武蔵國山行妖異 ~濡れた岩~
ひどい雨だった。登山の最中、それはあっという間に俺たちの行く手を阻んだ。濡れた岩場で足を滑らせた明希は、もう歩けない。途方に暮れた俺は、雨風をしのげる小さな洞窟を見つけた。
「ここで一晩だけ…我慢してくれ」
凍える明希を洞窟の奥へと運び、火を起こす。パチパチと燃える炎が、湿った空気をほんの少しだけ温めた。明希は俺の肩にもたれかかり、すぐに寝息を立て始めた。
その安らかな寝顔に安堵したのも束の間、洞窟の奥から微かに聞こえる水滴の音が、俺の心をざわつかせる。
ポチャ…ポチャ…
音に誘われ、奥へと足を踏み入れた。そこには、光を怪しく反射する岩肌があった。他の岩とは違い、まるで人の肌のように滑らかで湿っている。
俺は気づくと、その岩肌に手を伸ばしていた。ヌルリ…と、指先が滑る。その感触は、濡れた明希の秘部を愛撫した時の、あの粘っこく、熱を持った感触に酷似していた。
背筋に悪寒が走ると同時に、抗いがたい欲望が股間に疼きを走らせた。
俺は恐る恐る岩肌を撫でた。撫でるたびに、水が染み出ように溢れ、濡れていく。まるで俺の愛撫に応えるように。
その滑らかな曲線は女性の腰のくびれに似ていた。その湿り気や苔の芳醇な香りは、まるで濡れた肌や秘部のようだった。
俺は、明希とは違うどこか原始的で野性的な快感に溺れそうになったが、やはり明希が気になり直ぐに彼女の元に戻った。
そのまま、俺は明希と眠った。しかし俺の意識は、洞窟の奥にある、あの濡れた岩肌に縛られたままだった。夢の中で、俺は岩肌と愛し合い一つになっていた。俺の肌と岩が絡み合い、俺の肉体が岩に吸い込まれていく。その感覚は、苦痛よりも快楽が勝っていた。岩は俺の愛撫に歓びの声を上げ、俺を魅了した。
夜が明けた。目が覚めると、隣に明希がいない。
「明希…?」
震える声で彼女の名を呼ぶ。声は洞窟の湿った空気に吸い込まれ、こだまするだけだった。
まさか…と、俺は洞窟の奥へと向かう。そこにはあの岩があった。しかし、その岩肌は昨夜と少し変わり、どこか明希の雰囲気を纏っている。滑らかな曲線はより官能的に明希の身体つきを思わせ、岩肌全体から立ち上る湯気のような湿り気が、まるで明希の艶めかしい吐息のようだった。俺の視線は、岩肌の最も濡れた部分に釘付けになった。それは、まるで明希の秘部そもののようだった。
俺は街へ戻り、明希がいなくなったことを友人たちに告げた。
「岩倉明希?誰だよ、それ」 「お前、そんな彼女いたっけ?」
誰も明希を知らなかった。まるで、最初から存在しなかったかのように。俺は次第に、現実と記憶の境界線が曖昧になっていくのを感じた。しかし、俺の心には、あの岩肌の感触が、そして、岩肌に宿った明希の面影が深く焼き付いていた。明希を失った絶望と、岩肌への執着。その二つが、俺の心を狂わせていく。
そして、俺は再び、あの洞窟へと向かった。
洞窟の奥に、岩はあの時と変わらずに居た。変わらずに濡れていた。俺は岩肌に触れた。ヌルリと、懐かしい感触が指先を這う。
明希…?
俺は岩肌に全身を押し付ける。岩肌は、俺の求めに応えるように、その湿り気を増していく。
ズルズル…
俺は、岩肌に吸い付くように密着し、貪るように愛撫する。俺の身体はゆっくりと岩に飲み込まれていった。快楽を感じたあの感触が、今度は俺を捕らえ、決して逃がさない。
俺は、岩肌の中に明希の秘部を見つけ、迷わず一つになった。明希は喜びの声をあげ、濡れ続けた。
岩は、俺の肉体をゆっくりと、しかし確実に呑み込んでいく。
(明希、もう離れないよ)
洞窟の奥の岩は、どこか官能的な雰囲気を纏い、濡れ続けている。
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