清洲城|名古屋城から美濃路を辿る。模擬天守と古城跡に残る信長の記憶
名古屋城から清洲城へ。
現在なら大きな幹線道路を使って、車でまっすぐ向かうこともできる。
けれど、この日はできるだけ美濃路の道筋を意識しながら、清洲まで辿ってみることにした。
かつて清洲にあった城下町は、名古屋城の築城に伴って名古屋へ移された。
武士や商人だけでなく、寺社や町の機能まで移された大規模な都市移転。それが「清須越」と呼ばれている。
つまり今回の道のりは、清洲から名古屋へ町が移ってきた歴史を、反対方向へ辿っていく旅でもあった。
名古屋城から、美濃路の細道へ
名古屋城を離れ、美濃路へ入っていく。
旧街道は、現在の幹線道路のようにまっすぐではない。
住宅地の中を細く抜け、右へ左へと緩やかに曲がっていく。
車で走るには少し気を使う道幅だが、その曲がり方に旧街道らしさがある。
道に沿って家々が並び、ところどころに古い町屋を思わせる建物や、昔から続いてきたような軒並みが残っている。
歴史的な建物が連続しているわけではない。
それでも、細い間口の家や、道に近い場所に建つ建物を眺めていると、かつて街道沿いに人や物が行き交っていた町の残り香を感じる。
大きな史跡がなくても、道そのものが過去を覚えている。
美濃路の曲がりくねった細道を車で辿りながら、そんなことを思った。
清洲城に現れる、華やかな模擬天守
やがて五条川の近くに、清洲城の天守が見えてくる。

朱色の橋の向こうに立つ天守は華やかで、戦国時代の城らしい物語を感じさせる姿をしている。
ただし、現在の清洲城は、当時の天守がそのまま残っているものではない。
清洲城をイメージして建てられた模擬天守である。
歴史的な建物ではないと分かっていても、五条川のほとりに立つ姿には強い存在感がある。
現在の清洲を象徴する風景としては、これ以上分かりやすいものもないだろう。
清洲城といえば、やはり織田信長である。
信長は清洲城を拠点とし、尾張をまとめ、やがて天下へ向かって動き始めた。
桶狭間の戦いへ出陣した城としても知られている。
今では穏やかな川辺に立つ天守を眺めながら、この場所がかつて尾張の政治と軍事の中心だったことを想像する。
天守の対岸にある、本来の城跡
現在の模擬天守を見たあと、五条川を挟んだ古城跡側へ向かった。
こちらには清洲古城跡公園があり、信長の銅像が立っている。

華やかな天守とは対照的に、古城跡は静かな公園だった。
信長像は、これから戦国の世へ踏み出していく人物のように、遠くを見つめている。
目の前に立つと、清洲が単なる地方の城下町ではなく、信長の天下取りが始まった場所だったことを改めて意識する。
現在の模擬天守と、本来の城跡。
二つは川を挟んで向かい合うように存在している。
分かりやすく目を引くのは現在の天守だが、城が実際にあった場所に立ってみると、何もない地面の方が想像を広げてくれる。
ここに城があり、その周囲に武士や商人が暮らし、道を人や荷物が行き交っていた。
天守だけではなく、町全体が一つの城郭都市だったのだろう。
古城跡に咲くアジサイ
訪れた時期、古城跡にはアジサイが咲いていた。
信長や戦国時代を思い浮かべる場所に、青や紫の花が静かに咲いている。

かつては兵や馬が行き交ったかもしれない場所が、今では季節の花を楽しむ公園になっている。
戦国時代の緊張感と、現在の穏やかな風景。
その二つが同じ場所に重なっているのが、古城跡らしい。
城郭の建物が残っていないからこそ、季節の風景の中に歴史を想像する余地がある。
堀と道に残る、城下町の形
清洲城の周辺には、かつて城や城下町を守った堀や土塁があった。
現在では、その多くを当時の姿のまま見ることはできない。
それでも、道路の曲がり方や町の区切られ方を見ていくと、城下町の形が現代の町にも残っているように感じる。
堀は埋められ、道や住宅地へ姿を変えた。
城は失われても、地形や道筋まですべて消えるわけではない。
現在の町を歩いたり、車で辿ったりすることで、見えなくなった城下町の輪郭が少しずつ浮かんでくる。
華やかな天守だけを見るのとは違う、土地そのものを読む面白さが清洲にはある。
清洲は、名古屋の前にあった町
清洲城を訪れて感じたのは、清洲が単に信長ゆかりの城があった場所ではないということだった。
ここには、名古屋が大きな城下町になる前の尾張の中心があった。
そして名古屋城が築かれると、清洲の町は人も建物も機能も、名古屋へ移されていった。
清洲が衰え、代わりに名古屋が栄えたというより、清洲の一部が名古屋へ引っ越していったと考えた方が近いのかもしれない。
名古屋と清洲は、別々の二つの町ではない。
一つの歴史を、前半と後半に分けて持っているようにも見える。
美濃路を逆向きに辿った一日
名古屋城から美濃路を辿り、清洲城へ向かった。
車での移動ではあったが、細く曲がりくねった旧街道を進むことで、まっすぐな幹線道路では感じられない旅になった。
街道沿いに残る町屋の気配。
五条川のほとりに立つ華やかな模擬天守。
古城跡に立つ信長像。
そして、その足元に咲くアジサイ。
清洲から名古屋へ町が移された歴史を、今回は名古屋から清洲へ逆向きに辿った。
城も町も大きく姿を変えた。
それでも、美濃路の細道と清洲の地形には、かつて尾張の中心だった町の記憶が残っている。
道は、歴史を語らない。
けれど、曲がりくねったその道を辿ってみれば、消えた町の輪郭が少しだけ見えてくる。
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