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司馬遼太郎がドラクエを小説化したら

スライムがあらわれた。
山間の小さな村をでてすぐのことである。

スライムというのは勇者が出発する地域に多く生息し、旅立ちに必要な経験とわずかなお金をおとしてくれる怪物である。毒こそ持たぬが、軽い傷を負わされることもある。初心者の勇者は油断すべきではない。

余談ながら、スライムというのは古来より壁や天井に張り付いていて、人間や動物が近くを通った時にいきなり飛びかかり強烈な酸性の体液で獲物を溶かす生き物であるという。
なお、風聞によれば、ある世界ではスライムに転じた人間が魔王となり国を興したという。真偽のほどは定かではない。

スライムは「きゅきゅきゅ」と勇者に言い終わるなり抜き打ちでのしかかって来た。
勇者はとっさに鞘でその体を受けとめる。一撃をしのいだ勇者はゆっくりと鞘を払い刀身を立てる。地肌は恐ろしいばかりに青く、スライムの色を受けて光っている。
勇者は心のうちで、「こいつは斬れる」と見定めた。実際、この経験とこの刀ならば、一閃で倒せるといってよい。

さて、このスライム。
一撃をかわされ完全に身体がつんのめった形になった。勇者が軽く一振りした刀であっさり両断されてしまい、絶命。

「ゼリーが、ゼリーが」

とふたことまで叫んだのが記録として残されている。勇者は少しはにかみながらつぶやいた。

「まだ子供だったのだ」

要するに、この戦いには勝利したということである。

さて、そろそろラダトームを出てロトの洞窟に向かわなくてはならない。
城を出て5歩歩いては敵と戦い、疲れては宿屋に戻る生活もそろそろ終わるべき頃合いであった。今後はスライムよりも手強い敵もでてくるであろう。

ドラキーというモンスターがいるという。
アレフガルド風土記にも「うかつに遠出すると殺されかかる例」として登場するほど序盤における強敵である。針葉樹の森に出るドラキーと広葉樹の森に現れるものでは尻尾の形状が微妙に異なっているという。
念のために申し添えておけば、このあたりの違いは記憶にとどめておくべきかもしれぬ。

ともあれ、勇者は経験値2を得た。そして絶命したスライムの体液の中から金貨を1枚取り出すと懐にしまいこんだ。土にゼラチンのかおりがむせるように漂っていたという。


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