新薬師寺の仏涅槃図に一目惚れ…@東京国立博物館
お釈迦さんが寝転がっている絵とか像とかって、時々写真で見かけますよね。見かけると言っても、記憶に残っているわたしが初めて実物の像を見たのは、日本でのことではなく、タイのアユタヤだったような気がします。その時には、特に仏教に興味もなく「東南アジアのお釈迦さんって、なんで寝っ転がっているのが多いんだろ?」って思っていました。年中温かい東南アジアだから、お釈迦さんもぐ~たらしているって思っていたものです。
最近のことです。寝転がっているんじゃなくて、亡くなる時の姿だってことを知ったのは。「涅槃(ねはん)」っていうそうです。サンスクリット語の「ニルヴァーナ」を訳して「涅槃」というらしいのですが、中国語訳ってことでしょうね。ニルヴァーナもですが、涅槃も、日常使う言葉だったんでしょうかね? 訳としては最悪というか……そう言われても、なんのことかさっぱりイメージできませんが、もしかするとこの「涅槃(ねはん)」という言葉から「寝る(ねる)」という日本語が生まれて、関西弁だと「寝なはったん?」的な言葉遣いになっていったのかもしれません……いや、そんなわけないです。
まぁとにかく東京国立博物館(トーハク)では、けっこう頻繁にお釈迦さんの涅槃図が見られます。そして2025年1月3日現在、鎌倉時代に描かれた奈良・新薬師寺の《仏涅槃図》が観られます。

この新薬師寺の《仏涅槃図》を、わたしは初めて見ました。見た…というのは、初めて認識したということで、可能性は高いのですが、もしかすると以前にも見たことはあったかもしれませんが、記憶にはありません。
この涅槃図に近づいていく時には、何が描かれているのかわかりません。展示ガラスの反射がキツイのと、色彩が淡くなってしまっているのとで、よくわからないんです(上の写真は少し彩度を上げているので若干見やすくなっています)。でも、ガラスに鼻がつかないくらいに近づくと、ちょうどお釈迦さんの顔の周辺が、驚くほど色彩が残っているんです。

「なんかいいなぁ」って思いました。あまり仏教美術を観て、感覚的に「いいな」って思うことってないのですが……これは観た瞬間に「あっ……」てなりました。もしかするとわたしの中にDNAレベルで埋め込まれていた、仏教徒的な感覚が、この涅槃図のお釈迦さんを見ることによって呼び起こされたのかもしれません。
ごくごく感覚的に良いなと思っただけなので、美術的になにが素晴らしいのかなどは分かりません。ただただ「いいな」って感じました。
できれば、展示ケースの外に出した状態……反射のない状態で全体を見渡したいのですが、現在では叶わぬ夢ですね。できるだけ反射の少ない角度から撮ったのが下の写真です。

なんでしょうね……お釈迦さんの周りに集まっている人たちが本当に悲しんでいるような気がしました。涅槃というと、悟った状態だということですけど、まぁそれはどうでもよくて、お釈迦さんという1人の人間を喪った人たちの様子が表現されているなぁと。そして、そうした自分を慕う人たちの元から去りがたい気持ち、「わたしはこれからもあなた方の心のなかにいますから、大丈夫ですよ」と、描かれているお釈迦さんが語っているかのような表情が、とても良いなぁと……。



以上は、あくまでもわたしが鑑賞した時に感じたことであって、ほかの人が見たら……例えば20代のわたしが見たら「へぇ〜、日本にも寝転がってるお釈迦さんって描かれていたんだぁ〜」って思っただろうし、先週の…昨年のわたしが見たら「ふんふん、よく描かれているなぁ」なんて物知り顔で一瞬チラッと見るだけで通り過ぎたかもしれません。そういうものですよね。
ちなみに解説パネルによれば「周囲の菩薩や仏弟子たちの数や、動物の種類と数が少なく、古い形式を示します。釈迦が目を半眼に開くなど珍しい特徴をもつ作例です。」ということでした。言われてみれば、わさわさした感じが希薄な気もしますし、特に描かれている動物などの姿が少ないですね。周りに立っている沙羅双樹の存在感も、あまり強調されていないようにも感じます。
そうやって人数だったり要素を減らしたことで、悲しみを強調できているのかもしれませんけど……まぁよく分かりません。






■《仏涅槃図》を所蔵している奈良・新薬師寺のことを少し
伝承によれば、新薬師寺は天平十九年(747)年に、聖武天皇の病気平癒を祈って、光明皇后によって創建されたそうです。また創建当時は香山薬師寺や香薬寺とも呼ばれていたそうです。
場所は春日大社のすぐ南側。地図で見る限りだと、奈良の国立博物館や東大寺へも、歩いていけなくもなさそうな近さです。実際、平安時代の後期になると、新薬師寺は東大寺の末寺となっていたようです。

いまはポツンと小さな佇まいですが、創建当時……最盛期には4町(約440メートル)四方の寺地を有していたとWikipediaには記されています。
これもWikipediaから転用した写真ですが、奈良市役所所蔵の模型には、創建当時の新薬師寺が復元されています。手前が東側で……2つの塔もあり、かなり立派な作りですね。

現在の本堂……金堂は、創建当時のものではないものの、奈良時代に建てられたものと推定されているらしく、国宝に指定されています。

そして本堂には、本尊の薬師如来像を守るように十二神将が配置されていて、いずれも国宝に指定されています。そのほか重要文化財に指定されている不動明王二童子像と十一面観音立像が奈良の国立博物館に寄託されているほか、トーハク寄託の今回の《仏涅槃図(絹本着色仏涅槃像)》も重要文化財に指定されています。
今度、奈良に行く機会があれば、訪ねてみたい寺の1つとなりました。
そう書いて、一度は終わりにしたのですが、正月ということで画像整理をしていたら、涅槃の彫像が見つかりました。そういえば、いつだったかトーハクに展示されていたなぁと思ったものの、一緒に撮ったはずの解説パネルの画像データが見当たりませんでした。少し調べてみたら、どうやら奈良・岡寺の涅槃像とのことでした。

トーハク寄託 2025年1月5日現在は展示されていません
なんで足元から撮ったんだろうなぁ……。
岡寺のホームページには「我が国では釈尊のご命日とされる2月15日の涅槃会の本尊として懸用される絵画(掛け軸)によるものが圧倒的に多くまた大量に制作されてきたが彫像の作例はきわめて少ない」とあります。わたしが、涅槃像を日本であまり見たことがないと思ったのは、あながち間違いではなかったようです。さらに同像に関しては「等身大の本像は大変珍しい彫像の作例」とあります。そうと知ったら、iPhoneの計測アプリで身長を測っておいたのですが……観た時には解説パネルさえ読まなかった可能性があり、知りませんでした。次回、展示された時には測ってみようと思います。
ちなみに岡寺は、日本でもっとも大きな…像高5m弱の…塑造の如意輪観音菩薩坐像を本尊がいらっしゃることで有名なのだそうです。そちらも観てみたいものです。
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