【創作】どんぐりこ
どんぐりこ
ぼっちゃんへ
お元気ですか。あれから大変長い年月が経ちましたね。
あなたが今過ごしている地では、どんな空が広がり、どんな木々が揺れているのでしょうか。
私は今も変わらずここで暮らし、みんなでかくれんぼをしたあの日々を、つい昨日のことのように思いだしています。
あなたが日没までずっと隠れていたスゲの茂みは、全て枯れてしまいました。
日が落ちて冷え込む中、あなたの名前を叫んで周る必要もなくなると思うとほっとします。
でもきっと、さらに見つかりにくい隠れ場所を見つけ出すことでしょうね。
最近、各地を旅しているという旅人の方と出会いました。
この場所で何十年も暮らしている私と違い、大変博識であられます。
冷たい冬の耐え方やこちらを覗いてくる鳥の名前、どんぐりの木が実をつける年数など。
ええ。
ぼっちゃんが無事に帰宅できていれば立派に大成されている頃だろうと思い、筆を執った次第です。
故郷のお山が恋しいと泣いていたあなたが、今はどのような姿になられたのか。
私には想像することしかできません。
ここを出ていった大雨のあの日からずっと、ぼっちゃんを連れてきた泥好きの彼女は、毎日空気に顔を出していました。
あの子の住むお山はこんなところから見えるはずもないと。
何度も伝えましたが、それでも彼女は最後まで気にかけていたようですよ。
あなたが泣く度困った表情をしていた彼女は子宝に恵まれ、
先日、多くの孫に囲まれながら幸せな泡になりました。
私は今、万年生きるという旅人の方とともに過ごしています。
寿命の長い者同士で過ごす余生はなかなかに楽しいものですね。
近頃では、歌が得意な彼に触発され、2人で歌を作ってみることにしました。
ぼっちゃんと出会ったあの時のことを歌にしようと思っています。
狭くて小さなこのお池に笑顔を連れてきた小さなあなたのこと忘れないために。
見知らぬ地で芽を出し、新たな森を育むあなたへ、この歌が届きますように。
お池を見守る私より
