【魔族な俺ですが、人間達と仲良く暮らしても良いですか?#18】
これが彼等なりの終わり方
■あらすじ
かつて魔王ザナグルを討った魔族の剣士レオルは、孤独に生きていたが、ある日「誰も見捨てない」という信念を胸に新たな仲間たちとパーティーを組む。
魔女のミレニム、陽気な格闘家ジュラ、冷静な斥候ハクロ、癒しの元エルフ・エルフィ、ホムンクルスの少女グレイシャ――それぞれの過去と痛みを抱えつつも、「家族」のような絆を育んでいく。
世界には“星落とし”という滅びが近づき、異界からの災厄・ザインが襲来。ザインは炎翼の魔神へと変貌し、王国を壊滅寸前まで追い込む。人間と魔族の垣根を越えて力を合わせる中、レオルは魂を代償に“闇帝アヴィス”と契約し、龍神の力を得て立ち向かう。
魂を削る選択に葛藤する中、仲間や王国の人々がレオルに力を託したことによってザインを撃破し、王国に日常が戻りつつあった……
■登場人物紹介
【冒険者パーティー】
レオル(Leol)
かつて魔王ザナグルを討った魔族の剣士。
それからは孤独を貫いていたが、仲間たちと出会い「誰も見捨てない」という信念を持つようになる。
今では「家族」を守るため、魂を代償に未知の力“アヴィス”を受け入れ、龍神の姿へと変貌しザインを撃退した。ミレニム(Millenim)
人間の魔女で、レオルの参謀役。戦術と魔術の実力は高く、冷静沈着。
レオルに想いを寄せ、時には命を賭けて彼と仲間を支える存在。
作戦や陣術に長けた知性派でありながら、情にも深い。ジュラ(Jura)
陽気で豪快な格闘家の少女。
情に厚く、仲間のためなら命も惜しまない。
気の技と体術を駆使し、最前線でザインに挑んだ勇敢な拳士。ハクロ(Hakuro)
冷静沈着な獣人の斥候。索敵や戦術支援に長ける実務派。
料理や日常の管理も担い、仲間の縁の下の力持ち的存在。エルフィ(Elfi)
魔力を失った元エルフの少女。支援魔法と癒しを担当。
レオルに淡い恋心を抱きながら、彼の言葉に救われ、自身の価値を見出していく。グレイシャ(Gresia)
兵器として生み出されたホムンクルスの少女。
レオルを父と慕い、人の心を学びながら成長中。
“家族”の意味を知り始めている
【仲間・支援者たち】
ゾラ(Zora)
レオルの影に宿る古の魔族。魂魄術・精神干渉に長けた賢者。
冷静に見守りつつ、レオルの変化を注視している。リン(Lin)
次元収納と“勇者”のスキルを持つ少女。
過去の傷を乗り越え、「黒の勇者」として覚醒。
レオルたちとの絆を通じて、神に背いてでも仲間を守る道を選んだ。ホロ(Horo)
リンの弟分で病弱な少年。
リンの中にある優しさと決意の象徴でもある存在。リゼル王女(Lizel)
理知的な王国の第一王女。国と人々を守るため、現在はレオル達を支援する。
【敵対勢力】
ザイン(Zain)/炎翼のザイン
異界から来た災厄の魔族。“星落とし”を発動し魂を喰らう魔神。
本来の姿は「炎翼」と呼ばれた破壊の化身で、王国を壊滅寸前まで追い詰めた。エレクチュア(Erekutua)
ザインに仕えていた半魔族の少女。
レオルに心を寄せ、リタとの出会いを経てザインに背く。命を賭して少女を救い、現在はソフィアの力で一命を取り留める。ルルリエ(Lulurie)
傘を携えた謎多き魔族。
“虚実反転”の力と観察者的な立場を持ち、ザインにも一目置かれていた。ノワール(Noir)
冷酷無比な暗殺者。ジュラと因縁を持ちながらも、ミレニム救出する。オルト商会
魔族・妖魔を売買する地下組織。現在は、レオルと一時休戦中。ヴァルトラム伯爵
王国の腐敗貴族。レオルを追放に関わった張本人。
【その他の存在】
ルミエル(Lumiel)
神造の天使人形。 今は人間たちと共に戦い、レオルのことを認めている。リタ(Rita)
雑貨屋の娘。エレクチュアの心に人の温もりを灯した少女。
その想いが、ザインへの反逆と世界の運命の一端を動かした。アヴィス(Abyss)
スキルの具現として現れた少女。レオルと契約を結び、彼の力を“龍神”へと変貌させた。
その正体は“闇帝”の分体であり、魔族の本質を問う存在。
これが彼等なりの終わり方
「ただいまー……」
ミレニムが無人のギルドハウスに、挨拶をして入ってゆく。
追われるように、ここを脱出して一日半。
中がどうなっているか、確かめるのが怖くはある。

レオル達は、ザインとの闘いの終わった翌朝、ギルドハウスに、戻った。
扉がまず穴だらけ、窓は何枚か割れたままで寒風が入り込んでいる。
中に入ると、ヴァルトラム伯爵の私兵達が荒らした跡がそのままに、家具がひっくり返され、床が泥で汚れていた。
「……思ったより、ひどっ!?」
ミレニムがふらふらと、ソファに寄りかかる。
「姐さん、ここは俺がやっておきます……まず、休んでください」
ハクロが、倒れた椅子を直す。
エルフィとグレイシャも、台所の方を片付け始める。
「……ミレニム、ちょっと僕も休むよ。さすがにいろいろと疲れた……」
ジュラが、こんなこと言うのは、初めて聞いた気がする……
レオルが手を貸そうとすると、ジュラが手をヒラヒラさせて、それを断る。
ソファの埃を一度だけ払うと、彼女は倒れ込むように身を預けた。
「……レオルさんも休んでください。ジュラさんも二階で休んだほうが、疲れがとれますよ」
台所から、エルフィの心配そうな声が、届く。
「……ちょっと無理、動けないよ……」
リンが、窓ガラスの破片を拾う。
「何か、酷いよね……この国を助けたのに、こんな……」

「リン、お前も休んでおけ」
「あれだけ勇者のスキルを連続で使ったのだ……気が緩むと倒れるぞ」

レオルの影から現れたゾラが、2階の方を指さす。
ザインを倒した後、レオルは元の姿に戻り、アヴィスは彼の中に引っ込んでいった。
『選ぶ相手を、間違えた、間違えた?』
『でも、面白かった、楽しかった?……私は、楽しかった』

アヴィス曰く、アヴソーヴで吸収した以上に、エネルギーを使いすぎて底をついたから、暫く休息するとのこと……
本来なら、ギルドなりに報告するべきなのだろうが、もうレオル達も限界を迎えていた。
リンの次元収納から、エルフィ達を呼び戻した後、全員の意見の一致でギルドハウスに戻ることになった。
あと一つ懸念があるとすれば、レオルの件が公になったことがある。
正直、この国の反応が怖いということがある。
ザインとの戦闘時は緊急時ということもあり、レオルが魔族ということには目を瞑ってもらったのかもしれない。
だが、冷めて現実に戻った時、王城や街の反応はどちらに傾くか……
攻めて来たのも魔族、守ったのも魔族……
受容か排除か、どちらに天秤が傾くか、余りにも危ういものがある……
「リン、2階の踊り場使って……本棚とか椅子の置いてあるところ」
「そこに、次元収納の村の入り口、固定していいから……」
ミレニムがリンが疲れて、考えが嫌な方向に行きそうになる前に、話を逸らす。
「ミレニム、こんな時まで気を使わないでよ」
「大丈夫、変な方向に流されないから……ホロ達にも、片付け手伝って貰うから、踊り場借りるよ」
片付け始めて少し経った時、壊れた扉が遠慮がちにノックされる。
「……ミレニム、さん」
リゼルだった。いや、リゼル第一王女というべきか……だが、今は一介の冒険者のような格好をしている。

後ろに女騎士を一人控えさせている。
いつもの無表情とは違い、少しだけ柔らかな雰囲気を漂わせていた。
「……お疲れのところ、申し訳ありません」
「一言、国を代表して御礼と謝罪を伝えるべきと思い、急ぎ参上いたしました」
リゼルが深々と頭を下げる。
「本来なら、国王から直接申すべきところなのでしょうが、病床の身ゆえ何卒ご容赦ください」
……ものすごく、喋るな……
ミレニムが最初に思ったことは、不敬にもそれだった。
彼女が身分を隠して、森などに同行していた時は、ん、とか、ン、とかしか返事が返ってこなかった。
「リゼル王女、頭を上げてください」
「こちらの冤罪を晴らすことに御助力いただいたこと、深く感謝しております……取りあえず、お座りになりませんか、その散らかっておりますが……」
削り出しのいつものテーブルを指し示す。
王女は軽く頷くと、近くのソファで寝ているジュラを一瞥した後に、椅子をひく。
「……後で、こちらを修繕するように王家御用達の職人を手配しておきます」
「……今回は、お言葉に甘えさせて頂きます。正直、手が回らないので」
「レオル、少し付き合って」
ミレニムがレオルに隣に座るよう促す。
「リゼル王女、魔族が同席するのは構わないだろうか?」
入り口の所に立つ女騎士に反応はない。魔族だから、どうこうということはないのか。

「レオルさん、ですね……うちのルミエルがいろいろとご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありませんでした」
「あの子も反省は、……してないかもしれませんが、言い聞かせておきますので、何卒ご容赦ください」
……母親みたい……
ミレニムは、彼女がルミエルのことで、これまで相当各所に謝りまくっているだろうことが容易に推測できた。
「ルミエルには、こちらも随分と危ないところを助けてもらっている……謝る必要はない」
「ありがとう御座います……貴方に改めて感謝を」
「ルミエルが、魔族である貴方を褒めていました。あのルミエルが、他の人を褒めるなんて、滅多にないんですよ」
「……あと、貴方が魔族であること自体に、私は何も含むところはありません」
「貴方は貴方、私達人間を護っていただいたこと、決して忘れません。それは、この王国の全ての人間も、同じであると私は信じます」
「全て、か……それを言葉通り信じても、良いのだろうか」
レオルが、珍しくもほんの少しだけ弱気を声に出す。
「貴方の闇帝に対する言葉を聞きました……ミレニムさん達のこともそうですが、この国のことも大変好いてくださっている」
「それに、私達のことを強いとも……人間を甘く見ないで下さい。あなたの本質は善です……それを見間違えるほど、私達は愚かではないのです」
「街に被害がでないように立ち回って下さったことも、分かっています。どうか……私達の国を嫌わないで下さい」
……どうか、この国で大切な方たちと末永くお過ごし下さい、と……
静かに、レオルを見つめる王女の瞳には、確かな意思があった。
また、そこにはレオルの力を利用するという意図はないように思われた。
リゼル王女は、ナルディア公女とは違った意味で高潔な人物であるようだ。
「……レオルに、何も追及することはない、とそうとってよろしいのでしょうか?」
「はい」
「……それで、あの、ミレニム」
リゼルが、少し言い淀む。
「なんでしょう?」
「依頼、また出しても、よろしいでしょうか?」
「……いつでも、どうぞ……リゼルさん」
ミレニムは、それに微笑むことで答えとした。
リゼルは、もう一度深々と頭を下げて退去していった。
エレクチュアのことも、不問にすることは確約してもらった。とりあえずの安全は確保できたとみていいだろう。
それから、1時間もせずに職人達が現れた。ローナと名乗ると、早速ギルドハウスの中をざっと見渡す。

「まず、窓とドアを総取っ替え、床も鉄靴で大分荒れてるね」
「削りと、剥がし両方……みんな、すぐに取り掛かんな!」
「ここの皆さんは、国を救って、お疲れだ!……腕の見せどころだよ!」
ミレニムに軽く挨拶した後、窓を外して新しいガラスを嵌めたり、枠自体を取り掛かえたりと、手早く取り掛かってゆく。
細身な見かけに反して、なかなかに豪快な物言いをする。
「あの……まさか、こんなに早く……」
「いいんだよ、王女様から、何をおいても、急いでやってくれ、と言われてる」
「今や王国の職人は引っ張りだこさ。今日やらなきゃ、三か月は先になっちまう」
「おい、そこ、新入り!ガラスは表に置いてあるウルメタル粉をまぶしてあるヤツを、切り出して使いな!そいつは、この後の客に使うヤツだ、間違えるな!」
「はい、すみません、すぐに!」
……あれ、何か……?
職人が、ミレニムにウインクする。
ノワールだ。いつもフードと黒い服を身に着けているから、分かりにくかったが……なぜ?
「万が一の護衛です。今日ばかりは、ゆっくりしてください」

ミレニムの横を通り過ぎる時、彼女だけに聞こえる声で言い残す。
……王女から、お代は貰っています……とも。
「アンタ達のおかげで、こうして仕事が続けられるんだ……ありがとよ。こんな嬉しいことはないさ」
ローナが、作業を終えたあと声を掛けてきた。
「そっちが、例の魔族の兄さんかい……確かに、人間にしか見えないね」
「アンタ、いい仕事するね。あれだけのことがあったのに、死人が出てやしない」
「あり得ない手際だよね、全く……惚れ惚れするよ」
ローナの細腕と思えない力が、レオルの肩に叩きつけられた。
「なあ、魔族の兄さん、この国にいてくれて、ありがとな」
「父ちゃんから継いだ店、焼けずに済んだ、無くさずに済んだ……本当に、ありがとう」
ローナが、深々と頭を下げた。
「……」
レオルが、戸惑った顔をする。
あれだけ、ザインや闇帝に気後れしなかった彼が、一人の人間の誠意にどう応えたものかと戸惑っている。
「……ほら、そんな困った顔しない!」
ミレニムも、レオルの背中を叩く。
「誇りなさい、レオル……あなたは、それだけのことをしたの!」
「お前達がいたからこそだ。俺ひとりでは、無理だった」
レオルが穏やかな顔で、ミレニムを見る。
ぱん、と手が叩かれる。
「はいはい、ごちそうさま……ま、ゆっくり休んでくれ」
「じゃあな……魔族の兄さん」
ローナは、扉を後ろ手に閉めて出ていった。
「レオル……エルフィが、お茶淹れるって言ってるけど……」
レオルが、腕を組んだままソファで、いつの間にか寝込っている。
向かいのソファで寝ているジュラもまだ、眠ったままだ
……大工仕事でそれなりに音が出たはずだけど……
……ニヤけちゃって……どんな夢、見てるんだろ……
ジュラが、何処か幸せそうな顔をしている。

暖炉の火が温かい……
……これ、ぐらい……いいよ、ね……?
ミレニムが、レオルの横座る。
ソファがわずかに沈み込んで、身体がレオルに触れる。
……なんか、あったかい、ね……

「パパ、ミレニム……?」
「しぃですよ、グレイシャさん……休ませてあげましょう……毛布、持ってきます」
エルフィがグレイシャの背中を押して、2階に上がっていく。
「……本当に、お疲れ様でした……いい夢、みてくださいね……」

穏やかで暖かな時間が、確かにそこに流れていた……
