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今までの水墨画で一番グッときた狩野元信の《四季花鳥図屏風》

これまで何度もnoteに記していますが、わたしは水墨画の良さがいまひとつ分かっていません。わかりやすく表現すれば、水墨画を見てグッとくることがほとんどないんです。

現在、東京国立博物館(トーハク)の本館2階には、狩野元信の《四季花鳥図屏風》が展示されています。狩野元信といえば狩野派の二代で、解説によれば、流派の礎を築いた画人です。狩野永徳のとーちゃんと言えば、あぁそうなのねと、イメージしやすいでしょうか。

今年に入って1、2回は、この一双の屏風の目の前を通りましたが、撮影禁止マークが遠くからでも見えるので、あまり近づかないようにしていました。わたしがカメラをぶら下げているからなのですが……トーハクで、カメラを持って撮影禁止マークのある作品の前で立ち止まると、監視員の方々の心中で、ファンファンと警戒音が鳴り響いているのが、聞こえてくるんですよね(勝手に想像しているだけです)……そのため、よっぽど気になる作品でなければ、撮影禁止の作品の前は通り過ぎるようにしています。

ただ、今回は目の前の導線が空いていたので、作品の前を通り過ぎようとしました……そしたら「え? これすごくないですか?」って、わたしの心の中でも「これは立ち止まって見なきゃいけないよ」って、ざわざわしたんです。

狩野元信(1476 - 1559)《四季花鳥図屏風》個人蔵
『静岡県立美術館紀要 = Bulletin of Shizuoka Prefectural Museum of Art』(6),静岡県立美術館,1988-03. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7958834
『静岡県立美術館紀要 = Bulletin of Shizuoka Prefectural Museum of Art』(6),静岡県立美術館,1988-03. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7958834

博物館でメモを取ることはないのですが、今回はファーストインプレッションを忘れちゃいけないと思い、絵の目の前にあったソファに座り、《四季花鳥図屏風》を見ながら、良いなと思ったポイントをiPhoneにメモしてみました。

『静岡県立美術館紀要 = Bulletin of Shizuoka Prefectural Museum of Art』(6),静岡県立美術館,1988-03. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7958834

この作品……《四季花鳥図屏風》というくらいなので、右隻から左に向かって春夏秋冬が描かれているのでしょう。まず右隻で目を引くのが、中央の鶴です。親鶴の視線の先を辿ると……パッと見た時には気が付かなかったのですが……すぐ横に子どもの鶴が描かれています。その親子の鶴の微笑ましいこと。親鶴が明らかに子を思いやるような瞳をしていて、子鶴も明らかに親と一緒に過ごす時間を楽しんでいる、安心しきった表情をしています。

右隻の右端からは、グワッと中央に向かって伸びる松の木があります。よく見てみれば、枝のあちこちに楽しそうな表情の小鳥が描かれています。また左下の湖畔にも5〜6羽の小鳥が泳いでいて(鴨でしょうか)……右隻の全体で、ほがらかな雰囲気が漂っていてるのが感じられ……狩野元信さん、すごいよあなた…って思いました。少し大げさに言えば平和な世界というか、楽しそうな雰囲気なんですよね。

画面のあちこちに鳥たちが描かれています
『静岡県立美術館紀要 = Bulletin of Shizuoka Prefectural Museum of Art』(6),静岡県立美術館,1988-03. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7958834

また、フォーカスを合わせた前景に対して、霧にかすむ湖の対岸のフォーカスアウトさせる描き方がすごいです。スーパーフラットじゃないです、これは。水墨画ではよくある手法なのかもしれませんが、前景から背景にかけて、同じ世界がつながっていっているように、自然と焦点がぼかされていっているようなんです。違和感がない。

また、なんでこんなに惹かれるんだろうかって考えてみると、描かれているのが日本なんですよね。水墨画でよくある、中国の世界観を描いたものではなく、たしかに日本が描かれているんです。だから、違和感なく心にしみて、安心して見られるのかもしれません。

さて、右隻に描かれた湖は左隻にまでつながっています。なんとなく繋がるように描いた…のではなく、しっかりと繋げようとして繋げたという感じです。右隻と左隻とは、一双で世界が構成されているとはっきりと示すように描いています。

その左隻の右上の“奥”からは……雁(がん)でしょう……5羽の鳥が群れて飛び、こちらに向かってきています。急降下するその群れの鳥たちを、湖にいる5〜6羽の……これは雁の雌たちでしょうか……飛んでくる雄鳥を待っているかのようです。

湖畔で群れている雌鳥の2羽は、空を見上げて「あぁ今日も無事に帰ってきてくれた。それじゃ夕飯にしましょうね」とでも言っているようです。右隻の親子の鶴をはじめ、単に鳥を描いているのではなく、そこに感情を表現しているんです。

これら雁の群れだけでなく、様々な鳥が左隻にも描かれています。雁の子どもたちも描かれています。こちらにも右隻と同じように、見ていると穏やかな気持ちになる、やさしさに満ち溢れた……そんな世界が広がっています。

左隻の端からは、画面の右へと太い幹を傾けた大樹が描かれています。その幹や枝には雪が薄っすらと積もり、小さな鳥たちが肩を寄せ合うように描かれています。この鳥はなんだろう? と考えてもわたしには分かりません……が、改めて一双全体を見ると、右から鶴、鴨、雁と描かれています。ほかに描かれるべき鳥は何かと考えると……鶉(うずら)がいるはずです。なので、この太い幹にいる鳥なのか、または左端に描かれている小鳥たちが鶉だったかもしれませんが……やはりわたしには同定不可能でした。

最後に細部を見ていくと、この鳥たちも松の葉などもですが、ひと筆ひと筆の筆跡が、本当に丁寧に引かれていることにも驚きました。特に鳥たちの描き方は、江戸期の図譜で見るような、その描き方に一切の手抜きがなく、生きているかのような……というのは言いすぎですが……たしかに実存感はすごいんです。

解説には、この《四季花鳥図屏風》は、狩野元信の水墨花鳥画の代表作だと記されています。この、国宝にはもちろん重文にすら指定されていない作品が、代表作だと言われても説得力に欠けますが……なにせ狩野元信の作品は国宝こそないものの、少なくとも17品が重要文化財に指定されています……それでも、わたし史上では、最高の水墨画と言ってもいいでしょう。

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