春の終わり、夏の始まり 31
義之がイタリアへ発ってから、5日が過ぎた。
唯史は相変わらず、コンビニ弁当を味気なく食べ終えてから、缶ビールを手にソファに座る。
少し前から、義之のことが気になって仕方がないのだ。
「俺は、義之のことをどう思ってるんやろう?」
単なる友人ではないな、という自覚はある。
義之と一緒に笑い合った時間、これまで過ごした時間が頭の中をめぐり、そのたびに唯史の心は温かいもので満たされる。
しかし、その感情が友情を超えるものであるのか、自分でもはっきりと理解できないでいる。
仮に、自分が義之に対して恋愛感情を持っていたとしたら、と唯史は考えた。
ため息をつき、スマートフォンに保存してあった画像を開く。
そこには、海をバックに笑顔を見せる義之の姿があった。
「まぁ、男前よな。昔からわかってたけど」
背も高いし、線の細い自分とは違って男らしいし、と唯史はひとりごちる。
さらに、義之のおかげで自分は立ち直ることができた、と感謝もしている。
美咲の不倫と離婚によるダメージは、もうすっかり唯史の中から消えうせていた。
今は義之の笑顔が、唯史の心を満たしているのだ。
「とはいえ、義之もいつかは結婚するやろうし」
そこまで考えた瞬間、唯史は心臓がつかまれたような感覚に見舞われた。
義之の隣に、自分ではない女性が立っている。
義之と目を合わせ、微笑む女性が、唯史の脳内に再生される。
「そしたら、俺はまた一人になる……」
再び孤独に戻ることへの恐れが、胸に広がる。
もうあの虚無感は味わいたくない。
ならば、傷は浅い方がいい。
これ以上、義之に対する執着が深まる前に。
スマートフォンの画面に映る義之の笑顔をかき消すように、唯史は不動産情報を検索し始めた。
画面に表示される物件情報を見ながら、心の中で自分に言い聞かせる。
「どうせ離れることになるなら、早いほうがいい」
唯史の脳裏に、義之と過ごした記憶がよぎる。
ビールを飲みながらリビングでくつろぐ日常、週末に出かけた場所、そして那智勝浦への旅行。
かけがえのない時間だったと思い返す。
だが、そう思えば思うほど、いずれ離れなければならないという現実が、唯史に重くのしかかる。
当初、義之との同居は一時的なものだと考えていた。
自分が立ち直ったら、部屋を探して自立するつもりであった。
それなのに。
離れがたい、でもこのままズルズルと時を重ねてしまえば、もっと離れがたくなる。
ならば、今のうちに。
唯史は、駅に近いワンルームマンションの物件情報のページを「お気に入り」に登録した。
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