小野田大臣が語る経済安全保障:レアアース・宇宙・ゲノム編集で中国依存から抜け出せるか?
経済安全保障って難しそう…」と思ったあなたへ
「経済安全保障ってニュースでよく聞くけど、正直よく分からない」「レアアースとかゲノム編集って、自分の生活と関係あるの?」──そんなモヤっとした感覚を持っている人は多いはずです。
この記事は、2025年12月に行われた小野田紀美経済安全保障担当相の閣議後記者会見をベースに、日本の経済安全保障戦略を「レアアース」「衛星データ」「ゲノム編集」「大学の基礎研究費」という4つのテーマから読み解いていきます。
会見のなかで小野田大臣は、
南鳥島沖のレアアース開発
衛星リモートセンシングデータの活用
ゲノム編集ベビーを巡る新たな法規制の方向性
国立大学の運営費交付金(基礎研究費)の拡充議論
を報告しました。
と、一見バラバラなテーマが語られました。
でも実はこれらは、すべて「経済安全保障」という一本の線でつながっています。
この記事では、ニュースの内容をかみくだきながら、
経済の視点(レアアース・産業・お金)
テクノロジーの視点(衛星データ・宇宙)
倫理・社会の視点(ゲノム編集ベビー)
研究・教育の視点(大学の基礎研究費)
の4つの切り口から、「今、日本で何が起きているのか」「それが私たちの生活にどう関係するのか」を整理していきます。

経済安全保障ってそもそも何?

経済安全保障=“お金と技術”で国を守る発想
従来の「安全保障」と聞くと、防衛力や自衛隊、ミサイルといった軍事的なイメージが強いかもしれません。
しかし今の国際社会では、「経済」そのものが安全保障の武器にも弱点にもなっています。
重要な部品を特定の国に依存している
エネルギーや食料を輸入に頼っている
最先端技術を海外に握られている
こうした状態は、いざという時に相手国から「経済的な締め付け」を受けやすくなるリスクです。
日本政府も「国家安全保障戦略」や「経済安全保障推進法」などで、
資源・エネルギー・半導体・レアアース
宇宙・海洋・サイバーなどの重要技術
サプライチェーン(供給網)の強靭化
を、国家レベルで守るべきテーマとして位置づけています。
今回の会見は、その“実務版”と言える内容でした。
レアアースと経済の視点:南鳥島沖は「日本の生命線」になるのか?

なぜレアアースがここまで重要なのか
レアアース(希土類)は、
スマートフォン
電気自動車(EV)のモーター
風力発電の高性能磁石
高性能モーターや各種電子部品
など、あらゆるハイテク製品に欠かせない素材です。
世界のレアアース供給は、長年中国のシェアが非常に高く、「中国が輸出規制をすると世界中の産業が揺れる」という構図が続いてきました。
日本もかつては輸入の9割以上を中国に依存していた時期があり、尖閣諸島をめぐる対立時には実際に輸出規制の「圧力」を経験しています。
結果として、
代替産地の開拓
リサイクル技術の強化
使用量削減・代替材料の開発
を進めてきたため、中国依存度は以前よりは下がったとされますが、それでもなおレアアースは「日本経済のアキレス腱」といえる存在です。
南鳥島沖レアアース開発の意味

小野田大臣が会見で触れたのが、「南鳥島沖のレアアース資源」と、その本格開発に向けた技術実証です。
水深約6000mという超深海
海底の「レアアース泥」に高濃度のレアアース
これを効率よく吸い上げ、商業的に成り立つかどうかの検証
といったチャレンジが進んでいます。
シミュレーションや地質研究によると、南鳥島周辺には世界屈指のレアアース資源量があるとされ、「適切に開発できれば、世界需要の相当部分を長期間賄える可能性」が指摘されています。
ここで重要なのは、このプロジェクトが単なる資源ビジネスを超えた意味を持っている点です。
中国依存を減らし、日本自身が“供給源”の一つになる
日米など同盟国間でのレアアース供給網構築の一部になりうる
技術・資源の両面で「日本の交渉力」を高める
といった、「経済安全保障」のど真ん中に位置づけられているのです。

開発と同時に「使わない技術」も進める理由
会見では、記者から「レアアースを使わない、あるいは使用量を減らす技術開発も必要では?」という質問が出ました。
実際、政府の重要技術育成プログラム(いわゆるKプログラム)では、
レアアースフリー磁石
レアメタル使用量を減らす合金
リサイクル・回収技術
なども重点テーマになっています。
これは、
「掘れるようにする」だけでなく
「少なくても済むようにする」
「回収して循環させる」
という、かなり長期的なリスク分散の発想です。
資源を囲い込むだけでなく、需要側からも依存度を下げる。この両輪を回そうとしているのが、今の日本のレアアース政策の特徴と言えます。
宇宙・衛星データとテクノロジーの視点:「空から見る」ことが国家インフラに

衛星リモートセンシングって何をしているの?
会見の冒頭で、小野田大臣は「衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース」の話をしています。
衛星リモートセンシングとは、ざっくり言えば「宇宙から地球を撮影・観測し、そのデータを解析して活用する技術」です。
カメラやレーダーで地表・海面・植生・気象などを観測
画像や数値データとして取得
AI解析と組み合わせて、変化や異常を検知
といった使い方が代表的です。
実際にどう役立つのか
衛星データは、すでにかなり実務的な場面で使われ始めています。
防災:洪水・土砂災害・地すべりなどのリスク評価、被害状況の把握。
農業:作物の生育状況、土壌の水分状態、病害リスクの早期検知。
環境・気候変動:温室効果ガスの監視、森林減少や海洋環境の変化の把握。
安全保障:周辺国の軍事活動の動向把握、海洋進出や不審船の監視など。
政府の宇宙基本計画では、こうした衛星データを「防災・農林水産・インフラ・環境・安全保障」といった幅広い分野で活用することが位置づけられており、2020年代後半にかけて体制を強化する工程表も作成されています。
なぜ経済安全保障と関係するのか
一見、衛星データは「便利なITツール」に見えますが、経済安全保障の観点からも非常に重要です。

自国で観測・解析ができないと、他国の情報に依存することになる
災害・軍事・資源などの重要情報が、他国次第になってしまう
データそのものが「戦略資源」化している
こうした現実から、日本は「宇宙・衛星」を経済安全保障上の戦略分野として位置づけ、
官民連携で衛星コンステレーション(多数衛星による観測網)を整備
衛星データの共有・利活用のルールやインフラを整備
といった動きを進めています。
今回の会見での報告は、その一部の“進捗報告”という位置づけです。
ゲノム編集ベビー規制と倫理の視点:「できる」と「やっていい」は別問題

何が議論されているのか?
会見で大きく報じられたもう一つのテーマが、「ゲノム編集技術を使って改変した人の受精卵を、ヒトや動物の体内に移植することを法律で禁止すべき」という報告書の話です。

要点を整理すると、
ゲノム編集技術(CRISPRなど)で受精卵の遺伝情報を書き換える
その受精卵を子宮に戻して妊娠・出産につなげる、いわゆる「ゲノム編集ベビー」
これを法律で禁止し、罰則も設ける方向で議論が進んでいる
という内容です。
背後には、2018年に中国の科学者が「HIVに強い双子の赤ちゃんを生まれさせた」と主張した事件があり、国際的な批判と倫理議論が巻き起こりました。
なぜ「禁止」が重視されるのか
ゲノム編集ベビーをめぐる問題は、技術的な巧拙だけでなく、かなり根の深い倫理問題を含んでいます。
よく挙げられる論点は次のようなものです。
子どもの自己決定権
生まれてくる子どもは、自分の遺伝子編集を選べません。
親や社会の価値観で「望ましい子ども像」が押し付けられる危険があります。格差の固定化
高額な医療技術になれば、裕福な家庭だけが「遺伝的に有利な子ども」を得る可能性があり、経済格差が遺伝的格差に変わりかねません。予測不能なリスク
受精卵段階での編集は、次世代・その次の世代まで影響しうるため、長期的な健康リスクが見通しにくいのが現状です。
京都大学などの倫理学者も、「現時点で人の誕生を目的とした受精卵ゲノム編集は容認できない」という立場を明確にしており、日本の専門家コミュニティの中でも慎重な姿勢が主流です。
今回の日本政府の動きは、
科学のポテンシャルを認めつつも
「やっていいライン」を社会として明確に線引きする
という意味で、世界的にも重要なメッセージになります。
経済安全保障との意外な接点
一見すると、ゲノム編集は「生命倫理」の話で、経済安全保障とは別世界に見えるかもしれません。
しかし、少し広い視点で見ると、次のような接点が見えてきます。
医療・バイオは将来の成長産業であり、技術競争が激しい
一方で、倫理的に暴走すると国際的な信用を失い、投資も人材も離れていく
「倫理に配慮した技術国家」というブランドは、長期的な経済競争力にも影響する
つまり、「あえてやらないと決める」ことも、広い意味では経済安全保障の一部と言えます。
技術の“暴走”ではなく、“信頼”を武器にする戦略です。
大学の基礎研究費と社会・文化の視点:知の土台をどう守るか

運営費交付金って何?
会見でもう一つ話題になったのが、「国立大学法人運営費交付金」の拡充をめぐる議論です。
運営費交付金とは、ざっくり言えば「国立大学が生きていくためのベースとなるお金」です。
研究費
教職員の人件費
設備維持費
など、大学の“土台”を支える財源であり、ここが弱ると長期的な基礎研究が成り立たなくなります。
ここ20年ほど、日本ではこの交付金が実質的に減少傾向にあり、
若手研究者のポスト減少
設備の老朽化
「短期的に成果が出る研究」への偏り
などが問題視されてきました。
ノーベル賞受賞者を含む多くの研究者が、「このままだと日本の科学力が衰退する」と警鐘を鳴らしているのは有名な話です。
なぜ今、基礎研究なのか
一見、経済安全保障と大学の運営費は関係なさそうですが、実はかなり深く結びついています。
レアアースの新しい採掘・精錬技術
衛星データ解析のアルゴリズム
ゲノム編集やバイオテクノロジーの基盤技術
これらはすべて、地道な基礎研究の積み重ねの上に成り立っています。
短期的に「売上」につながる応用研究だけに偏ると、
10年後・20年後の「日本発のイノベーション」が生まれにくくなり、結局は海外技術に依存する構造から抜け出せません。
首相が「運営費交付金など基盤的経費の拡充」を指示したという報道は、
科学立国としての根っこを立て直す
経済安全保障の土台としての知的基盤を強化する
という意味を持っています。
小野田大臣が「運営費交付金は大学のあらゆる活動の基盤だ」と強調したのも、この文脈に沿った発言だといえます。
4つのテーマをつなぐキーワードは「経済安全保障」
ここまで見てきた4つのテーマを、表で整理してみます。
$$
\begin{array}{|l|l|l|}
\hline
\textbf{テーマ} & \textbf{何の話?} & \textbf{経済安全保障との関係} \\ \hline
南鳥島レアアース & 深海資源の開発・供給 & 資源を他国に握られないための「自律性」確保。 \\ \hline
衛星データ活用 & 宇宙からの観測・データインフラ & 防災・農業・安全保障を支える情報基盤。データの主権を守る。 \\ \hline
ゲノム編集ベビー規制 & 受精卵編集の法的禁止 & 技術暴走を防ぎ、倫理と信頼に基づく技術国家としての信用を守る。 \\ \hline
大学運営費交付金 & 基礎研究・教育の基盤財源 & 長期的な科学技術力=経済安全保障の根っこを支える投資。 \\ \hline
\end{array}
$$
どれも「今すぐ生活が劇的に変わる話」ではありませんが、
5年、10年、20年というスパンで見ると、私たちの
仕事のあり方
使う製品やサービス
医療や福祉の水準
災害への備え
にじわじわと効いてくるテーマばかりです。
これからの日本と、私たちにできること
1. ニュースを「1本の線」で見るクセをつける
レアアース、衛星、ゲノム編集、大学予算──ニュースではバラバラに流れてきますが、
「これは経済安全保障のどの部分とつながっている?」と考えてみると、理解が一気に深まります。
これは「自律性」を高める話か?
それとも「不可欠性」(なくてはならない存在)を高める話か?
あるいは、その両方か?
という視点でニュースを眺めてみると、「日本は今どこに向かっているのか」が見えやすくなります。
2. 「技術の明るい面だけ」を信じない
ゲノム編集やAI、宇宙開発など、最先端技術は夢のある話が多い一方で、
倫理
プライバシー
格差
といった負の側面も抱えています。
「すごい技術だからとにかく進めるべき」ではなく、
「どこまで許容し、どこから禁止・制限するか」を議論することも、民主社会の重要な役割です。
今回のゲノム編集ベビー規制の議論は、その典型例と言えるでしょう。
3. 「基礎研究・教育はコスパが悪い」ではなく「時間差で効いてくる投資」と見る
大学の基礎研究や教育への投資は、「すぐに目に見えるリターンが出にくい」という意味で、しばしば軽視されがちです。
しかし、
半導体
インターネット
医薬品
再生可能エネルギー
など、現代社会を支える多くの技術は、数十年前の「よく分からない基礎研究」から生まれています。
基礎研究への投資は、「将来の自分たちへの仕送り」のようなものです。
すぐには返ってこないけれど、10年後・20年後の暮らしや仕事に確実に影響してきます。

まとめ:経済安全保障の時代に、私たちはどう向き合うか
今回の小野田経済安保相の会見は、
レアアース資源の確保(南鳥島沖の開発)
衛星データ活用の拡大(情報インフラ・宇宙政策)
ゲノム編集ベビーの法規制(倫理と信頼のルール作り)
大学基礎研究費の拡充議論(知の土台の再構築)
という一見バラバラな4つのテーマを通じて、「経済安全保障の時代」に日本がどう動こうとしているかを示した内容でした。
これらには共通して、特定の国、特に中国への過度な依存から抜け出し、自分たちでリスクをコントロールできる状態をつくるという狙いがあります。
レアアースでは中国依存の教訓から自前資源と代替技術を模索し、衛星データでは自国で観測・分析できる体制を整え、ゲノム編集では倫理的な暴走を防ぐことで国際的な信頼を守り、大学の基礎研究では長期的な技術力の源泉を回復しようとしています。
もちろん、どのテーマにも課題は山積みです。
南鳥島レアアースが本当に商業化できるのか、衛星データが地方自治体や中小企業まで使いこなせるのか、ゲノム編集の国際ルール作りに日本がどう関わるのか、大学の現場に本当にお金と人材が戻ってくるのか──すべて、「やってみないと分からない」部分を抱えています。
それでもはっきりしているのは、日本が「他国に頼り切りの経済」から、「自前の資源・技術・データ・知を持ち、必要なところでは同盟国と組む経済」へと舵を切ろうとしていることです。
経済安全保障の話は、決して遠い世界の専門用語ではなく、電気代や通信インフラ、仕事の内容、医療や災害対応といった、数年〜十数年後の私たちの生活にじわじわ効いてくる「未来の設計図」そのものだといえます。
ニュースを眺めるときに、「これはどの依存を減らそうとしているのか?」「自分の暮らしとどうつながりそうか?」と一瞬立ち止まって考えてみる。
その小さなクセが、「経済安全保障の時代」を他人事ではなく“自分ごと”として捉える第一歩になるはずです。

参考ニュース・情報源
日テレNEWS:「【会見ノーカット】閣議後 小野田経済安保相 記者会見」(2025年12月5日)
日本経済新聞:「南鳥島沖のレアアース試掘、26年1月11日から 内閣府が航海概要」
NRI(野村総合研究所):「中国が日本にレアアース輸出規制を導入した場合の経済損失」(2025年11月28日)
厚生労働省・文部科学省合同会議:「ゲノム編集技術等を用いた人受精卵のヒト又は動物体内への移植に関する報告書」(2025年12月4日)
政府宇宙基本計画:「衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース等の実施」
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南鳥島:日本の最東端にある小さな島で、その沖の深海にレアアースを多く含む「レアアース泥」が見つかっている海域。
衛星リモートセンシング:人工衛星から地表や海、雲などを撮影・観測し、そのデータを使って防災や農業、環境などの状況を把握する技術。
衛星コンステレーション:複数の人工衛星をネットワークのように運用して、広い範囲を切れ目なく観測・通信できるようにした仕組み。
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