「国会で語らず説明なく」は本当?共産党議員の発言を事実確認してみた
SNSで拡散された「説明なく」発言、でも本当?
2025年10月28日、共産党の山添拓参院議員がX(旧Twitter)でこんな投稿をしました。
「トランプ大統領に軍事費増額の『決意伝えた』と高市首相。国会で語らず国民に説明なく大軍拡ありき、勝手に伝えないでいただきたい」

一見、「高市総理が国民に何も説明せずに勝手に決めた」ように聞こえるこの発言。しかし、実際に所信表明演説の全文や公式資料を確認してみると、かなり異なる事実が見えてきました。
この記事では、政治の専門知識がない方でも分かるように、以下の3つのポイントを徹底解説します
「説明なく」は事実なのか?所信表明演説や過去の経緯を確認
「軍事費」という表現は適切なのか?公式用語との違いを理解
SNS時代の政治家の発信責任とは?私たち市民ができることも考える
この記事を読めば、政治家の発言をどう受け取るべきか、どう事実確認すればいいかが分かるようになります。

第1章:「国会で語らず」は事実に反する—所信表明演説を確認
所信表明演説で明確に説明されていた
高市早苗首相は2025年10月24日、衆参両院の本会議で就任後初の所信表明演説を行いました。この演説は首相官邸のウェブサイトや国会中継で全文が公開されており、誰でも確認できます。
この演説の中で、高市首相は以下の内容を明確に述べています
防衛費と関連経費を合わせて、令和7年度(2025年度)内にGDP比2%へ前倒し達成する
安全保障関連3文書の改定を、翌年度中(2026年末まで)に前倒しする
これらの方針を検討し、実施していく
つまり、トランプ大統領との会談(10月27日)の3日前に、国会で公式に方針を表明していたのです。
山添議員が「国会で語らず」と批判したのは、この事実と明確に矛盾します。

報道各社も所信表明の内容を報じていた
この所信表明演説については、報道各社も以下のように報じています
「防衛費GDP比2%年度内達成を明言 安保3文書の改訂も前倒し」(産経新聞、10月24日)
「防衛費増額を前倒しへ 高市首相、初の所信表明」(毎日新聞、10月24日)
「防衛費GDP2%水準へ増額、25年度中に前倒し」(日本経済新聞、10月22日)
つまり、所信表明演説の内容は広く報道され、国民がアクセスできる状態にあったということです。
第2章:実は石破政権時代からの継続政策だった
石破政権(2024年10月~2025年10月)の方針
そもそも防衛費増額の方針は、高市首相が新しく打ち出したものではありません。
石破茂首相(当時)は2025年2月7日の日米首脳会談で、共同声明において「2027年度以降も抜本的に防衛力を強化していく」と約束していました。さらに石破首相は、「2%で足りないこともある」「厳しければ厳しいほど増やす」とまで述べており、高市政権の方針はこれを引き継いだものです。
岸田政権(2022年)が原点:安保3文書の閣議決定
そもそもの出発点は、2022年12月に岸田政権が閣議決定した「国家安全保障戦略」など安保3文書です。
この文書で決まったこと
2027年度までに防衛費をGDP比2%(約43兆円)へ引き上げる
5年間(2023~2027年度)で43兆円の防衛費を確保
反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など、防衛力の抜本的強化
この決定は、国会や政府・与党協議、有識者会議などを通じた説明プロセスを経ており、財務省の公式レビューにも詳細な経緯が記録されています。
さらに遡ると、2022年5月の日米首脳会談で、岸田首相がバイデン大統領に防衛費2%への増額方針を既に伝えていたことも明らかになっています。

つまり、三代の政権にまたがる継続政策
$$
\begin{array}{|l|l|l|}
\hline
\textbf{政権} & \textbf{時期} & \textbf{主な決定・発言} \\ \hline
岸田政権 & 2022年12月 & 安保3文書閣議決定、2027年度にGDP比2%目標 \\ \hline
石破政権 & 2025年2月 & 日米首脳会談で「2027年度以降も抜本的に強化」と約束 \\ \hline
高市政権 & 2025年10月 & 所信表明で2025年度内に前倒し達成を表明 \\ \hline
\end{array}
$$
高市首相が行ったのは、既存の目標を「2年前倒し」することであり、まったく新しい方針を打ち出したわけではないのです。
第3章:「軍事費」という表現の問題点—公式用語は「防衛費」

日本政府の公式用語は一貫して「防衛費」
山添議員の発言でもう一つ見過ごせないのが、「軍事費」という表現です。
実は、日本政府の公式用語は一貫して「防衛費」「防衛関係費」であり、以下のすべてで「防衛費」が使われています
防衛省の公式文書
財務省の予算資料
国会での審議
首相の所信表明演説
なぜ「防衛費」であって「軍事費」ではないのか?
これは単なる言葉の選択の問題ではありません。
日本は憲法9条で以下のように定めています
第1項:戦争を放棄する
第2項:「戦力は、これを保持しない」
そのため政府は、自衛隊を「戦力」ではなく「自衛のための必要最小限度の実力組織」と解釈し、以下の用語を一貫して使用してきました
$$
\begin{array}{|l|l|l|}
\hline
\textbf{一般的な用語} & \textbf{日本政府の公式用語} & \textbf{理由} \\ \hline
軍隊 & 自衛隊 & 憲法9条で「戦力」の保持を禁止 \\ \hline
軍事費 & 防衛費 & 「軍事」ではなく「自衛」のための費用 \\ \hline
国防省 & 防衛省 & 「国防」ではなく「防衛」が基本方針 \\ \hline
\end{array}
$$
共産党はなぜ「軍事費」と呼ぶのか?
一方、共産党は意図的に「軍事費」という表現を使用しています。
共産党の公式サイトや「しんぶん赤旗」を見ると、「軍事費増額は仕方ない?」「軍事費が『聖域』とは?」といった記事で一貫して「軍事費」という用語が使われています。
これはなぜか?
共産党は、自衛隊を「違憲の存在」と位置づけ、その予算を「本来あってはならない軍事費」として批判するという、基本的立場を反映したイデオロギー的な用語選択なのです。
なぜこれが問題なのか?
政治家、特に国会議員が公の場で発言する際には、政府の公式用語を使用することが正確性と公平性の基本です。
個人的な政治信条やイデオロギーに基づいて用語を変えることは
事実認識を歪める
建設的な議論を妨げる
あたかもそれが公式用語であるかのような誤解を与える
もし山添議員が「私は自衛隊を軍隊だと考えるので、あえて軍事費と呼ぶ」と明言した上で議論するなら、それは一つの立場表明です。しかし、何の説明もなく「軍事費」という用語を使うことは、ミスリーディング(誤解を招く表現)と言わざるを得ません。
第4章:政治家のSNS発信に求められる責任

SNSで拡散される「誤情報」のリスク
総務省の有識者会議は、SNS上の偽情報・誤情報対策の重要性を指摘しており、「社会全体への負の影響が顕在化・深刻化している」と警鐘を鳴らしています。
特に政治関連の情報については、選挙への影響も大きく、慎重な対応が求められています。
今回の発言の何が問題だったのか?
山添議員の発言には、二重の問題点があります
問題点1:事実誤認
「国会で語らず」→ 誤り(所信表明で語っている)
「国民に説明なく」→ 誤り(安保3文書以来、公式の説明プロセスがある)
問題点2:意図的な用語選択
「軍事費」→ 公式用語は「防衛費」
イデオロギー的な表現で印象操作を行っている
過去の訂正・謝罪の事例
国会議員が事実誤認の発言をした場合、訂正・謝罪が求められます。
例えば、安倍前首相は「桜を見る会」問題で国会答弁に「事実と反するものがあった」として訂正・謝罪しました。
山添議員も、以下のような対応が求められます
「国会で語らず」は事実誤認であったと認める
「軍事費」という用語は共産党の立場からの表現であり、公式用語は「防衛費」であることを明示する
真意が「説明の十分性」への疑問であったなら、そう正確に表現し直す
第5章:私たち市民ができること—ファクトチェックの重要性
情報の受け手としての責任
SNS時代において、私たち市民にも情報を検証する責任があります。政治家の発言を鵜呑みにせず、自分で確かめる習慣が大切です。
私たちができる具体的なファクトチェック
政治家の発言に疑問を持ったら、以下のステップで確認しましょう
ステップ1:一次情報を確認する
所信表明演説の全文を読む(首相官邸や国会のウェブサイトで公開)
安保3文書などの公式文書を確認する(財務省や防衛省のサイト)
国会中継や議事録をチェックする
ステップ2:用語の正確性を確認する
「軍事費」は公式用語か?→ いいえ、公式用語は「防衛費」
なぜその用語を使っているのか?→ イデオロギー的な理由がないか確認
ステップ3:複数の情報源を比較する
政府の発表
複数の報道機関の記事
野党の主張
専門家の解説
ステップ4:時系列を整理する
いつ、誰が、何を決めたのか?
今回の発言は、その流れの中でどう位置づけられるのか?

メディア・リテラシーを高めるポイント
$$
\begin{array}{|l|l|}
\hline
\textbf{チェック項目} & \textbf{確認すべきこと} \\ \hline
情報源 & 公式発表か、誰かの意見か? \\ \hline
用語 & 公式用語が使われているか? \\ \hline
文脈 & 前後の経緯を踏まえているか? \\ \hline
バイアス & 発信者の立場や意図は? \\ \hline
\end{array}
$$
第6章:「説明の有無」と「政策への賛否」は別問題

誤解してはいけない重要なポイント
今回の件で混同されがちなのが、以下の2つの問題です
問題A:「説明があったか?」
→ これは事実の問題
問題B:「その政策に賛成か反対か?」
→ これは意見の問題
山添議員の発言の問題は、この2つを混同し、「政策への反対」を表明するために「説明がなかった」という事実に反する表現を使ったことです。
正しい批判の仕方とは?
もし山添議員が防衛費増額に反対なら、以下のように表現すべきでした
NG例(今回の発言)
「国会で語らず国民に説明なく大軍拡ありき」
→ 事実に反する
OK例
「所信表明で触れられたが、わずか数行の説明で十分な審議時間もない。財源も不透明なまま対米コミットすることには反対」
→ 事実を踏まえた上での意見表明
建設的な議論のために
政策への反対は正当な政治活動です。しかし、事実に基づかない批判は、かえって本来の論点を見失わせ、政治への信頼を損ないます。
私たち市民も、「説明があったかどうか」という事実と、「その政策に賛成か反対か」という意見を、きちんと区別して考える必要があります。
第7章:なぜこのような発言が生まれたのか?—構造的な問題

共産党の基本姿勢と現実とのギャップ
共産党は冷戦期から一貫して「自衛隊は違憲」「防衛費は軍事費」という立場を維持してきました。
しかし、内閣府の世論調査では、国民の90%超が自衛隊の存在を容認しています。また2025年5月の世論調査では、共産党の支持率は2.9%にとどまっています。
このギャップが、今回のような「現実と乖離した発言」につながっていると考えられます。
イデオロギーと事実認識の分離
政党が独自のイデオロギーを持つことは当然です。しかし、イデオロギーと事実認識は分けて考えるべきです。
イデオロギー:「自衛隊は違憲だと考える」→ これは政治的立場
事実認識:「政府は所信表明で説明した」→ これは客観的事実
山添議員の発言は、イデオロギーに基づいて事実認識まで歪めてしまった例と言えます。

政治全体への不信の連鎖
山添議員のような事実に反する発言は、共産党だけでなく政治全体への不信を深めかねません。
「また政治家が嘘をついた」という印象が広がれば、それは民主主義の基盤を揺るがすことになります。
第8章:国際比較—諸外国の「国防費」「防衛費」「軍事費」

各国の用語の違い
参考までに、諸外国でどのような用語が使われているかを見てみましょう
米国:Defense Budget(国防予算)
英国:Defence Spending(国防支出)
NATO:Defence Expenditure(防衛支出)
国際機関(SIPRI等):Military Expenditure(軍事支出)
国際的な統計では「Military Expenditure(軍事支出)」という用語が一般的ですが、各国の国内法制では「Defence(防衛)」という用語が使われることが多く、日本の「防衛費」という用語は国際標準に沿ったものです。
日本固有の事情
日本の「防衛費」という用語は、憲法9条という日本固有の事情を反映したものです。この歴史的背景を理解せずに、単純に「軍事費と呼ぶべきだ」と主張することは、日本の戦後の歩みを無視することになります。
まとめ:事実に基づいた誠実な議論こそが政治の信頼を築く

この記事のポイント整理
1. 「説明なく」は事実に反する
所信表明演説で明確に説明されていた(10月24日)
石破政権・岸田政権からの継続政策として公式に決定・公表されてきた
報道各社も広く報じていた
2. 「軍事費」は公式用語ではない
日本政府の公式用語は「防衛費」
「軍事費」は共産党のイデオロギー的立場を反映した用語
公式用語を使わないことは、ミスリーディングにつながる
3. 二つの問題を混同してはいけない
「説明があったか」(事実の問題)
「その政策に賛成か」(意見の問題)
4. 市民のファクトチェック能力が重要
一次情報を確認する(政府の公式サイト、国会中継など)
用語の正確性をチェックする
複数の情報源を比較する
時系列を整理する
私たち市民に求められること
SNS時代において、私たち市民には情報を検証する力が求められています。
政治家の発言を鵜呑みにせず、以下を心がけましょう
✅ 疑問を持つ習慣
「本当にそうか?」と一度立ち止まる
✅ 一次情報にアクセスする
政府の公式サイトや国会中継を確認する
✅ 用語の正確性を確認する
公式用語が使われているかチェックする
✅ 複数の視点で考える
政府、野党、専門家、それぞれの主張を比較する
政治家への期待
山添議員には、以下のような対応が望まれます
事実誤認を認め、訂正する
イデオロギー的な用語選択について説明する
真意を正確に表現し直す
「誤解を招いたとすれば」という曖昧な言い訳ではなく、事実誤認は事実誤認として認める誠実さが求められます。
最後に:民主主義は「対話」から
今回の件は、SNS時代における政治家の発信責任、市民のファクトチェック能力、そして民主主義の健全性について、私たちに多くを考えさせる事例となりました。
大切なのは、どちらが正しいかを競うのではなく、事実に基づいた誠実な対話を積み重ねていくことです。
防衛費の問題は、私たちの税金の使い道であり、子や孫の世代が生きる社会の形を決める重要な選択です。感情的な対立を超えて、事実に基づいた冷静な議論を積み重ねていくことが、今こそ求められています。

所信表明演説
首相が就任後、国会で自らの政治姿勢や政策方針を述べる演説
安保3文書
「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3つの文書の総称。日本の安全保障政策の基本方針を定める
GDP比2%
国内総生産(GDP)の2%相当額を防衛費に充てること。NATOの目標値を参考にした基準
反撃能力(敵基地攻撃能力)
ミサイル攻撃を受けた際、相手の基地を攻撃して阻止する能力
憲法9条
日本国憲法の条文で、戦争放棄と戦力不保持を定める
イデオロギー
特定の政治的・社会的信条や思想体系
ミスリーディング
誤解を招く表現や情報。意図的かどうかに関わらず、受け手に誤った認識を与えること
ファクトチェック
情報や主張が事実に基づいているか検証すること
閣議決定
内閣の会議(閣議)で政府の方針や政策を正式に決定すること
NATO
北大西洋条約機構。欧米を中心とした軍事同盟
参考ニュース記事
トランプ大統領に軍事費増額の「決意伝えた」と高市首相。国会で語らず国民に説明なく大軍拡ありき、勝手に伝えないでいただきたい。
— 山添 拓 (@pioneertaku84) October 28, 2025
トランプ氏はすかさず戦闘機やミサイルを売り込み。媚びへつらい爆買いの商談ーーこれが高市氏の言う「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」か。https://t.co/iUapL4v6ws
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