松田陣平という「終わらせたくない捜査」──コナン事件録(前編)
推し活とは「終わらせたくない捜査」なんじゃないか、と思う。
あるときは、被疑者が仕掛けた爆弾に情緒が迷宮入りしそうになる。
またあるときは、集めた証拠品のなかに決定的なブツがあって発狂する。
一体どんな難事件を追って、初めて「推しが好きすぎてしんどい」なんて検索しているのかというと、要因は「名探偵コナン」にある。
以降、推し活を「捜査」、推しを「被疑者(犯人)」と呼びます。
とんでもないもの(あなたや私の心)を盗まれていますから、被疑者です。
空前絶後の「コナン返り」
「名探偵コナン」は、高校生探偵・工藤新一が「黒ずくめの組織」の手により身体を小さくされ、江戸川コナンとして事件を解いていくミステリー漫画。
幼なじみの毛利蘭との恋の行方、幾重にも交わるキャラたちの関係性、さらにはアクションと、連載30周年を迎えても多くのファンの心を掴んで揺さぶり続けている。
以前、こんな記事を書いた。
過去記事では主に江戸川コナンこと工藤新一、および幼なじみの毛利蘭との関係についてふれている。
ざっと振り返ると、数十年前「何このアニメ、めちゃくちゃ面白い」と衝撃を受けたのが、名探偵コナンの第一話だった。
すぐに原作コミックスを親に買ってもらい、毎週アニメを観て、コミックスを食い入るように読んでいた。
小学校のマンガ・イラストクラブでは原作の見開きページを模写し、原作絵のポスターくらい大きなカレンダーを部屋に飾って、繰り返し眺めていたのを覚えている。
初めて漫画の展示に行ったのもコナンだった。
なけなしのお小遣いで買ったポストカードは、今でも大切に保管してある。

大人になってからも、しばらく同居していた妹がコミックスを買い続けていて、安室透が出てくる前まで本筋の話は追っていた。
実のところ、ここ10年くらいは別の事件(コンテンツ)を追っていたため、昔よりコナンから離れていた。
だが、ある被疑者(推し)がその事件と関係があると判明したのだ。
被疑者については後述するが、そのせいで今年は空前絶後の「コナン返り」が私のなかで起こっている。
映画館でコナンを観た回数・ゼロ
4/10から、劇場版名探偵コナン「ハイウェイの堕天使」が公開されたのを皮切りに、私のコナン返りは始まった。
実は映画館でコナンを観たことは一度もない。
昔から、公開の翌年には「金曜ロードショー」で放送されるのを知っているためだ。
では劇場版を全作観ているのかというと、正直興味のある作品しか観てこなかった。
金曜ロードショーで初めて「天国へのカウントダウン」が放送された日に「ロード・オブ・ザ・リング」を映画館で観てきたため、全く頭に入らなかったこともある。
しかし、今年は被疑者がスクリーンに現れる貴重な年である。
上映期間中に足を運ばず、翌年の金曜ロードショーを待つのは、本の新刊を買わずに図書館で予約して延々と待つのと同じだ。
今年こそ、絶対逃したくない。
まずは例によって、昨年の作品の捜査に乗り出した。
事件① 情緒が乱れる一途な関係
先日、年季の入った語りを聞いた夫から「コナンの何がそんなに面白かったの?」と問われた。
これまでの記憶を振り返り、辿り着いた真実はこうだった。
「くっつきそうでくっつかない」。
私にとっての「名探偵コナン」は、それに尽きる。
何せ、途中から事件のセリフを読み飛ばして、合間や事件前後のラブコメ要素ばかり読んできたのだから。
あんなにやきもきしていた新一と蘭が恋人同士になり、服部平次と遠山和葉もくっついたり(アニメでは2026年4月現在未放送)、コナンには数多くのカップルが存在する。
そのなかで元来の「くっつきそうでくっつかない」ふたりといえば、2025年公開の「隻眼の残像」に登場した大和敢助と上原由衣ではないだろうか。
(※以下、「隻眼の残像」の一部ネタバレを含みます)
まずはふたりの関係について話したい。
両方とも、所属は長野県警。
上司と部下ながら幼なじみにあたり、由衣刑事に至っては長年想いを寄せている。
しかし、大和警部は事件の捜査中に雪崩に巻き込まれ、意識不明の重体となる。
由衣刑事は大和警部が死亡したと思い、彼と捜査中だった別の事件の真相を暴くため、警察を辞めてある一家に嫁ぐ。
嫁ぎ先で夫が殺害され、捜査にやって来たのは大和警部だったが、彼は聞き込み中に由衣さんを「奥さん」と呼び、被害者の妻扱いするのである。
もう昔のように
名前で呼んでくれないのね……
いくら事件を追うため嫁いだとはいえ、長年惚れている男に「奥さん」呼ばわりされるのは、ふられるより身に堪えたのではないだろうか。
由衣さんは昔の癖が抜けず「敢ちゃん」と呼んでしまうのに……。
しかもその事件はふたりが捜査していた事件とも関係しており、コナンや服部の活躍もあって解決する。
このエピソードは「風林火山」という、ふたりが初登場した回だった。
以降は由衣刑事も復職し、「風林火山」を補完するのが「隻眼の残像」でもある。
そのため、劇中でも由衣刑事がやむなく嫁いだときの話が出てくる。
他に手立てがなくて、そんな時私である敢ちゃんならどうしてた?
答えて!
追っていた事件の被害者は、ふたりが警察官を志すきっかけとなった恩人・甲斐さんだった。
無念を晴らすべく、好きでもない男と結婚した由衣刑事の覚悟が、ふたりを見守る側にも重くのしかかる。
大和警部の答えは銃撃によってうやむやになってしまう。
ああ、もどかしい……35歳と29歳がこんなやりとりをしているのがたまらなく美味しいじれったい。
クライマックスで、犯人を確保するため単身追っていった由衣刑事がピンチに陥る。
暴走した移動アンテナ台で、失った恋人の復讐に狂う犯人に「お前ならどうしたっていうんだ!! 答えろ!!!」と八つ当たりされ、涙を滲ませる由衣刑事。
私がコナンだったら即ボールを膨らませて顔面にめり込ませたい。
だが、敢ちゃんだって何も思っていないはずがない。
追跡していた車のサンルーフを開け、諸手を広げて叫ぶ。
由衣っ! 来い!!
ふたりには結構な距離があったが、由衣刑事は迷わず飛び込む。
「天空の城ラピュタ」で、燃えさかる要塞からシータを救出するパズーがだぶったのは私だけではないはずだ。
私は「隻眼〜」のあとに前述の「風林火山」を観て、泣いてしまった。
「敢ちゃん」が「由衣」と呼んで、受け止めてくれる。これがふたりの全てではないだろうか。
ただ、大和警部は捜査や推理は優れているのだが、恋愛方面は作中随一の鈍感男。「隻眼〜」でもオチがひどい。
言葉で言ってほしいのが乙女心なんだもん!
それでも、警察関係者もカップルが乱立しているコナンだからこそ、「くっつきそうでくっつかない」貴重なふたりなのだ。
事件② 過去と未来の時間差爆弾
話は変わって、この作品には、登場時から故人なのにも関わらず高い人気を誇るキャラクターがいる。
元爆弾処理班で、作中の3年前に殉職した松田陣平である。
この松田陣平こと「松田君」が、私の捜査における被疑者なのだ。
彼が初登場したのは、もう20年以上前のことになる。
作中でも屈指の名作「揺れる警視庁 1200万人の人質」で、事件にまつわる重要なキャラとして回想に登場し、彼の面倒をみていた佐藤刑事の深い心残りとなっていた。
名前やサングラス姿から察しの通り、名優・松田優作をモデルにしたハードボイルドな刑事で、公式でもイケメンとして描くのが絶対条件のようだ。
「揺れる警視庁〜」自体がかなりシリアスな作品で、アニメでは2時間SPと映画並みの尺。
かつ恋愛描写も秀逸で、松田君を忘れられない佐藤刑事、松田君の面影と似た優しさを持つ高木刑事のやりとりは、いい大人になっても胸に迫るものがある。
私はSNSでほかの人の発言をほとんど見ないのだが、佐藤刑事が「松田君」、後輩の高木刑事が「松田さん」と呼ぶように、ファンによっても呼称が分かれるようだ。
どんな立場から見ているか分かって興味深い。
何せ出番が限られるので、松田君を知った頃はコナンの男性キャラのなかで好きなほう、程度だった。
それが大きく一転したのは、何年前だっただろうか。
前述の別の事件(コンテンツ)を捜査している頃だった。
何なのかというと、10年前から「Fate」シリーズにハマったのが大きなきっかけだった。
Fateシリーズはノベル式のゲームから始まり、アニメやソーシャルゲームと根強く支持されている。
キャラのなかに槍兵の「ランサー」というキャラクターがおり、当時育児ノイローゼがひどかった私は彼の生き方に強く憧れ、気づいたときには最推しになっていたのだ。
彼についても、過去記事で詳しく語っている。
捜査において被疑者のことを調べるのは当然だが、私はあることに気がついて十数年ぶりに「揺れる警視庁〜」を観た。
最推しと同じなのだ。声が。
松田君の担当声優さんは神奈延年さん。
90年代から活躍しており、ほかには「ベルセルク」のガッツ(旧アニメ版)、「忍たま乱太郎」の七松小平太、懐かしいところでは「NARUTO」のカブト役を演じている。
荒っぽくてやんちゃな演技から、静かに怒気をみなぎらせる低音、相手によっては柔らかな声音と、キャラと相まって一度捕らわれると逃れられない声の持ち主である。
最推しの声と気に入っていたキャラの声が同じだったらどうなるか。
解除した爆弾が再び動き出すのだ。
さらに、コナンの作品自体の人気を底上げした立役者・安室透の元同期のひとりに松田君がいたという設定が付与され、彼自体の人気も再び「起動」した。
何だかコナンの原作くらい文字数が多くなっているので、一息入れよう。

ここでひとつ疑問なのだが、捜査において、被疑者の出没が限られるのと、頻繁に目撃できるのと、どちらがありがたいのだろう。
要は「推しの供給が多いか、少ないか」である。
残念ながら、私の被疑者は後者だ。
しかし、ひとたび目撃情報があれば怪盗キッドを追う中森警部くらい「お祭り騒ぎ」になる。
「隻眼の残像」の余韻もそこそこに、今年こそは松田君をスクリーンで観たいと切望し、関連エピソードをほぼ毎日アマプラで鑑賞した。
スピンオフの「警察学校編」、松田君の親友・萩原研二の姉が出る「萩原千速セレクション」、数年前金曜ロードショーで一部カットされた「ハロウィンの花嫁」。
どれも思い出を噛みしめるように堪能した。
やっと佐藤刑事が風見さんをビンタするシーンが観られた。
ここまで来ると、気になるのはやはり「ハイウェイの堕天使」のメインキャラである萩原千速である。
コナンには後づけの設定が山ほどあるが、松田君の初恋の人が千速だったというのは聞き捨てならない。
公式がまとめている松田君のエピソードを捜査すると、「指輪の思い出」という話がある。
まだ最新刊でも前半しか掲載されていない。
さらに調べを進めると、高校時代の松田君が花火大会の際、千速に告白したと判明し、証拠画像を確認したところ、私の頭の中で観覧車が爆発した。
「何をのた回っているんだ」と一喝されそうだが、あらゆる捜査をしてきてこんな衝撃に見舞われたのは人生で初めてだった。
別に「夢女」ではない。千速に嫉妬しているのでもない。
今後アニメで、あの声であんなセリフを聞く未来が待っていると思うと、特大の爆弾が仕掛けられたようなものだ。
ネットではよく「脳を焼かれた」と聞く。
特定のものに対し衝撃を受けたり、魅了されたりした際に用いられるのだが、それ以上のことが起こるとどうなるか。
何も手につかなくなるのだ。
幸い日常に支障はなかったが、その晩眠りにつくまで脳内再生していた。
アフレコ現場でディレクションさせてくれないだろうか。
作品関係なく、誰かに想いを寄せる全てのキャラにいえることだが、好きな相手を真っすぐ想う人の姿は、この世で最も美しい。
その輝きを、死してもなお過去と未来で見せてくれるから、私は松田君を追わずにいられないのかもしれない。
事件③ 45分のコナンカフェ
事件(コンテンツ)の捜査は続く。
某日、私は夫の運転である現場に潜入した。
コラボカフェである。
しかし本格的なコラボカフェに行くのが初めてで、下調べを怠っており、予約制であるのに関わらず向かってしまった。
幸い空席があり、予約なしでも入れたが、ほかの捜査官(お客さん)を見るとほとんどが2人組かカップル、家族連れなど、複数人での捜査のようだった。
単身飛び込むあたり、私も松田君と少しだけ似ているのかもしれない。
レストランの一角にあるコラボカフェは、「ハイウェイの堕天使」の舞台である横浜をイメージしたのか、港町を思わせるステンドグラスやレトロな装いのキャラたちが一面に配置されていた。
青山先生が描き下ろしたと思われる絵を背景に、窓の向こうでは桜が咲いており、通された席の真正面は松田君と萩原がセットで拝めた。
待つ間は「ナゾトキブック」という冊子が配られ、ほとんどのお客さんはあれこれ話しながらすらすら解いていた。
私は所用で時間が限られていたため、ヒントのQRコードがあるのにも気づかず、「よく分からん……」と挿絵のミニキャラを眺めていた。
ラブコメ要素ばかり読んできた反動か。
アニメの歴代主題歌やキャラの店内放送を聴いたり、車で待機している夫とやりとりをすること数十分、お目当ての品が来た。

ランダムコースターは安室透だった
コラボカフェは前期と後期で一部メニューが変わるらしく、始まったばかりだったため、松田君のメニューはこのドリンクのみだった。
すっきりして美味しかったのだが、氷の上にやたら粒のそろったベリーが3つ添えられており、手榴弾を想起させる。
ひとつずつ処理していくと、ベリーの果汁が氷に残り、血糊のようだった。
何してくれとんねん。
それはさておき、コラボカフェは事前に整理券が配られ、時間内に番号を呼ばれるとグッズを購入することができる。
整備が徹底されており感心した。
ドリンクを飲み終えた頃、手元の番号が呼ばれた。
被疑者確保の時間である。
いかんせんランダムグッズが多いため、私が確保したのは次の品だった。

証拠品その1:ポストカード(ランダム7種)+グッズ購入のおまけ
ポストカードくらいは、と思い唯一ランダムグッズを確保。
コナンが出てひと安心。
光にかざすとメタリックな加工がされており、意外と凝っている。
購入時のおまけのカードは神奈川県警の横溝重悟(画像中央)。
帰宅後夫に見せたら「誰?」と言われてしまった。
千速の「愛してるぞ重悟!」は映画でも聴けるのだろうか。

証拠品その2:クッキー缶
缶ものは可愛いので確保。

内容量はコナン柄のクッキーが5枚。
1,500円するのに5枚しか入っていない。
証拠品とは思い出である。

確保:松田陣平 アクリルスタンド
アクスタというものを初めて買った。
やっぱり顔がいい。声はもっといい。
捕捉されているのは私の心なんだろう。
時間が迫っていたため、いくつか証拠写真(展示物)を撮り終えて車に戻る。
通常は75分滞在できるので、これから現場へ向かう方はゆっくり捜査してほしい。
後にする際に「焦りは最大のトラップだぜ」的なミスをしてしまったが、店員さんの厚意で事なきを得た。
ちなみにこんなものも証拠品として押さえた。


ブツを押さえて帰路につく際、証拠写真のひとつをじっくり見て、私は車中で叫んでしまった。
青山先生のラフスケッチのなかに、前述の松田君が千速に告白したシーンが描かれていたのだ。
とんでもねえ爆弾仕掛けやがって……。
錯乱する私の隣で、夫は「楽しそうで何より」とおかしそうに笑い声を上げていた。
「捜査」を終えたくないから、事件は終わらない
つくづく、名探偵コナンとは厄介な難事件(コンテンツ)のようだ。
同時に、捜査、もとい推し活をこんなに楽しんでいるのは人生で初めてである。
何らかの捜査をしている人は、ずっと追い続けたい被疑者(推し)がいて、証拠品を集めたり、現場に入ったり、時たま仕掛けられた爆弾で情緒を木っ端微塵にされる。
だから事件は終わらないのだろう。
後編では、映画館に突入する。
被疑者の新たな証言と姿を目の当たりにしたとき、ひとつの捜査が一段落するだろう。
それでも私は、被疑者を追い続ける。
どんなに新一が元の姿に戻れなくても、事件(コナン)が終わってほしいと思ったことは、一度もない。

◎後編はこちら↓
※ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございます。
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