なみるわたしもなむるとみたし
昨夜。
飲酒運転の車に家族を奪われた私は━━。
キッチンで途方に暮れていたところ。
ちっちゃいおじいさんみたいな
赤子があらわれ。
ひょんなことから。
会話をしていた━━。
『大切な家族を殺されたんですよ!私は!!』
「それは、おもいの」
『重いですむ話じゃないでしょ!!』
「うむ。すまんのぅ」
『全部・・・。ぜんぶ壊されたの!💢』
「そう感じるのは自然じゃの」
『許せるわけないでしょ!』
「ゆるさんでよい」
『この怒り・・どうしたらいいのよ、もうっ・・』
「消そうとせんでよい。いま、どこにある?」
( )
『・・胸が締めつけられるような』
「そのまま見てみなされ」
( )
『・・苦しい・・でも、少しずつ動いてる・・』
「同じ、ではないの」
『・・波みたいに・・変わってる?』
「うむ」
『・・でも・・それとは別に。静かなとこもある』
「ほう」
『・・何もしてないのに、ある』
「それはうごくかの」
『・・ゃ・・動かない』
「消えるかね」
( )
『・・消えない』
「そうか」
( )
「いま見えておるものを並べてみなされ」
『・・怒り、悲しみ、考え、この体』
「それらはどうじゃ」
『・・全部、変わってる・・』
「その一つ一つに、確かな形はあるかの」
『・・つかめない』
「名をつけておるだけじゃな」
『・・・・・』
「″私″。″体″。″出来事″。とな」
『・・・あぁ・・・』
( )
「その″出来事″は、いまどこにある?」
『・・思い出として。・・いま、ここに』
「昨日そのものは、いまどこにある?」
『・・・ない』
「うむ。昨日の体験をしている者は。いま、どこにもいない」
( )
『・・・』
「さらに言えば――」
『・・・』
「その″家族″というカタチも」
『・・・』
「″相手″というカタチも」
『・・・』
「数えきれぬ縁が重なり、そう見えるだけかものう」
『・・・』
「固定されたものではないね」
『・・・』
( )
『・・じゃあ。・・・私が見てるこれって』
「なんじゃ」
『・・お、思いこみ、なの・・』
「そう言いきる必要もないぞよ」
『・・・』
「ただ、そう″見ておる″ということには気づけるかの」
『・・・ぅん・・』
「それでよい」
( )
「ひとつの見方としてじゃが」
『・・・』
「この出来事も」
『・・・』
「きみがここに触れるための、現れと見ることもできる」
『・・・』
「そう″見ることもできる″、というだけじゃ」
『・・・』
「無理にそう思う必要はない。いまは感情をかんじることが優先じゃ」
『・・・』
「ただ。そうみえたとき━━」
『・・・』
「敵と味方の線は。少しゆるむかもしれんの」
『・・・』
( )
『・・でも。許せない気持ちは・・ある・・』
「うむ。それでよい。とうぜんじゃよ」
『・・・』
「わからぬままで、触れたここを。みてなされ」
『・・・』
( )
(数か月後)
その日は、なんでもない日だった。
キッチンで包丁を持つ手が、ふと止まる。
・・あれ?
いま、だれがこれをしてる?
コップに水を注ぐときも同じだった。
″わたしがやっている″はずなのに、
どこかでそれを見ている。
そして――
あのひとの気配が重なる。
いる、というより。
いない、とも言えない。
境目が、ゆるむ。
その夜。
目を閉じると、思い出が浮かぶ。
笑っている顔。
どうでもいい会話。
でも――
それを見ている″なにか″は、泣いていない。
(・・あれ?)
そのとき。
ふと━━━。
声のようなものが重なった。
「だいじょうぶだよ」
━━え?
(・・いまの・・)
(あのひとの声・・!)
でもまわりには誰もいない。
その声は外からではなく、
もっと近い。
″いまここ″に重なっている。
怖さはない。
というより、
やわらかく、やさしい ━━
次の瞬間、
涙が出た。
でもそれは悲しみではなく━━
ただ、ここにいるという感じ。
あのひとも、自分も。
分かれていないような。
そんな感覚。
(・・これ、なんだろう?)
ふと、声が重なる。
「よくあるあそびじゃよ」
(おじいさん赤子だ)
『・・またあなた?』
「あそびはおわらん」
『え?』
「なみがなむったなら」
『?』
「なむからなみをみるだけよ」
『・・・どういう』
「いのちの所在じゃ。じつはなむのほうが先。そう見えるかものう」
『・・・』
「ここからいつも。かれはみまもっておるぞよ」
『!!』
「にこにことのぅ」
『 』
「 」
『💖』
(次の日)
なにも変わっていない日常が、
少しだけやわらかく見える。
そして━━━
憎かったはずの犯人が、
なぜか少しだけ遠くない。
理由はない。
ただ、なぜか。
そうみえる。
(・・なにこれ)
怖さはもうなかった。
憎悪もなんだか ━━━
ただ、線がゆるんだ感じだけ残る。
(なんだろ・・)
(なぜか・・)
(あい、としか呼べない気がする・・)
「掴んでいるものがおもすぎた」
(おじいさん赤子!)
『え・・』
「あのままでは。どこかでもっと苦しんでいた」
『どういうこと?』
「観念・・じゃの」
『・・・』
「大切なひとと。犯人役のかれの芝居のおかげかのう」
『・・!』
「なむったの。もう。みえかたかわるの」
『ぁ。ありがとうございます・・』
(私はしぜんに、そういっていた)
「礼なら。まだ返っておらぬ」
『・・・』
( ! )
「ヌケたの」
『・・・ほんとのわたしに?』
「たしかなものは。目にはみえぬ」
『・・・』
「それでも。いまはただ」
(……)
『あのひとに・・』
「またはげる…ぁ、またあえる」
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