捉えるようになりました。
二つ目は、社会の気づきと、見つける仕組みが広がったことです。
先ほど触れたJAMAの2023年の総説でも、増加の背景には診断基準の変更とスクリーニングの普及があると述べられています。
日本では、その「見つける仕組み」の中心が乳幼児健診です。
1歳6か月児健診と3歳児健診で発達の様子を確認し、近年は5歳児健診も少しずつ広がってきました。
日本小児神経学会によれば、ことばの発達がゆっくりなタイプは、こうした健診で気づかれることが多いとされています。
早い時期の気づきのサインとしては、次のようなものがあります。
名前を呼んでも振り向きにくい
目が合いにくい
指さしが少ない
ことばの発達がゆっくり
ごっこ遊び(見立て遊び)が少ない
保育園や幼稚園で、「一人遊びが多い」「集団行動が取りにくい」「強いこだわりがある」といった様子から気づかれることもあります。
ただし、健診で使う質問紙は、あくまで「気になる子を拾い上げる」ためのものです。
それ自体は診断ではありません。
診断は、児童精神科や小児神経科などで、行動の観察や生まれてからの育ちの聞き取りを含めて、時間をかけて確認していきます。
ですから、健診で「様子を見ましょう」と言われても、見放されたわけではありません。
気になることがあれば、いつ・どんな場面で気になったかをメモしておくと、次の相談につなげやすくなります。
3. ASDとはどんな特性か ── 2つの軸と「スペクトラム」
「うちの子はよく笑うし、目も合う。でも、こだわりはとても強い。これはASDなの?」
こうした質問もよく聞きます。
ASDの特性は、大きく二つの軸で説明されます。
一つ目は、人とのやりとり(社会的コミュニケーション)が持続的に苦手なことです。
二つ目は、強いこだわりや興味のかたより、同じ行動の繰り返し、そして感覚の過敏さや鈍感さです。
これらは、発達のかなり早い時期から見られるのが特徴です。
「スペクトラム」という名前のとおり、現れ方は一人ひとり大きく違います。
知的な遅れを伴う子もいれば、伴わない子もいます。
ことばの遅れが目立つ子もいれば、おしゃべりは得意な子もいます。
だからこそ、「この子はこう」と一括りにはできません。
また、ASDには併存しやすい状態があります。
知的障害、注意欠如・多動症(ADHD)、不安、睡眠の問題、てんかんなどです。
先ほどのJAMAの総説でも、ASDのある人は、ない人に比べて不安や抑うつ、睡眠の問題を抱える割合が高いと報告されています。
そして、親御さんに一番お伝えしたいのが原因の話です。
ASDは、生まれ持った脳の発達の特性です。
育て方や愛情のかけ方が原因ではありません。
医学雑誌JAMA Psychiatryに2019年に発表された、5か国・約200万人を対象にした研究では、ASDへの遺伝の関わりはおよそ8割と推定されています。
ただし、これは「一つの遺伝子で決まる」という意味ではなく、多くの要因が重なって生じると考えられています。
なお、「ワクチンが原因」という説は、その後の研究で科学的に否定されています。
4. 「治す」ではなく、「早く気づいて、合わせて伸ばす」
「ASDって、治るんですか?」
診断の話になると、必ずと言っていいほど出てくる質問です。
正直にお伝えすると、ASDは生涯にわたる特性で、風邪のように治したり、特性そのものを消したりする薬はありません。
ですが、ここで落ち込む必要はありません。
早い時期からの療育(発達を後押しする関わり)や、環境を整える工夫によって、人とのやりとりやことば、生活していく力は伸びていきます。
中心になるのは、薬ではなく療育です。
JAMAの総説でも、5歳以下の早い時期からの集中的な関わりが、ことばや遊び、人とのやりとりに役立つと報告されています。
日本では、児童発達支援や放課後等デイサービスといった場が、その受け皿になっています。
薬は、あくまで「併せて起こる困りごと」を和らげるための補助です。
強いかんしゃくや自分・他人を傷つけてしまう行動などに対しては、日本でも小児のASDにリスペリドンやアリピプラゾールといった薬が使われることがあります。
多動や不注意が強い場合には、ADHDの治療薬を使うこともあります。
ただし、これらはASDそのものを治す薬ではなく、食欲や体重、眠気などの変化に注意しながら使う必要があります。
つまり、向き合い方の軸は「治すかどうか」ではありません。
早く気づいて、その子に合った環境を整えていくことです。
5. 診断がついても、進路は決められていない
「診断がつくと、特別支援学級や特別支援学校に行かないといけないの?」
これも、親御さんが強く不安に感じる点の一つです。
結論からお伝えすると、特別支援学級や特別支援学校は必須ではありません。
文部科学省は、子どもの就学先について、最終的には市町村の教育委員会が決めるとしつつ、その際は本人と保護者の意見を可能な限り尊重し、障害の状態や必要な支援、専門的な意見を踏まえて総合的に判断する、と示しています。
学びの場は、一つではなく連続してつながっています。
通常の学級
通級による指導(ふだんは通常の学級で過ごし、一部の時間だけ別に支援を受ける)
特別支援学級
特別支援学校
文部科学省は、障害のある子どもとない子どもが、できるだけ一緒に学べるようにする「インクルーシブ教育」の考え方のもとで、これらの選択肢を整えてきました。
以前は障害の状態によって就学先が振り分けられる仕組みでしたが、近年は本人・保護者の意向を踏まえて柔軟に決めていく方向に変わってきています。
ですから、「ASDの診断がついた=特別支援学級か支援学校」ではありません。
情報を集めて、学校や教育委員会と相談しながら、その子に合った場所を一緒に選んでいくことができます。
6. まとめ
ASDは、「31人に1人」と言われるほど、もう珍しくない特性です。
数字が増えているのは、病気が急増したからというより、診断の考え方と社会の気づきが広がってきたことが大きな理由だと考えられています。
そして、ASDは生まれ持った脳の発達の特性であり、育て方のせいではありません。
大事なのは、「治すこと」ではなく、早く気づいて、その子に合った環境を整えていくことです。
療育や周りの工夫で、お子さんの力は伸びていきます。
進路も、最初から決められているわけではなく、本人と保護者の意向を尊重しながら選ぶことができます。
もし「うちの子はどうかな」と気になることがあれば、一人で抱え込まず、健診の場やかかりつけの先生、地域の発達相談に声をかけてみてください。

