欲しかったラブレター(企画参加)
ふとしたきっかけで、私は「ヤモメさん」の部屋に遊びに行くようになった。
私より5歳上のヤモメさんは、37歳だったが、とてもその年齢には見えなかった。
サラサラの黒髪、シュッとした細面の輪郭。
涼しげな目元、微笑んでいるように見える口元。
控えめに言って、イケメン。
私は7年間、ヤモメさんに片思いをしていた。
だが、ヤモメさんには奥さんがいた。
離婚したと聞いて、私はヤモメさんを落としにかかった。
どうにか食事に誘い、週に数回はヤモメさんの部屋で過ごすまでになった。
何度も夜を過ごし、朝を迎えた。
当然、体の関係もある。
だが、ヤモメさんの「気持ち」がわからない。
元嫁とひどい別れ方をしたヤモメさんは、「女性不信」であるらしかった。
ヤモメさんの部屋に通うようになって、ひと月が過ぎたころ。
「もうさ、付き合おうよ」
と私は言ったが…
「いや、今、オンナとか考えられへんねん」
と、あっさり断られた。
その割には、私を部屋に迎え…
酒を飲み、体を重ねた。
だが、ヤモメさんの気持ちが見えない。
かつては見ているだけで幸せだった男性。
気持ちがわからなくても、今こうして一緒に過ごせている。
それだけでも進歩だと、自分に言い聞かせる。
そんな日々を送っていた。
ちょうどその頃、ヤモメさんはギターを始めた。
コード進行の簡単な曲の歌詞を、A4用紙に書き写し、コードを歌詞の上に書き込んでいた。
ヤモメさんが書く文字は、几帳面な性格がよく表れているな、と思った。
かといって、角ばっていない。
どこか丸みのある、クセ字といえばクセ字なのだが、柔らかく読みやすい。
ヤモメさんと過ごすようになった年の、夏。
ヤモメさんは「歌うたいのバラッド」という曲を、よく弾きながら歌っていた。
ずっと言えなかった 言葉がある
短いから 聞いておくれ 「愛してる」
その歌の歌詞を。
A4用紙ではなく、ラブレターとして、欲しかった。
几帳面な、どこか優しげな。
ヤモメさんそのもののような、字で。
長いお付き合いの方は、ご存知だと思いますが…
「ヤモメさん」とは、今の私の夫です。
トップ画像の文字は、ヤモメさんの自筆です。
ちょいと本気を出して、25㎜(換算50㎜)F1.7で撮ってみました。
(どうでもいい)
私の母は書道有段者で、文字にはうるさい人でした。
自然、私も「文字」に関するこだわりは、それなりにあります。
(今は全面的にPCなので私の字は雑ですが)
ヤモメさんの文字は、本当に丁寧だと思います。
真っ白のA4用紙に、罫線なしでいきなり水平に文字を書くことができる…
ある意味才能だと思っています。
ヤモメさんとは職場が同じですが、何気なく書かれたメモも、通達も、本当に見やすいのです。
あの文字でラブレターをもらったなら…
いえ、望んでも詮無きことですが(笑)
今から15年前の、夏の短夜。
ヤモメさんが弾き語りで歌う「歌うたいのバラッド」が…
私に向けられていたらいいな、と思った。
そんな甘酸っぱい(?)頃もあったなぁ、というお話しでした。
未だもって、ヤモメさんから「愛してる」と言われたことはありません。
山根あきらさんの企画に参加させていただきます。
こちらの企画は、ももまろさんの記事で知りました。
山根あきらさん、800文字をちょいと超えてしまいました。
すみません。
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