親から子どもへの、言葉の魔法
親から子どもへかける言葉は、魔法にも呪いにもなる。
普段は魔法という言葉を軽々しく使わないが、それほどまでに、親から子に対する声かけは影響力が大きいのだ。
◇
私の親は、基本的に優しい言葉をかけてくれた。
学校に行くことがままならなかった頃、「これから先いいことなんてあるんだろうか」と、家へ帰る車の中で母親に吐露したことがあった。
正確には思い出せないが、母は「きっといいことあるよ」と言ってくれたはずだ。
だから高校も無事卒業できたし、専門学校では皆勤賞を取って、社会人として世に出て現在は家族にも恵まれた。
歳を取ってからも、母は事あるごとに「なるようになる」と口にする。
現在肝臓を患っていても、楽観的な口調は変わらないことに安堵する。
一方で、我が子を産む前も、産んだ後でも、自分の子に冷たい言葉を浴びせる親を見かけるたびに胸が痛む。
今年の秋口だろうか。
100均でシールを欲しがる女の子に対し、母親は「頭の悪い言い方しないでくれる?」と面倒くさそうに返答していた。
こういう親は、これからも呪いをかけていると気づかずに似たような言葉を吐くのだろうか。
全くの他人だから関わらなかったが、胸倉を掴んで揺さぶりたい衝動に駆られた。
だがきっと、自分の親にも温度のない言葉をぶつけられていたのだろう。
生い立ちを想像すると、負の連鎖にやるせない気持ちになる。
親に温かな魔法をかけられて育った子と、呪いをかけられて育った子。
ほとんどの人は、その両方が混ざり合っているのだろう。
例えば私のように、周囲から罵詈雑言を浴びせられた時期があったとしても、親が味方でいてくれたら心正しく生きていける。
一方で、最も身近な親の呪縛によって傷つき、可能性を奪われることもあるだろう。
では、親となった私自身はどうしているのか。
正直に打ち明けると、教育うんぬん以前に心の余裕のなさから、息子に激しく怒りをぶつけたり、心ない言葉を吐いたことは一度や二度ではない。
ただ、その度に息子への仕打ちに耐えられず、しこりが残らないよう息子を抱きしめて謝っていた。
まだ乳児の頃だったため、幸い本人に深い傷は残っていないようだ。
完全に育児ノイローゼだった私は、息子が2歳前の頃からある施設に母子通園していた。
そこで教わったのは、「肯定形で声かけすること」だった。
子どもに「〜したら〇〇できないよ!」と言うのではなく、「〜したら〇〇できるよ」と伝える。
脳のしくみから見ても、否定形より肯定形のほうがスッと理解できるらしい。
そのため子どもをなだめる際も有効だし、何より優しい言い方になる。
「親の脳トレ」だと、教えてくれた年配の先生は笑っていた。
以来、なるべく息子に伝え方を工夫するようになった。
「頑張っているね」
「〇〇は優しいね」
「大好きだよ」
「産まれてきてくれてありがとう」
息子の存在そのものを肯定し、結果よりも過程を認めるよう心がけている。
疲れた様子を見せたら「無理しなくていいよ」と、頑張ることが全てではないことも伝えている。
夫は時々荒っぽくなることもあるが、息子を否定することはない。
本人の意思を尊重する言葉をかけているし、息子の長所を話し合った際「〇〇にも直接言ってあげて」と頼んだら熱い口調で伝えていた。
そのお陰か、本人の気質なのかは定かではないが、息子は私が至らないときも「べつにいいんだよ」「そんなに気にしなくていいよ」などと逆に労ってくれる。
そういった様子を母に伝えると、こんなことを言われた。
「〇〇ちゃん(私の本名)がちゃんと育てているから、優しい子に育っているんだよ」
実際に話したときは礼を述べる程度だったが、思い出して目元を拭った。
◇
現実は、親から子への優しさの連鎖ばかりではない。
負の連鎖から歪んだであろう子どもも、残念ながら見受けられる。
だからこそ、もっと子どもへ優しい言葉を贈りたい。
自分の子だけでなく、機会があればほかの誰かの子どもでも。
ぬくもりの宿った言葉はきっと、その子が大人になっても心に灯る魔法になる。
(1,659字)
◇
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